ビームな関係



とある地獄のお話、そこには立派なラスボスを目指すべく日々勉学に励む少女がいた。
彼女の名前は最終兵器DESCO−−皆からはデスコと呼ばれている。

現在、デスコは正しいビームの出し方を学ぶべく魔界図書館から借りてきた「先手必殺! アホにはわからないビームの出し方!」というタイトルの分厚い本を開いているのだが、ビームの出し方というものは思っていたよりも豊富で、正直なところデスコにはどれがラスボス向けの正しいビームなのかよくわからなかった。

そこで、デスコはその手のことに詳しい人物から話を聞くことにした。


「ロボットじゃなくて生身でのビームですか? そうですねぇ……ビームと言ったら目からですよ、目!」


正統派は目からなんです。正義の味方も怪獣もラスボスも目からビームにきまっています!

そう熱く語りながら拳を振り上げるのは天界でも魔界でもここ地獄でもちょっとした変わりものとして知られている天使長フロン。
フロンは時々、同じ天使であるアルティナの様子を見にこっそり天界から地獄に降りてくる。デスコはそれを知っていた為、聞くことが出来たのだ。


「…あ、そうです! 目からビームといえばゼタさんがいるじゃありませんか! ほら、魔王のゼタさんですよ。あの方のビームはビュイーンって遠くまで伸びて破壊力とか色々とすっごいんですよー」


ああいうのって本っ当に憧れちゃいます。是非とも、私の造ったグレートフロンガーXに欲しい能力です!

何かのスイッチが入ってしまったらしく、眼を爛々と輝かせはじめる天使長フロン。
そんな彼女の好きなものは愛と勇気、それからロボットや変身、あと特撮アニメ。自らロボットを−−超合金ロボ、グレートフロンガーXなるものを造ってしまうくらいのレベルなので興奮するのも無理はない。

拳をわなわなと震わせ心に熱い炎を灯し、さら語りはじめようとするフロンからデスコは数歩後ずさると、フロンの言う正統派ビーム使い手とされる魔王ゼタのもとへと向かったのであった。








「−−ということでゼタさん、正しいビームの出し方を教えて欲しいのデス!」

「何故我なのだ! それに、貴様は既にビームが出せるだろう!」

「あれじゃダメなんデス!」


勇者はこれでイチコロなのデス! と敵を愚民共呼ばわりしながら放っていたあれは何だったのだ。今時の子供悪魔(デスコは生物兵器だが)は意味が分からん!

足元でぴょんぴょんとジャンプしながら訴えてくるデスコの姿に、ゼタは疲れたような溜め息を吐いた。
デスコから引き下がる気配が全く感じられないからだ。


「ゼタさんはフロンさんのいう正統派ビームが使える悪魔さんなのデス。デスコはちゃんとした正統派ビームを習得したいのデス!」


まあ、確かに目からビームを出す人物はデスコの知っている限りでは魔王ゼタくらいだろう。
ヴァルバトーゼやフェンリッヒにフーカ、それからエミーゼルとアルティナが目からビームを出しているところなんて見たことがない−−というかまず出来ないだろう。

もしかしたら出来るのかもしれないが、あまりその姿を見たいとは思わない。

両手を胸元で固く握りしめ、キラキラとした眼差しで見上げてくるデスコにゼタは唸った。
剣術指南を求めてくる悪魔はいたが、ビームの出し方を求めてくる悪魔は一度としていなかったからだ。


「お願いします、ゼタさん!」

「断るッ!」

「そ、そんなぁ……。速攻で断らなくてもいいじゃないデスか!」

「断るものは断る。以上」

「ううっ、デスコは立派なラスボスになりたいのデス。そのためにビームを覚えたいのデス!」


ラスボス、という言葉にゼタの眉がピクリと反応する。


「お前みたいな子供がラスボスになるだと?」

「そうです、デスコはラスボスになりたいのです。いつか世界一……いえ、宇宙一のラスボスになるのがデスコの夢なのデス!」


デスコのその大それた望みにゼタは「ラスボスか」と呟くと少しばかり感心を示した。そして−−


「まあ、いい暇潰しにはなるか。よし、この宇宙最強の魔王である我にまかせるがよい!」


ゼタが胸を張り言い放つと、相当嬉しかったのかデスコはきゃあっと喜びの声を漏らし両手をあげた。

−−そういえば、知り合いの魔王にラスボスで有名とか言われていたヤツが居たな。
この子供はラスボス志願なことだし、後で会わせてやるか。

言葉に出さすひっそりと心の中で呟くと、ゼタは新しくできた小さな弟子の姿に目を細め、ふっと笑った。


(まあ、こういうのもありだろう)




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