Helianthus Annuus | ナノ
海を辿って [ 67/156 ]

ほれほれ行くぞー、と女の子が急かす声でハッ、と現実に戻される。ロクロウも船を奪って島を出るぞと女の子の後に続いた。残された業魔の彼女も出口へ向かうので私もその後に続いた。

「え……っと……」

「…………ベルベットよ。出たいなら勝手になさい。アタシはこの島から出る事が出来ればどうだっていいの」

「私は……「おーいリア!!」……です…」

名乗ろうとしたがロクロウの声に遮られた。まあ結果的に名前を教えられたからいいか、と思っているとベルベットがあんたが例のアイドル……とぽそりと何かを呟いていたが小さい声のためあまり聞こえなかった。

「……まあいいわ、乗るならさっさと乗って。すぐに出るわよ」

「航海士、とかは?」

「そんなものいるわけないじゃない」

……大丈夫かな……?
アイゼンが言っていた。下手なシロートと一緒に行ってしまうと返って時間がかかるって。ロクロウが一応航海術は知ってるけど専門じゃねぇなぁと舵を片手に手を振っている。どうやら彼が操縦するようだ


……より不安だ。なぜか。


「船にのらないのかえー?」

「う、ん。……大丈夫」


これは他分泳いだ方が早いから、聞こえないように小声でいうと呼び止めることも無く思いの他あっさりと3人を乗せた船は出航した。

ロクロウは達者でなー!!って叫んでいたがなんていうか…………軽いなぁ。…………大丈夫かな…………?

でも下手に乗って荒波を被って人魚なのを見られるのも不味いしこれはこれで良かったのかもしれない。
船が遠ざかるのを見送ってそっと、私は海に飛び込んだ。



🌻





波に揉まれながらしばらく、だいぶ荒波を抜けたなと一息つくと先程までは見かけなかった魚達がちらほらと見えてきた。
あの監獄塔周辺は波が荒い為魚達も奥深くにしかいなかったのだろう。
ベンウィックを助けた時のように魚達にそっと近づくと「人魚だ」と物珍しげに私の方を見た。


「…ねぇ……バンエルティア号って船……知らない?」

色とりどりの魚達は右へ左へと波に揺られながら私の周りを泳ぎ回る。声をかけると一斉に喋り出した。


「どんな船?どんな船?」
「漁師の船ならわかんないよわかんないよ」
「あれは怖い。怖い。仲間が攫われた」
「危ない船、怖い船。近づかないよ」


「……怖くない船だよ……竜骨……えっと船の下の部分が黒い船だよ。しらない?」

竜骨、と呼ばれる船の核に当る部分がバンエルティア号は黒いウキウ樹で出来ていると船大工から聞いたことがあった。その竜骨は海に面してる部分で海側から見たらちょうど見れる部分。魚達にとってよく見る場所だろう。
漁師が使う船は基本的に木の加工はあまりせず自然の色そのものだ。だから竜骨が黒い船というのは珍しいものだろう。魚達は「りゅーこつ」「黒い」「ふね」と各々がわちゃわちゃと話し合う。見たことある?ある気がする、どこでだっけ?
魚達がお互いの情報を交換し合うとまた一斉に喋り出した。



「人がつくったかべ。高いかべ」
「アレのせいで流れが変わった向こうへ行けなくなった」
「そこにいった。そこに行ったと思う黒い船」
「僕たちを見向きもせずにまっすぐ行った。何度も通った」



「壁……?何度もそこに向かってる……?場所は分かるかな?」

見たことはあるらしい。だが言いたいことがよく分からない。壁……?海の中に壁があるのか……?そして何度も何故そこへ向かっているのだろうか?
疑問ばかりが降り積もるが貴重な情報だ。今はこれに縋るしかない。場所を聞くと魚達はみんな一斉に同じ方向を見る。そして黒い船見たよ見たよ、と私を導いてくれた。



「あれはどこだっけ、どこだっけ」
「あっち。あっち」
「ほらあったちだって、あっちだよ」



「…………ありがとう、行ってみるね」

魚達にお礼を告げてその場を立ち去るが何匹かは付いてきた。案内でもしてくれるのだろうか?と特に振り払わずにそのままにしておくと魚達はまたしゃべり出した。


「かわいそうに。かわいそうに」
「一人ぼっちで海を漂ってる。一人ぼっちで」



「はぐれた人魚」
「可哀想に」
「ひとりの人魚」
「人間の真似事」
「だからはぐれたんだ」


「…………ッ……」

ズキンズキン、空っぽのはずの胸が痛む。
何故かその言葉はどこかで聞いたことがあった。
可哀想な人魚、…………私は可哀想なのかな?

……ううん……違う、可哀想じゃない。
アイゼン達がいる。アイフリードや皆もいる。今ちょっと迷子なだけ。

だから大丈夫だよ。


魚達を振り払い私はただひたすら泳いだ。
その「壁」へ向って



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