女の武器 [ 48/156 ]
ゆらゆらと揺れ、太陽の光を浴びてキラキラと輝く海をただ見つめる。甲板から手を伸ばしても船の上からはそこはとても遠く、届くはずがない。
「……ひま、」
確かこの感情はそんな名前だった気がする。
周りをバタバタと走り回る船員たちをチラリ、と見る。私も「何か」したい。
走り回るベンウィックを呼び止めるとどうした?と心配そうに尋ねられる。
「私、なにすればいい?」
「あー……副長にリアには何もさせるなって言われてんだよなぁ……」
「……アイゼン……が……」
ベンウィックに頼んでもダメだった。ここでもアイゼンの名前が出てきたって事は他の船員に言っても無駄だろう。じっとベンウィックを見つめると「う……そんな目でみないでくれよ…」と視線を反らされてしまう。
そんな私達を見ていたのか他の船員たちがベンウィックの肩をがっ、と掴み食い気味こちらに来る。
「なになにベンウィックがリアちゃん泣かせてるのか?」
「ちげーよ!……こいつ仕事したいんだって」
ベンウィックがそう言うと皆「あー……」とか「うーん……」と言った曖昧な唸り声が返ってくる。
「俺達もリアちゃんへ仕事させるの止められているからなぁ……あ、でもリアちゃん可愛いからあの副長に上目遣いで首傾げたらいっぱつだって!」
「そうそう!俺ならぜってーなんでも許しちゃうわ」
「なんでも……」
分かった、ありがとう。仕事に戻る船員たちに軽く手を振る。
俺たちで良ければいつでもなんでも言ってくれよー!と元気な声が聞こえた。するとそんな船員たちに紛れて心水の瓶を片手に上機嫌なアイフリードが豪快に笑っているのが見えた。
アイゼンと別れたあの後、暫く船長室にいたみたいだがまた心水を持っているということは仕事を終わらせた(?)のだろう。
「アイゼン、……より偉い人……」
彼なら「何か」させてくれるはず。
思い出したら「吉」そんな言葉があったようでなかった気がするのでとりあえず行動することにする。
もたれかかっていた甲板からアイフリードに向かって声をかける。
「アイフリ、ード」
「ん……?おおリアじゃねぇか。なんだ暇なのか?」
「そう、それ……」
あんまり大きな声は出してないがどうやら聞こえたらしい。階段を上がって来てくれたアイフリードのコートを引っ張る。
そして、確か、
上目で見て……?
「お仕事、ちょうだい。」
「…………おおう……」
「…ちょうだい……」
こりゃぁ……また…そんな風に意味神に呟いたアイフリードを視線を反らすことなく、じっと見つめる。するとアイフリードが「俺の負けだ……」そう呟いた。
「…………わかった。分かったからちょっと待ってな。俺が仕事の一つや二つ見繕って……」
「見繕うな。何してやがるテメェ……」
「アイゼン……」
もう少しで「何か」させて貰えそうだったのに…
あんまり効かないと思うが今度はアイゼンを見つめる。
「仕事……」
「却下だ。安静という言葉を知らないのか?そもそもアイフリード、お前なに仕事与えようとしてやがる」
「女の武器を200%使いこなしてやがる……そんなお強請りにお前は振り払えるとでも?」
「わけわかんねぇこと言ってねぇでさっき放り出した海路の確認を……」
アイフリードと喧嘩になりそうなアイゼンのコートを更に引っ張る。ようやくこっちを見てくれたアイゼンに今度は首傾げ…る?事もしてみた。
「アイゼン、仕事ちょうだい」
パァン
なんかそんな音がアイゼンの頭から聞こえた気がしなくもなかったが気のせいだろう。
「………………………………一時間待て」
「オメェも結局負けてんじゃねぇか」
よく分からないけど仕事が貰えそうだ。やった。