「やっほい勝った!」

隣の席の彼の目の前で、わざとらしく紙をひらひらさせると、あからさまに嫌な顔をした後に、チッと舌打ちをした。
おいおい、どこぞのパッツンポニーじゃないんだから舌打ちなんてやめときな。


「あぁ、努力した甲斐があったわー」

「まだ19勝2敗で僕が勝ってるの、忘れないでくださいね」

「ま け お し み ?」

「ちげぇよ。どうせマグレでしょう?」

「そこまで言うんなら見てみる?」

鼻高々なわたしは、堂々とアレンの机に紙を置く。
どこか間違っていないか、ケアレスミスはないか、隅々まで確認するアレンを見て久しぶりの優越感。


さっきからアレンとわたしが何をしているのか。
高校生というものは、毎日のように小テストという地獄が待ち受けている。クラスでも醜いビリ争いを繰り広げているわたし達は、どうにかしてこの地獄を少しでも楽しいものにしようと元々ない頭を使って必死にフル回転させて考えた。
そして、行き着いた結論が二人で小テストの点数で争い、負けた方は勝った方に自販のジュースを一本奢るという何とも素晴らしい作戦!やば、考えたわたしって天才かも。あれ、何でテストは点数は取れないの。


しかし、考えたわたし自身がまさかの2勝19敗という悲惨な戦績のため、財布は既にすっからかんに近い。こんなはずじゃなかった!



「あ、採点ミス発見」

「うそぉぉぉ」

「本当です」

とんとん、アレンが人差し指で叩いた。

「ここ、"郎"じゃなくて"朗"ですよ」

「細かっ!いいじゃんそれくらい」

「君の為に、僕も心を鬼にしていってるんです」

「嘘つけ。目が笑ってないっつの。細かい男はモテないぞー」

「これ以上モテたら困るんで丁度いいです」

「嫌みか」

「事実を述べたまでですが」


誰と誰が付き合ってるとか、そういうピンク色な出来事には全くと言っていいほど疎いわたしから見ても、確実にアレンはモテる。
今だって、クラスのモテ子ちゃんこと朝倉さんを始め、女子たちの視線が痛いのなんのって。おー怖い怖い。


てか、この勝負始めるまで点数なんてわたしとどっこいどっこいだったのに、食べ物絡んだ瞬間に目の色変えちゃってさー。あーあ、このクラスで確実にわたしがビリだよ。なんか孤独感。

「あ、」

ふと、わたしの前の前の席の鮮やかな赤毛が目に入った。
ラビとかいう秀才。ちなみにわたしは自称マサイ族並に視力がいいので、ラビの点数を覗くことなんて朝飯前なわけ。
しかし、点数を見て絶句。

「10点満点だと…?」

しかも、何気なく点数を隣の女の子に自慢してると来たよ。なんつー奴だ。こういう人には神様に変わってわたしがお仕置きを下さなければ。

常に手首に巻いている輪ゴムを指にセッティングして準備完了。
いざ、発射。

「イテッ!」

頭を押さえながらキョロキョロと周りを見回すラビの顔が傑作。

「射撃成功。ターゲット撃破!」

ガッツポーズをしながら小声で呟くと、アレンがこっちをジト目で見ていた。
なんかもうそれ、女の子に向ける視線じゃないですよね、アレンさん。

アレンは視線を外して、わたしからテストを引ったくると、教卓に向かって声を張り上げた。



「先生。採点ミスがあったみたいです」











***










「さて、今日は何にしましょうかね」

「この悪魔!ガチで先生に言うとか信じらんない」



あれから。
アレンの告発によって点数を引かれたわたしは、結局アレンの点数を下回ってしまって今日も奢る羽目になってしまった。こんちくしょう。

終業チャイムが鳴って、帰りのHRを終えたわたし達二人は教室を出る。


「ちょいアレン。自販機通り過ぎましたけど」

「誰が学校の自販って言いました?」

「え、違うの?」

「僕ん家の近くの自販ですよ」

「遠っ!なんでここじゃ駄目なんだし」

「バナナオレが無いんですよ」

「じゃお金渡すからアレン自分で買ってよ」

「ヤです」

「変なこだわりの為に振り回されるわたしって…」


アレンに引っ張られるがまま、最寄り駅へ直行。
ああ、世の中なんて理不尽。








***









ガタンゴトン、規則正しくリズムを刻む電車の中。
乗り継ぎやら、僕との言い争いやらで疲れきったのか、さっきまでの散々暴言を吐いていた彼女は僕の肩に頭を預けてすっかり寝入っている。

こんなに疲れていたなら、僕の家まで連れてきたのは申し訳なかったかな。
まあでも、この寝顔を見れたから万事オッケーだ。

こうして黙っていればなかなか……か、可愛いのにな。いやはや困った奴である。

まあでも、さっきみたいに言い争ってる時のこいつも嫌いじゃない。
こんなこと本人の前で言ったら顔真っ赤にしてまた暴言を吐くの繰り返しなんだろうな。そのエンドレスを思い浮かべて、思わず笑みがこぼれた。

彼女の閉じられた瞳をみていたら、どうしようもなくこいつが愛しくなって頭を撫でてみた。なんだか、今日の僕は少し可笑しいみたいだ。





「……アレン」






このまま気持ちは、頭を撫でる位じゃ収まりそうにない。

しょうがないから、僕の家までもうしばらく、こいつを寝かせてあげようと思います。















(君と一緒に帰るためなら、勉強でも何でも頑張れる)






20100929

冷たい君に至福の時を様に提出。

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