※学パロ




流れでと言ってしまえば聞こえが悪いが、好きとかそういう類の言葉の本当の意味を理解しないまま、付き合い始めたコイツを見下ろす。
俺より頭一つ分はゆうに低い位置で、朝日に当たって光る髪が揺れた。
春と夏の間の半端なこの季節、新緑が目に鮮やかで、久しぶりに見るこの色に何故か酷く懐かしくて穏やかな、ふわふわした気分になる。
半歩後ろを歩くコイツの脚は頼りないほどに白くて細っこい。ちゃんと飯食ってんのか、と振り向かずに問えば、驚いた態度を見せてから目を細めて笑ってうん、と頷いたのが横目に映った。


「好き」「愛しい」とかそんな大それた感情がましてや俺みたいなのの中にあるなんて事は自覚した事がなかった。
だけど、黒板を見るとき不可抗力でどうやっても目に入る、教卓の真ん前の席に座る小さな背中。休み時間、仲が良いらしい友達と談笑する笑顔。
あたりまえの日常の光景。ついこの前までの俺なら気にもとめず、もちろん記憶にも残らなかったはず。だけど、たまに見せるそのたのしそうに笑う顔が気になって、居てもたってもいられなくなった。

そして、今。
一応言っとくが、きっかけ…その…告白、の言葉は「好きだ」とかは一切言ってない。だって、そういうんじゃねぇんだ。





放課後はお互い部活やなんやらがあって時間が合わないから、毎日一緒に登校するようになって今日が何回目だろう。

ちらり、と気づかれない程度に目をやる。未だにたのしそうに微笑みを浮かべながら歩いている。

俺と居るこの状況が、たのしいのだろうか。




「なあ」
「うん?」
「よく笑うんだな」
「え」
「どうしてだ?」



それなりに難しい質問をしたつもりだった。そう自覚しながらも歩みを止めず、むしろ少し速めた俺は意地が悪いと思う。このふわふわな、まるで無重力みたいな穏やかな空気の中それは少し気が引けたが、してしまったものは仕方がなかった。

それまでは一定のリズムで耳に届いていた小さな靴音が止まった。
始めはそのまま歩き続けたが、やがて引っ張られるように速度が落ち、俺も立止まる。

生温い風が俺と名字の間を駆け抜けていく





タッタッ




俺の耳が再び靴音をとらえたときには、生温い風とは違う澄んだ風が頬をかすめて、あっというまに小さな背中が離れていく




「好き」

「…は」

「好きだからだよ」




zero gravity




やっと気付いた
「愛しい」の正体





20110505






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