「よっしゃ上がりー!」

ラビが残っていたカードを机に投げ、拳を天に向かって突き上げた。

「うわ、あとユウと私だけじゃん」

「てめぇカード見せろ」

「ちょ、見んな!あっち行けパッツン!」

「んだと?チビのくせに態度だけはでけェな」

「うっさい蕎麦野郎!」


鮮やかな赤い西日が眩しい放課後の教室。
一つの机をラビ、アレン、リナリー、ユウ、私の五人で丸くなって囲む。

「あ、名前。これとこれ出せばいいんじゃない?」

私のカードをリナリーが後ろから覗き込んで指さす。

「本当だ!流石リナリー」

「名前は大富豪弱いですからねー」

「アレンうるさいっ」

「おら、早く出してみやがれ」

神田が名前のカードを顎でしゃくった。

「へへーん。八流しからの上がりっ!どうだ!」

私はこれでもか、と残りのカードを机にたたき付けた。

「はい、神田の負け」

アレンが唖然とする神田の手からさっさとカードを奪い取ると、シャッフルし始めた。

「てめぇ、リナリーに教えてもらうなんて反則だろ!」

「負け惜しみは見苦しいよーユウくん」

「そうそう。ユウは罰ゲームさ」

大貧民・神田、貧民・名前、平民・ラビ、富豪・リナリー、大富豪・アレンの結果となった「負けた人はみんなにジュース一本ずつおごり」と言う罰ゲームつきの大富豪。
ビリ争いの結果、罰ゲームは神田に決まった。

「僕、炭酸だったらなんでもオッケーなんで」

アレンは手慣れたようにトランプを切っている。

「……チッ」

「いってらっしゃーい」

「てめェはついて来い」

神田はそう言って名前の手首を掴んだ。

「は?何でよ!私勝ったし」

神田は「関係ねェ」と遮って、問答無用とばかりに名前の手をひいて廊下へ向かう。

「リナリー達たすけてー!」

名前の叫びも虚しく、アレンやラビ、リナリーは笑顔で二人を送り出した。



***



「最悪ー」

「いい加減うるせェよ」

廊下を歩き出してしばらく、誰も居ない廊下に神田と名前の足音だけが鳴り響く。

「罰ゲーム、ユウだけじゃんか」

「お前も負けたようなもんだろ」

「何それ」

そう言って名前が笑うと、神田もつられたのか微笑を浮かべた。


(ユウが笑った…)

私はすかさずこの珍しいユウの笑った顔を目に焼き付けようと、ユウを見つめる。「何見てんだよ」そう言ってユウは睨んでくるけど、そんなのはもう慣れっこだ。私も「べつにー」と受け流す。
こんな憎まれ口を叩いてる私だけど、実は私はユウの事が好きだ。しかも、結構前から。
好きになったのはいつだったか…思い出そうと頭の中の記憶の引き出しを探ってみるけど、思い出せない。でも、思い出せないくらい昔からユウのことがすきだったってこと。



「ユウは何買うの?」

「茶」

「だよね」

昔からジュースとかそういう甘いものが大嫌いなユウ。予想していた通りの答えに、思わず笑ってしまう。

ああ、変わってないな。
そんな安心感。

私は、一寸の狂いもなく均衡を保っている天秤みたいなこの関係があまりにも心地好くて、変わるのを怖がってる。
そんなことを前、アレン達に相談したら、みんな口を揃えてわたしの事を「馬鹿」と言った。
馬鹿はないんじゃないか、と思ったけど、アレンもリナリーもラビも、鈍感な神田の性格を知りすぎるほど知っているから、こういう風に言ってくれているんだろう。さっき私が神田に引っ張られた時だって、みんなあからさまに「チャンスだ」とばかりに見送っていた。やっぱり、あの三人には敵わない。





「「…あっ」」

まるでタイミングを見計らったかのように、私とユウの手が触れた。

うわ、何このシチュエーション。とっさに手を引っ込めて俯く。顔から火が出る程恥ずかしい。

ちらり、横に目を向けると、ユウは制服のポケットに手を突っ込んでそっぽを向いていた。耳が微かに赤い。
ユウは昔から、何か恥ずかしいことがある度に耳が赤くなる。
普段、仏頂面しかしないユウのこんな一面を見ると思わず心臓が高鳴ってしまう。



「ゆ…ユウ、自販機着いたよ」

食堂の前の自販機にようやくたどり着く。

「…ああ」

神田が一拍遅れて返事をした。



ピッ、ガシャン
ピッ、ガシャン


自販機に向かって真剣にみんなの飲み物を選ぶユウの広い背中を見つめる。

私たちの中でのユウは無愛想キャラだけど、意外と友達思いなところもある。
多分、私はユウのこんなところが好きなんだろうなぁとつくづく実感した。



紅い夕日が、ユウの髪に当たってきらきらと光る。

顔だけ後ろへ向けて窓の外を見ると、今まさに山の向こうに沈みかけていた。








「名前」


耳に心地好い、聞き慣れた甘いテノール。

今この瞬間、ユウの声が私の名前だけを呼んでいる。



「ん、」

ゆっくり向き直れば、目の前にはユウの白いワイシャツと石鹸の香りが私を包み込んだ。


そして、私の背中にある手と反対のユウの手には、私の好きなミルクティー。











ああ、やっぱり私はユウが大好きだ。













(神田の奴、素直じゃないですよね)
(本当さー。ユウ、本当は大富豪強いくせに)



20100904

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