「どうよどうよ、今日のわたし!」
「……ずいぶんと変化球で来ましたね」
「遠回しに似合ってないと?」
「じゃあ、全体的に残念ですね」
「正直に言えばいいってもんじゃないよね」
わたしの彼氏は、何でもかんでも正直にずばずば言います。
しかも腹黒で外面ばっかり良くて、女の子受けがものすごく良くて…すみません、わかったからそんなつま先踏まないで下さいアレン・ウォーカー。
てな訳で、百歩譲って良く言えば、自分をしっかり持ってる人です。
これで満足かアレン・ウォーカー!
「さっきから独り言キモいです、自覚して下さい」
「ふんだ!知るか、この若白髪」
「若白髪バカにするな」
「原因はストレスですか、カルシウム不足ですか」
「若白髪は将来お金持ちになるんですよ」
「自分の現状を自覚なさい」
アレンは中学のとき、自分探しの旅という名の家出をした実の父、マリアンさんに借金を押し付けられ、当時から今まで、毎日バイト漬けの日々を送っている。
バイトだらけの日々で、ストレスが溜まってあんな髪になってしまったのだろうか。少し同情しちゃうかも。でも、アレンのことだから「同情するなら金をくれ」とかなんとかまじで言いそうだからなぁ。
そんな事を思いながら、太陽に照らされて白銀に輝いている彼の髪を見つめていると、ガタン。
「ぎゃあ!」
よそ見をしていたせいで、飲みかけのカフェオレを倒してしまった。
今日のために気合い入れて選んだフリフリスカートの上に、無情にも茶色い染みが浮かぶ。ああ、最悪!
「何してるんですか」
「見ればわかるっしょ!タオル、タオル!」
チッ、と軽く舌打ちをしたアレンはタオルを、なんとわたしの顔面に投げつけた。
「へぶぅっっ!」
「ナイス顔面キャッチですよ」
「ありがとーございますー。てか、なんか久しぶりにアレンに褒められた気がする」
「失礼な」
「どうせなら服褒めてほしかったな」
「…………」
いきなり黙らないで頂きたい。
でもさ普段、わたしこんなフリフリした可愛い感じの服なんて着ないんだよ!
アレンのバイトがオフの日を確保して、ようやくこぎつけた今日のデート。
学校ではクラスが違うから顔合わせるのも何日ぶりだよ、って感じ。
本日は日曜日。天気は快晴。これまたかなりのデート日和にやっと会えたと思ったら、冒頭の彼の反応なのだから困ったものである。
「ねえ、アレンさーん。お腹すきました」
「まだ午前中ですよ。朝ごはん食べたんですか?」
「ご心配なく。がっつりご飯二杯たべたよ」
「最近、太りました?」
「…………えへっ」
ようやく会話らしくなったと思ったらこれである。
仮にも彼女のわたしに何のためらいもなく聞けるなんて恐るべしわたしの彼氏。
まあ、実際2キロ太ったよ!文句あるかコノヤロウ。
「なんか頼もうよ。せっかくカフェ来てるんだし」
「まあそれもそうですね」
「やったあ!」
アレンからお許しも出たところで、メニューに目を通す。
あ、このパフェ美味しそう。
わたし、これにする!と言おうとして顔を上げたわたしの目に、飛び込んできたもの。
「アレン、ねぇ見て!あのカップルちゅーしてるよ!」
「あからさまにガン見するな。あんなの何がいいんですか?TPOをわきまえろってんだ」
「いいな。ちょうラブラブ。あやかりたい」
「…………」
あれ、さっきまでの憎まれ口は何処へやら、急に押し黙ってしまったアレン。
ちょっと言い過ぎたかな?もしかして、怒っちゃった?
顔を覗きこもうとしたけど、うつむいているため、長い前髪に隠れて表情は読めない。
まずい、と直感でそう思った。アレンを怒らせたらあとあと大変なことになりかねない。
ひ、ひとまず話題を変えよう!そうだ、この前テレビでやってたおいしい和菓子屋さんの話だ!
「あ、あのね!この前おいしそうなみたらし団子のお店がね、」
「やっぱり、」
「え?」
その場凌ぎの話題は、アレンによって至極当たり前のように遮られた。
向かい合って座る私たちの間には、いつのまにか運ばれてきたストロベリーパフェ。
パフェのてっぺんに乗っかっている砂糖浸けの苺をつまんで、アレンはゆっくり口を開いた。
「キス、します?」
「………」
あれよりもっと濃厚で甘いやつ、と彼は付け足した。そう言ったときのアレンの顔が、なんか、妙にわたしの胸を、ぎゅうっと締め付けるように苦しくさせた。
悔しいけど、わたしの彼氏は本当に人をドキドキさせるのが上手いと思う。
ストロベリーショートケーキセレナーデ
20101012
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黒いアレンさんは素敵だ