66666打



六さんキリ番66666打
リクエスト『エミーゼルがメインの方々に愛でられるような話』



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「−−以上、ヴァルバトーゼ様からの言伝となります」


役目を果たした悪魔は纏った黒衣をふわりと広げ、深く頭を下げるとこちらが声をかける間もなく黒い影となって溶けるように床へと消えてしまった。

これに対して言伝を受けた死神族の少年−−エミーゼルはううんと小さく唸ることしかできなかった。

−−至急、事務所に来るように。
先ほどの悪魔から伝えられた内容はただそれだけ。本当にこれだけだった。
この一言を伝えためだけにわざわざ妖霊族最上位クラスを伝言役に使うか?普通は使わないだろ。いや、でもヴァルバトーゼだしなあ…。

首を傾げつつもヴァルバトーゼからのということもあり、エミーゼルは愛用しているパーカーに腕を通すと気部屋を出た。


「ヴァルバトーゼのヤツ、僕にどんなようがあるんだろう」


急に呼ばることは何度かあったがどれもこれもムチャクチャな内容だったのを覚えている。

今回こそ変な内容じゃありませんようにと祈りつつ、目的の部屋の前に辿り着いたエミーゼルはノックと共に一声かけ、その扉を開ける−−と同時にパパンと弾けるクラッカー音と拍手に見舞われ、ぎょっと身を固まらせることとなった。「「「「エミーゼル、誕生日おめでとう!」」」」


甲高かったり低かったり、中には言葉ではなく鳴き声だったりとそんな様々な声たちがエミーゼルの耳をびりびりと震わせた。

ぽかんとした表情のエミーゼルはふと「あ、今日は僕の誕生日だったのか」と思い出す。
なんせエミーゼルたち悪魔は人間とは違い、祝うとたら実質百年に一回だ。
場所によっては一才歳をとるごとマメに祝う家庭もあるかもしれないが、基本的には悪魔らしい「面倒くさい」という理由から一々祝うことはしない。

それに人間のように必ず祝うわけではない。これは種族や個人の性格にもよるが、悪魔は家族愛というものがさほど高くなく淡白な家庭が多い。

それにしても−−こんなに大々的に祝われたのは久しぶりかも。

エミーゼルはぼんやりと思い出す。でも、あれは心から祝われたものかと聞かれたら、今なら首を横に振れる。
大統領の息子だから形だけ祝った。そんなつまらないものだったからだ。


「ほらほら坊ちゃん、そんなとこに突っ立ってないでこっちに来てくださいよー!」


アクターレのテンションの上がった声に我にかえったエミーゼルは自分よりも大きくて思っていたよりもややごつごつとした手にぐいっと引っ張られ、つまづきそうになりながら賑やかな部屋に足を踏み入れた。

室内には馴染みのある顔ぶれからなんとなく見覚えのある悪魔、それから全く見知らぬ悪魔までとびっくりするほどたくさんの悪魔たちでごちゃついていた。


「フッフッフ、誕生日と言えばプレゼント…。一番手はこの俺様がいただいた!俺様からのプレゼントはこれだー!」


いつにも増してテンションの高いアクターレがじゃじゃんと得意げな様子で渡してきたのは長方形の白い箱。

変なものでも入れてないよなと警戒しながら箱を開けてみれば、そこには思っていたものとは違いとてもまともな物があった。


「へえ、万年筆かあ」

「持っていて損はないでしょう? 将来、坊ちゃんもお父様と同じような職につくのなら−−」


べらべらと話し出すアクターレに気が早すぎやしないかと思ったが、口には出さずにおいた。


「さささ、ワタシたちからはこれよ!」

「サイズはご心配なく、ちゃあんと着れますことよ」

「デスコたちの力作なのデス、ありがたく着るデスよ!」


ぐえっと苦しげな声をあげたアクターレを無視し押しのけた女子三人はエミーゼルの胸に紙袋を押し付けた。

乱暴だなあと思いながら、がさりと紙袋のなかに手を突っ込んでフーカたちからのプレゼントを取り出す。
カフェオレ色のそれは−−洋服だ。きれいに畳まれたそれを広げ、エミーゼルは凝視した。

「ふふ、寝子猫族を模して作ってみましたの」

「男の子でも似合うキュートでラブリーなパーカーなのデス!」


猫耳つきのフードに鈴の形をした丸く黄色いチャック、それからフードの口周りと袖にはクリーム色の柔らかなファー。
寝子猫族の愛らしさを損なうことなく作られたそれは、寝子猫族を愛でる魔族がみたら「一刻もはやく市販するべきだ!」と口をそろえて言い出してもおかしくないくらいに良い出来だった。

小さな女の子が着たらそれはもう大層かわいいことだろうが、これを着るのは僕だ。もっとこう、違うデザインがあったんじゃ……。

そう視線を目の前の三人組におくるがほこほことした暖かみのある笑顔しか帰って来ず、エミーゼルは棒読みかつカタコト気味に感謝の言葉を述べるしかできなかった。
それはもう、素晴らしいほどに笑顔だったのだ。


「さあ、オレたちエミーゼル坊ちゃんを心から応援するの会一同からはこれを贈るッスよ」

「誕生日といったらこれがなきゃ始まらないッス!」

「ささ、遠慮なく開くッスよー」


僕を応援する会なんてものがあったのか、全く知らなかった。
そう呟くエミーゼルが知らないのも無理はなかった。

それは所謂隠れファンクラブというものであったし、純粋に応援している者もいるがそれ以上にエミーゼルが可愛すぎて生きるのが辛いという少々不純粋な輩のが圧倒的に多く−−いやこれ以上は何も言うまい。

さあさあ早くと急かされたエミーゼルは箱に手をのばす。プリニー三匹掛かりで持たれた大きな箱から現れたのはフルーツをふんだんに使った飴細工のバースデーケーキ。

色とりどりで華やかなケーキを前にエミーゼルは思わずわあっと声をあげ、目を輝かせた。
その様子にプリニーたちは嬉しげにはしゃぎくるくると踊りだす。


「いやー会員のなかに飴細工のできるプリニーがいたとわかったときは驚いたッス」

「お菓子作りの好きなヤツが多くて助かったッス。坊ちゃんに喜んでもらえてオレたちものすごい嬉しいッスー!」


これを機に他の悪魔たちも次々とエミーゼルにプレゼントを渡しはじめていった。

たまに、なぜだか握手や写真を求められたが悪い気もしなかったのでエミーゼルはそれらに応えてやった。
奇声のようなものを上げ、わなわなし始めた悪魔を見た時は正直いって怖かった。

そんなこともあり時間はかかったが、エミーゼルにプレゼントを渡すのは残すところヴァルバトーゼとフェンリッヒの二人となった。


「ふむ、最後は俺たちか。俺からはこれをやろう」


ヴァルバトーゼから渡された黒く小さな箱の中から現れたのはきらりとつやつやに輝くシルバーリング。


「左手の親指、もしくは右手の親指にはめるのがいいらしいぞ」


人差し指でも良さそうだなと呟きながらも満足げな表情で告げると、ヴァルバトーゼは居心地悪そうに突っ立っているフェンリッヒをエミーゼルの前に押し出す。

しかめっ面のフェンリッヒの手には長細い木箱。
押し付けられるかたちで受け取ったそれからは不思議な魔力を感じる。

何が入っているのだろうと恐る恐る木箱の蓋を開けてみれば、そこには黒々とした木の皮と細くしなびたオレンジ色のグラデーションがかかった白い葉のようなものが収まっていた。


「もももしかして、これって!」

「……探してたんだろ、さっさと受け取れ」


確かに探してはいたけど、なんで知ってるんだろう。これ、簡単に手に入るものじゃないはずなんだけどな……。

図鑑のなかだけでしか見たことのない妖樹族最上位クラスのそれを見つめ、不思議に思いながらもエミーゼルは素直に受け取ると小さい声ながらもありがとうと口にした。

それに対しフェンリッヒはふんと息を吐く。そんなフェンリッヒにすかさずフーカが近寄って「やだーフェンリっちったら照れてるのー?」とにやにやとした顔で言えば「やかましいわ!」と不機嫌な声で怒った。


「こほん、では改めて皆で言うぞ」



(エミーゼル、誕生日おめでとう!)




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メインの方々からという点からややずれてるけど愛されちゃってることにはちがいない系エミーゼルでした。

執事のプレゼントは他魔界からのもの。妖樹族って無印にしか登場してなかったはず。多分。
途中、聖竜族が2にも登場していたのを思い出し、急遽聖竜族から妖樹族に変更したなんて裏話が。

それではリクエストありがとうございました!

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