食堂の長い長いテーブルに両肘をついて、目だけを動かしてあたりを見回す。しかし、いくら探しても見当たらない。いかんせん、人が多すぎるのだ。お昼どきの食堂は飢えを満たそうとする人で溢れかえっていて、普通ならかなり見つけやすい彼の白髪頭も、大勢のファインダーたちの団服に混ざってまったく分からない。―…とか本人に言ったら、「白髪じゃないです」とか言って顔真っ赤にして怒るんだろうなぁ、なんて考えてたら、なんだか頬が緩んできた。
「ニヤつくな」
「うわっ出た」
「キモイ顔こっち向けないでくださいね」
「てかさ、ちょっと話あるんだけど」
「忙しいから無理です」
「神田のこと」
「……は、はぁ?」
「いつものだよ」
「はぁ」
「さっき廊下ですれ違ってね、少し話せたんだよー」
「へー」
「いいでしょー」
私が話しかけているにも関わらず、アレンはさも興味なさげにさっき持ってきた大量の食事にありついていた。
ずるずるずる。
お前はまじで英国紳士なのかと言いたくなるような酷いフォークさばきでナポリタンをすする英国紳士らしき人。え、ていうかヨーロッパとかそこら辺…よくわかんないけど海外って、食事食べるとき音たてるのってマナー違反じゃなかったっけ?しかし、いくら目をこすってもアレンさんはちょうご機嫌ななめな感じで片肘をつきながらナポリタンをかっ食らっているのである。うわーなんか今までこんな「僕、紳士です」みたいなキャラで世の中渡り歩いてきたのに素はこんなんとか怖っ。
いや、でも、アレンがこんな態度を取るのは私の前だけだって知ってるからか、なんか変に気分良かったりする。これでこそわざわざアレンに報告した甲斐があったってもんだ。
「あ、」
「ん?」
「僕もいいことありました」
「えー別にアレンの事とかどーでもいいんだけど」
「さっき、リナリーの部屋行ってきました」
「………はぁっ!?え、なな、何で!?何の為に!?何したの!?」
「別に、言う必要ないでしょ」
「…そ、そうだけどっ!」
「何焦ってんですか?」
その言葉と共に、アレンは口端を上げてナポリタンの皿から私に視線をうつす。
形勢逆転とは、まさにこういうことを言うんだと思った。
た、たしかに私はアレンがリナリーと部屋で何しようと、それを知る権利がなければもちろんアレンが言う義務もない。だけど、だけど…。そうと頭では分かっていても、私の心の一番深いところが否定するんだからしょうがないじゃないか。アレンがリナリーの部屋に行くってことは、アレンは少なからずリナリーに好意を持ってるって事で。それに対して私なんかアレンとはこんな言い争いしか出来ないし、こんな風に事あるごとに、本当は好きじゃない(いや、仲間としては好きだよ)神田のことをわざと相談してみたり。全部全部、アレンのこと好きだから。それが見事に全部裏目に出てるんだから、もう、本当に私ってダメだ。
ああ、アレンとリナリーは部屋で何を話したんだろう。いい雰囲気になったりしたんだろうか。キス、とか。
そんなことを考えてたら、キスする二人が頭にリアルに浮かんで、しかもそれが悔しいほど絵になっていて、なんかもう全部ごっちゃになった私は、いつの間にか泣いていたらしかった。
「って、え……!何泣いてんですか!」
「う、ぐぅ…うぇっ」
「ちょ、泣き止んでくださいよ…」
「だっ、て、あれんが…りな、りーと…うぅっ」
「はぁ、」
アレンが前髪をかきあげて、ため息なんかつきやがったので、ついに私はぶちギレて、誰のせいじゃボケーって奴の無駄に綺麗な顔面をひっぱたいてやろうか、なんて考えるんだけどやっぱりそんな事は出来なくて、ひっくひっくと格好悪くしゃっくりをあげているだけになってるのである。
「そんなバレバレの見栄張ってる暇あったら、少しは自分に素直になったらどうですか」
「あ、あんたもねっ!」
「へーえ、ここまで来てまだそんな口ききますか」
「………んー」
「わかってますよ、名前の気持ちなんてとっくに。早く言ってください」
「うえっ、な、私の気持ちって何よ」
「そーいうのがめんどくさいんです。あ、ちなみにリナリーのこと嘘ですから」
「えぇっ!何それ!」
「はい、いいですから言って下さい」
「…うっ、だって、私だけなんて不公平じゃん」
「しょうがないですね。特別に僕も言ってあげます」
「ほんと?」
「ただし、せーので二人一緒にですよ」
「うん!」
「じゃ行きますよ。せーの」
「ストーップ!!」
「何です、土壇場で怖じけづきましたか?」
「ち、違う…!ちょっと心の準備が…」
「それを怖じけづくって言うんです。もういいですか?」
「うーん…」
「あ、言っておきますけど、せーのって言った瞬間僕にだけ言わせて自分は言わないとか馬鹿な事したらそっこーぶっ飛ばしますからね」
「わ、わかってるよ…!アレンこそちゃんと言ってよ!」
「もちろんです。はい、じゃあ行きますよ。せーのっ」
「大好きっ!」
「僕もです」
SPEAK NOW
(はぁっ!てめ、なんで一緒に言わないの!)
(イカサマは僕の専売特許ですよ)
結局は両想い
20110203
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両想いなのに素直になれなくて、お互いの気を引こうとあーだこーだする、恋愛偏差値皆無なお二方でした。