「だる…」


重い瞼を無理矢理こじ開けて、むくりと体を起こす。ベッドのわきにある目覚まし時計に目を向ければ、今からどんなに急いでも遅刻決定なことがわかる。

ああ、これはやってしまった。リビングへと向かい、戸棚の中をがさがさと引っ掻き回す。


「あったあった」

やっと見つけた体温計を脇に挟みながら、何故こうなったかを考えてみる。
昨日、名前やラビと雨の中鬼ごっこをしたからとか?いや、あれは二人がいけないんだ。下駄箱にラブレターが入ってたから、ちょっとだけウキウキして体育館裏に行ったらなんと待っていたのはバ神田だった。名前とラビが校舎の影から爆笑しながら覗き見しているのを見つけて、神田と二人で追いかけ回した。

ここで誤解を解いておくが、僕は決して嫉妬なんかしていない。名前とラビが仲良さげに話しているのを見て、ガラスのコップを握力で割ったりなんかしてない。断じて。


ピピッ、と体温計が計り終えたことを知らせる。
うわ、やっぱり38.9℃ある。学校に連絡しなければ…面倒くさいったらありゃしない。今度ラビに学食おごらせよう。


はあ、名前の鈍感具合にもそろそろ呆れてくる。僕、結構アピールしてるつもりなんだけどな…僕ら四人(名前、僕、神田、ラビ)が食堂で昼ご飯を食べてる時だって、いつも必ず名前の隣をキープしてたし。
名前に良いとこ見せたいが為に、必死に勉強して名前に難しい問題教えてあげたり。

ほら、僕って紳士キャラじゃないですか。だから、名前の前では完璧でいたいんです。まあ、男心ってやつですよね。



―プルルル―

ふいに、机の上の携帯が着信を知らせた。
ディスプレイを見ると、そこには「名前」の文字。

その名前を見た途端、自分でも驚くほど心臓が飛び跳ねて、熱がある時特有の倦怠感が一気に吹っ飛んだ。どうやら、僕も相当な末期らしい。

若干ふるえる手で、携帯を開いて耳にあてる。



「もしもしもやし?」

突っ込み所満載だが、あえてスルーすることにした。どうやら、"もし"と"もやし"を掛けたかったらしい。
ここで一つ言っておくが、名前は普段僕のことをもやし、なんて呼ばない。普通にアレンってよんでくれる。
「モヤシ」なんて呼ぶのはどっかのパッツンポニーしか居ないから、そいつに吹き込まれたんだろう。


「はい、アレンです」

「どうしたの?もうチャイム鳴るよーまさか遅刻?」

おそらく教室の中なのだろう、ざわざわと騒がしい。

「違いますよ。風邪引いたんです。昨日誰かさんに雨の中走り回されたもので」


冗談混じりにそう言えば、名前は、あははっと笑って「大丈夫?」と言った。
照れ屋な名前がこういう風に素直になるのは滅多にない。なんか得した気分だ。


「大丈夫です。でも一応今日は休みますね」

本当は名前の顔をみたいけれど、風邪を移してしまったら元も子もない。

「ん、了解。お大事にねー」

名前が心配してくれた!小さな喜びを噛み締め、「ありがとうございます」と言おうとしたその時。

「ちょ、変態!ラビどこ触ってんの!離れて!」

クラスの騒音の中に混じって、名前がこう言うのが聞こえた。

は?は?思考が一旦ショートした。触る?ラビが?僕の名前に?ふざけるのも大概にして欲しい。

気に食わないことに、ラビと名前は席が隣同士。女子のブラが透けるから、と言う理由で毎年夏を楽しみにしているラビのことだ。何か間違いがあってもおかしくはない。


「名前?ちょ、どうしたんですか?」

焦る気持ちを押さえて電話越しに名前に問い掛けるが、既にツーツー、と電話は切られた模様。

やばい、実にやばい。どうしたものか。
考えれば考えるだけ、頭がこんがらがるだけで、熱が上がりそうだ。

もう考えるのは止めよう。そう決断すると、僕は勢いよく立ち上がった。





***





「ラビ、ほんっと最低」

「何さー。蚊がとまってたから潰しただけじゃんか」

「太股の付け根にか!スカートで隠れてるっつの!ラビ本当変態だよね」


一方学校では、名前とラビがホームルーム中にも関わらず言い争っていた。
ラビいわく、蚊を潰す為にわざわざ変態まがいな行為をしたらしい。

「ユウ〜オレの無実を証明してさー」

ラビの涙目の訴えも虚しく、神田は机に突っ伏して早くも睡眠体制に入っていた。

「アレンが居ないからって好き放題しないでよね」

担任が騒がしさに気付いたのか、こちらを睨んでいるのを見た名前は小声でラビにそう言い放つと、前を向いた。


「ま、それも時間の問題さ」

ラビはにやり、と笑って呟いたが、名前にも神田にも聞こえていない。

担任の無駄に長い話がようやく終わりに近づいた頃。


―ガラガラっ―

「すみませんっ!先生はいらっしゃいませんか!?」

慌てた様子で静まりかえった教室に入って来たのは、隣のクラスのリナリーだった。


「リー、どうした?そんなに慌てて」

担任が心配そうに聞いた。












「たまたま廊下を通りかかったら、アレンくんが顔真っ赤にして倒れてて…!」













(アレン、熱あるのに学校来たの!?)
(らび…コロス…)
(やっぱアレン来たさー)










20100905

ヒロインが心配で学校まで駆け付けた可愛いアレンくん。

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