昼をちょっと過ぎた今の時間。いつもはガヤガヤと賑やかな黒の教団の食堂もこの時間帯だと結構空いていて、テーブル席も空席の方が目立つ。


「ジェリー、グラタンよろしく」

「はい、お待ちど〜ん」

文字通りまさに「あっと言う間」に、ほかほかと湯気をたてる美味しそうなグラタンが出てくる。

「ありがとう」

ほんのりと香るホワイトソースと焦げたチーズの匂い。口の中に溜まる唾を飲み込んで、空席を探す。



「名前ーっ!」

奥の方の席に、嫌でも目につく鮮やかな赤。そちらを見ると、予想通りそこには同じエクソシスト仲間のラビが手招きしていた。
このまま彼の隣に座るのもいいが、そうしたら静かに食事を済ませられることは無いだろう。
生憎、今は任務帰りであまり騒ぐ気分にはなれそうにもない。
断るつもりでラビにひらひらと手を振り、とりあえず一番近くの席に腰を下ろす。



ああ、やっぱりジェリーの料理は最高だ。
まだまだ熱いグラタンを、左手に持ったスプーンで掬ってふーふーと冷ます。

よし、そろそろ冷めたかな…そう思ってスプーンを口に運ぼうとすると…


「うまっ!グラタンもいいさね」

「まじ何なの」

「ん?名前の近くで食べようと思って」


そうはっきりと言ってのけたラビは、何事もなかったかのようにニコリと笑った。

「ちょっと、間接キスなんですけど」

「知ってる。わざとだし?」

「変態」

「褒め言葉」


ふう、と私がため息をこぶしても、ラビは綺麗なエメラルドグリーンの目を細めて余裕そうに笑うだけ。それがちょっと悔しくてざくりと左手に握ったスプーンをマカロニに突き刺した。

ラビはそんな私の様子を見ても、ははっと笑って自分の焼肉定食を食べ出す。

無意識のうちに、形のきれいなラビの唇が軽く開くのを目で追ってしまう。そして、バチッと目が合うと「何?」と怪しくラビの口角が上がった。なんとなくムカつくから、私も「なんにも」と冷たくあしらう。

ほんと、何なんだこの男は。全く考えてることがわからない。こんな風に私の目を見つめて笑ってみたり、この前は科学班の可愛い女の子と談話室で楽しそうに話してみたり。行動がふらふらあっちに行ったりこっちに行ったりで全然定まらない。まさにチャラ男の代名詞だ。
私もたまーにだけど、あの綺麗な緑色の瞳と目が合うとドキ、と心臓が高鳴ってしまうときがある。さっきみたいに。
多分、ラビはそれなりにかっこいいからモテるんだろうな…本人の前では絶対こんなこと言ってやんないけど。
この前だって、神田が「兎の奴、この前ファインダーの女に告られたらしいぜ」なんて嫌みったらしく言って来たから、前髪引っ張って5、6本抜いてやった。

そうよ、私はアレンみたいな可愛くて一途な清純派がお似合い。絶対そうだ!

ふん、と鼻を鳴らして前を見るともう既にラビは食べ終わったようで、頬杖をついて物欲しげにこっちを見ていた。


「グラタン食べたいの?」

お皿を指して聞くと、ラビは目を輝かせて「いいんさ!?」と言った。

正直、色々考え事をしていて食欲が無くなった私は、ラビの前に皿を押しやった。

「いただきますっ!」

ラビはあんなにたくさん焼肉を食べていたのに、成長期なのか、ガツガツとグラタンを食べはじめた。


「ん?」

私は、少し違和感を感じて、ラビの手元に釘付けになった。

「ねぇ、ラビ」

「んあ?」

ラビは口の端にホワイトソースをくっつけたまま、間抜けな声で返事をした。


「ラビって、左利きだっけ?」

「あ……」

呆然と自分の左手に握られたスプーンを見つめるラビ。

「い、いやこれは別に何もっ……」

「え、だってラビ、イノセンスとか右手で持ってるよね?」

「まぁそうだけどさ…」

「ねぇどうして?」

ラビの腕を揺すって尋ねる。













「だぁぁー!もう!お前が左利きだからだよ!」
















(やっぱり私にお似合いなのは、コイツみたいです)




20100906

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