「名前覚えてくれたって訳ですよ!ちょ、すごくない!?」
「あー、すごいすごい」
「なんかリナリーさんキャラ変わってませんか?」
「私、低血圧なのよ」
「リナリぃぃぃ!キャラおかしいよぉぉ」


一限目から数学という顔面パンチ並の威力を持つこの朝に、我らがリナリーさんは早くもダウンの様子です。ちなみにこの授業は選択制なので、物理をとっている神田君は居ません。だから、心置きなく恋バナとやらができるってわけ。


「私から言わせればねぇ、ようやくスタートラインって感じよ?」
「お、おっしゃる通りでございます」
「そろそろアド聞けばいいさ?」
「それが出来てたら今頃とっくにラブラブしとるわ!」
「いつもはこんな乱暴なのに恋には奥手ですよね、名前って」
「てかあんたら二人いつからいるのッ!!」

「あたたっ、痛っ!」
「痛ぇっ、き、気にせんで〜」
「そりゃ気にするわ!」


「名字、ラビ、ウォーカー。うるさいぞ!」

好き勝手に騒いでいる私たちにリーバー先生からお叱りの言葉が飛ぶ。リナリーの方をちらりと見ると、背筋を伸ばして真面目に板書を写していた。ちくしょー!学級委員め!動き素早いな!


「お前ら三人、罰として準備室の掃除な〜」

「「「まじでか!」」」






****






「こんなんパパーッと終わらせるさ」
「ちょ、ラビやめてください!チョークの粉とびますから…!ぶふっ!」
「うわ、アレン髪真っ白さぁ」
「元からです」

地味に傷ついたアレンは、近づくなオーラを出しながら一人で窓拭きを始めた。というか、ここ(準備室)は普段掃除されないから、埃がハンパない。ほら、あの隅っこなんかクモの巣はってるし!ぎゃあ!なんかこっち来た!

「アレン、あそこクモいるんだけど!」
「…………知りませんよ」
「テンション低いな!」
「ラビに頼んだらどうですか?」
「ラビ!クモつかまえて!」
「きゃあ、むりむりッ!オレ虫無理さ!」

乙女ぶって甲高い悲鳴をあげながら机の上に避難するラビは正直キモい。私の幼なじみ二人はなんともマイペース。

「ラビ、ティッシュプリーズ!」

結局は私がクモ捕獲に繰り出される。これもむかしっから変わらない流れ。でもこれはやばい。あのクモ、なんか背中が紫色にテカってるよ…絶対毒とかあるパターンっしょ!てか捕まえる!ちゃんと捕まえるから、背中蹴るのだけはやめてくれウォーカー!
扉付近でぴょんぴょん跳ねてるクモに向かって勢いよく蹴り飛ばされる。確かな浮遊感と共に、猛スピードで床が迫って来る。む、無理…!止まれないよこれ!ぶつかる……っクモ押し潰しちゃう…っ





ガラ


「ぎゃあぁぁっ」
「は!?」

どんがらがっしゃーん、なんてことにはならずに済んだのは、私が突き飛ばされた瞬間に扉から入ってきた、今、私の下敷きになってくれた人のおかげな訳で。声からして男だと思うんだけど…

「あの、すみません」
「……もい…」
「はい?」
「……重いっつってんだよ!」
「いたっ!」

アレンに蹴り飛ばされ、次はよくわからない人に顔面を押されて机の脚に激突。しかも机にのっかっていたラビがバランスを崩して降ってきた。厄日だ。


「ちょ、乙女に顔面貼り手ってあんた何様っすか!」

あ゙ぁー、目の前まっくらで足元がふらふらして覚束ない。頭をさすりながら貼り手犯の方へ向き直る。

「あ?てめェこそ勝手に突っ込んで来て、その上んな口ききやがって何様だよ」

あれれ、わたしきっとさっき頭ぶつけたせいで聴覚までおかしくなっちゃったんだぁ。じゃなかったら、この人の声が神田くんの声に聞こえるわけないもんね。とんだ災難。わたしドンマイ。

「おいお前きいてんのか」
「いだだっ!痛い痛い!」

束ねた髪の毛を引っ張られて、無理矢理立たされた。くっそこの暴力男!誰じゃい!ツラ見せろや!
そう意気込んで視線を目の前の男に向け……


た。



「オーマイガッ!」

なんと恐れ多くも、とんだ暴力男だと思っていたのは、巨大な般若様を後ろに携えた神田くんだった。相当お怒りになってます。

「だ、だってね、クモがね…!」
「あぁ?」
「すいませんしたぁーっ!」

神田くんの気迫におされて、床にぶつける勢いでぶんっと頭を下げる。

「まあゆうそこら辺にしといてやってさ」
「お前が言うなよ」
「やんっ。名前ちゃんコワイー」

ついつい神田くんの前で暴言を吐いてしまった私とキモい口調で喋るラビを神田くんはそれはもう、冷めきった目で睨みつけて舌打ちをかましている。

「え、ていうか神田は何で準備室にいるんですか?」

さっきまで大魔神みたいなツラで私を蹴ったアレンがもっともらしい事を問った。

「あ?」

ラビからティッシュを受け取って、気配を消しながらじりじりとクモとの間合いを詰めていく神田くん。

そして。

ガシッと目にも留まらぬ早さでクモを確保した。
たくましいっす!さすが神田くん!そこらへんのナヨっちい男どもとは違う。なにが違うって、格が違う。

「授業中にガム食ってたら先公に見つかった」






うん、やっぱり私たちは同レベらしい。












20101203

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授業中にガム食うとか意外とワルな神田氏

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