春杉さんキリ番51000打
リクエスト『ディスガイア4で女子達に愛でられる(?)ヴァルバトーゼに、女子達に嫉妬する男子達みたいな話』
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「ねえねえ、ヴァルっち! ゲヘナの海限定のプリンゲットしたんだけど一口食べてみない?」
「聞いて下さいヴァルっちさん。デスコ、新しい技を習得したのデス! 見て欲しいのデス!」
「あの、吸血鬼さん。良かったら今度、一緒に練武山に行きませんか? 手合わせをしていただきたくて……」
そのほか魔法使いや戦士に僧侶にアーチャーに盗賊、以下略の多数の女子達に囲まれるヴァルバトーゼ。
−−フェンリッヒが離れた瞬間に、こんなことになってしまった。
眉を下げ、キョロキョロと辺りを見回すがフェンリッヒの姿はない。
その姿を遠く物陰から覗きみている人物が二名−−エミーゼルとフェンリッヒだ。
実はこの二人の更に後ろの物陰に多数の野郎共、通称後援会(別名ヴァルバトーゼファンクラブ)所属の男悪魔たちが隠れている訳だが、そちらのほうは放置させてもらおう。
「クソッ。少し傍を離れた結果がこれとは……あ、こらヴァルバトーゼ様にプリンなんて甘いものを喰わせるな。新しい技とか知るかさっさとあっちへ行け。一人で練武山に行って落命しろ。寧ろ全員修羅の国で落命しろ」先程から舌打ちが絶えないフェンリッヒの機嫌は最高に不機嫌極まりないものだった。
ヴァルバトーゼの傍に戻る機会を窺ってはいるものの、フェンリッヒは戻るタイミングを完全に失っていた。
そして、主君に群がる女共が邪魔で邪魔で苛々しすぎたせいか彼のセリフの最後に何か物騒な言葉が聞こえたような気がしたが−−それはきっと気のせいだろう。
その唇を噛み女達を睨む男の横ではエミーゼルがゲヘナの海限定のプリンを羨ましげな眼差しで見つめていた。
「プリンいいなあ……じゃなくて、ヴァルバトーゼにあんなに積極的に話しかけられる女子たちが羨ましい−−はっ、ボクは今なにを思ったんだ!?」
「プリンはどうでも言いが−−ってああ、閣下に抱き付くな小娘共!」
「あれれ、ヴァルバトーゼのヤツちょっと嬉しそうじゃないか? な、なんだろう。胸がちょっとむかむかする……ような気が」
戸惑うエミーゼルの隣ではフェンリッヒが顔を赤くさせたり青くさせたりと忙しいそうにしていた。
そして、エミーゼルの肩を柄にもなく優しく叩いた。
「おい小僧、今こそお前の出番だ」
「え、ボク?」
「正々堂々でも不意打ちでも構わん、お得意の魔法を女共に向かってぶちかましてこい。ほら、さっさとやれ」
フェンリッヒは無駄に爽やかに笑って言い放ったが、肝心の目が笑っていなかった。目が笑っていない笑みほど恐いものはない。
それに対し、嫌だと首をぶんぶんと勢いよく横に振るエミーゼル。そんなことを言われても誰だって嫌だろう。
それに、集団化した女たちは恐ろしい力発揮する−−その恐ろしさを知っているエミーゼルには魔法を唱える勇気はなかった。
「この、使えんヘタレめ!」
「ヘ、ヘタレって言うなー!」
フェンリッヒとエミーゼルが物陰で小声で言い合う。
その間にも、女子たちはフェンリッヒがいないのをいいことに各々ヴァルバトーゼに話かけていた。
「是非とも私に剣術を!」
「それよりアイテム界に行きましょう!」
「私、ヴァルバトーゼ様の為にチバ産のイワシを手に入れましたの」
「腰が細くて羨ましいわ!」
「手相占いとかやってみませんか?」
「最近お疲れでしょう、マッサージなど如何でしょうか」
「ヴァルバトーゼ様の好きなタイプが知りたいです」
「ヴァルバトーゼ様、写真を撮らせてください!」
「この服、私が作ったんですけど試着お願いできますか?」
「髪の毛さらさらですねっ」
「わっ、肌綺麗なんだけど!」
「ヴァルバトーゼ様ってお酒弱いのかな、強いのかな」
「ちょっと私にも触らせなさいよ!」
「ぴちぴちお肌の秘訣が気になります」
一部おかしいセリフが混ざっているが、当のヴァルバトーゼはフーカの持っているゲヘナの海限定プリンに興味を示していたため詳しく聞いていなかった。
イワシばかり食べている男とはいえ、かの有名なゲヘナの海限定プリンの存在には前々から気になっていたのだ。
じっとプリンを見つめるヴァルバトーゼの視線に気がついたのか、フーカは機嫌良く笑うと持っていたスプーンでプリンを掬った。
「ほらヴァルっち、あーん」
「む、むぅ……」
目の前に出されたスプーンに、ヴァルバトーゼは小さく唸る。
人に食べさせてもらうということに抵抗があるらしい。
しかし、目の前にはぷるりと揺れる限定プリン。
そこら辺に売っている安いプリンやちょっぴり値の張るプリンとは訳が違う、ゲヘナの海限定かつ一日に販売される数も限られた魅惑のプリンなのだ。
葛藤するヴァルバトーゼの前で、魅惑のツヤツヤボディを存分に見せつけてくるゲヘナのプリン。
だが、それも長くは続かず誘惑に負けたヴァルバトーゼは思い切って口元に運ばれたスプーンにぱくりと食いついた。
この時、フェンリッヒが「閣下ー!?」と悲痛なな叫び声をあげようとしてエミーゼルに口を塞がれていた。
そのそばを通りかかったプリニーから、変な眼差しで見られていたことには二人共気付いてはいないだろう。
「…うまい」
「そうでしょそうでしょ。あと一口くらいならあげちゃうわよー」
「あああっ、おねえさまったら狡いのデス! デスコもあーんさせたいのです!」
「フーカさん、その役、私に譲っていただけませんこと?」
思っていた以上に美味しかったようでヴァルバトーゼは顔を綻ばせた。
その姿に女達がきゃーきゃーと騒ぐなか、物陰組はわなわなと震えていた。
「閣下、お願いですから無防備な笑顔を晒さないで下さい……」
「ななな、なんだよあのヴァルバトーゼの幸せそうな顔っ」
「ダメだ、もう我慢ならん。閣下の身体にべたべたとむやみやたらに触れるなど許されないことだ……!」
「お、落ち着けってフェンリッヒ!」
その時だった。
「うわあああ俺だってヴァルバトーゼ様に話しかけたいあーんさせたい抱きつきたい髪の毛に触れたい女の子たちが羨ましい妬ましいやっぱり羨ましいいいい!」
ノンブレスでとんでもないことを叫びながら一人の男戦士が女子の輪に向かって走り出した。
言わずもがな後援会の悪魔であるが、勇ましく駆け出していって直ぐに悲鳴を上げて床に倒れ伏した。
どうやらヴァルバトーゼのすぐそばにいた魔法使いの少女が放った魔法−−メガウィンドが直撃したらしい。
戦士を戦闘不能の状態にした少女はといえば、何事もなかったかのようにヴァルバトーゼに話しかけていた。
その光景に、エミーゼルは引きつった表情で身体を震わせた。
「なあ、フェンリッヒ。今の……みたか?」
「ああ、戦士が一瞬で犠牲になった場面をな。だが、オレは行くぞ」
「え、ま、待てって!」
今出て行ったら確実に魔法の餌食だぞ!
エミーゼルがそう口にしようとしたその瞬間、メガよりさらに上位のギガ系−−よりによって弱点の属性の魔法がフェンリッヒを襲った。
先程の少女とは違う別の魔法使いが放ったらしい。
「フェ、フェンリッヒ!?」
戦士の犠牲には気がつかなかったヴァルバトーゼだったが、氷柱の出現に驚きそれをくらった人物がフェンリッヒだと知ると一目散に駆け寄った。
「な、何だ今の魔法は! とにかくフェンリッヒよ、全く大丈夫じゃなさそうだが大丈夫か!?」
「ええ、これくらい平気ですのでご心配なく」
どう見ても重傷です。
それなのに、笑ってそう言ってのけるフェンリッヒ。あちこちから出血しているフェンリッヒの姿は軽くホラーだ。
その姿にヴァルバトーゼの心配と不安は増すばかり。
とにかく血を止めなければと慌てるヴァルバトーゼ。状況が状況なだけにフェンリッヒのことしか頭にない状態だった。
−−どうだ女共、羨ましいだろう!心の中でそう叫ぶフェンリッヒ。実は、あえて攻撃を避けなかった。
怪我を負ったのに何故か勝ち誇った−−気のせいか微かに嬉しそうな表情混じりのフェンリッヒに、ヴァルバトーゼは首を傾げた。
自分一人ではどうにもできないので、助けを求めようとフーカ達に顔を向けたヴァルバトーゼだったが、女子一同何やら不満そうにこちらを見つめていた。
ちりちりと浴びせられる視線のせいでどうにも声が掛けづらい。
「お前たち、一体何があったというのだ……?」
ヴァルバトーゼの問いに答えた者は誰一人いなかった。
(こっち向いて!)
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リクエストに微妙に沿えてない感が……きっと気のせいです。嫉妬と言うよりも、ちょっとした取り合いっぽい話になってしまったような。
あーんとかけしからん!
と悲痛な叫びと共に思いながら実は自分もやりたいとか思っている執事Fさんがいたりします。
それではリクエストありがとうございました!