Helianthus Annuus | ナノ
家族を探して [ 22/156 ]


「……おーいッ!!!…うぅ……みんなどこにいるのぉ…」

波が穏やかな海の中で必死に叫ぶが私のその叫びに当然のように返答は無かった。
ん?水中で叫ぶとは?と思ったそこのあなた!!私はなんと伝説上の生き物と言われた"人魚"なので水中でも叫べるのです!!

………って誰に言ってんだろ……私………
色んな海を渡り泳いでいるから疲れちゃったのかな…もうここ数年誰ともお話してないからなあ……
はぁ。と、わざとらしく吐いた息はゴボゴボと泡になるだけでなにも産み出さなかった。

「みんな〜…どこ……はぁ…」

元々私達人魚という種族は群れを成して色々な海を渡り泳いでいる。でも数年前酷い嵐に見舞われて私と、群れの皆ははぐれてしまった。

…正確に言えば、
私と、皆が、はぐれてしまった。そう、つまり迷子。
悲しかな迷子の私はこうしてみんなを探しているんです。

「会いたいな……」



1人は、寂しい。




いつもなら休憩を挟んで移動するがずっと探しても会えない焦りからか、今日はもっと移動したい気分だった。

「もう少し…、行ってみよう」


もしかしたら、
この先にいるかも、
皆も探してくれて、

今日こそは、

そんな期待は何千回思い浮かべたのだろうか?
余計な考えは振り払い泳ぎを進めた。













その結果がコレだ。

「うーんまさかこんな嵐の海域に突っ込むとは」

さっきまでの晴れ晴れとしたお空はどこに行ったのか荒々しい波に流れ、海上からはゴロゴロと雷の恐ろしい音まで聞こえてくる。

少し海上に顔を出してみると遠巻きに船が見えた。見慣れない船だ。そもそもこんな異界に船が運行するなんえとても珍しい。どうやらその船を中心に嵐が巻き起こっている様にも見える。嵐のど真ん中にいるとは…運がとても悪い船だなぁ…。

段々と激しくなる流れに泳ぎにくくなる。
これはまるで数年前皆とはぐれた嵐の日のようだ。
この海には長居をしない方がいい。そう思い、来た海域を戻ろうと尾びれを翻した時ドボンッ!!と中々質量がある”モノ”が海に落ちた音があの船から聞こえた。


(あの船の物資かな?)

こういった嵐で人が振り落とされるというのは稀にあるが殆どは人ではなく自力で何かに捕まることが出来ない物資とかの方が多かった。
姉妹には変わり者と言われたが私は人間の作る芸術品や本が好きだった。もちろん果物だって美味しい。人魚は食事は必要ないが私みたいに好んで食べる人魚だっている。どっちにしろ落ちた”モノ”に興味は尽きなかった。

(お宝かもしれない…)

こんな嵐だ。波も荒れているし引き返した方がいいのは分かっているが次この海域にくるのはいつになるか分からない。なら今のうちにちょっと何が落ちたか位は見るのはいいだろう。
そう思って音がした方へ体を向けた。

(果物の箱ならナップルがいいな〜…あっインクが滲んでない新しい本でもいいかも)

音からしてこの辺りかと周りを見渡すが”物資”は見つからない。
もう少し沈んだのかと少し深く潜るとそこには







海藻に絡まって身動きの取れない黒いコートを身にまとった男の人がいた。


「う…


うわぁぁあぁあぁ!!!!?」

なんで!!なんでそんな器用な絡まり方したの!!?
どうやら今回は物資ではなく”稀”に落ちる人だったみたいで慌てて絡まっている藻を引き剥がした。

「まだ…息は…!!ある!!イケる!!」

水中なら重力や重量は関係ない。私より頭一つ分大きい体を抱えると急いで水面に向かって浮上する。
嵐と夜のせいで海の底はえらく暗いからか、抱えた男の人の金色の髪はやけに眩しく綺麗に輝いて見えた。
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