Helianthus Annuus | ナノ
連れてこられた場所 [ 59/156 ]

何やら騒がしくなった港に嫌な予感がした。胸騒ぎが収まらない中、人混みを掻き分けて進むとさらに嫌な噂が嫌でも耳に入る。


「嫌だわぁ街中に業魔がいたなんて……」
「見た目は普通の女の子だったのに…」
「馬鹿野郎!!ああいう奴ほど危険なんだよ」
「聖寮が捕らえてくれて良かった…」

「業魔」「女」「聖寮が捉えた」
とても安心できないワードが群がった連中達で飛び交う。

先ほどエリアスが夢中になって買い物をしていた場所に戻って来たがそこにエリアスの姿もベンウィックすら当たらなかった。野次馬の中に海賊団の乗組員も居た為捕まえて肩を揺する。

「オイッ!!何があった!エリアスはどこだ?!!」

「ふ、副長……!せせ、聖寮の奴らにエリアスちゃんが連れていかれて……!」

「場所はどこだ!?」

「そこまでは……!!すみません!でも船に乗せられていたのをベンウィックが目撃したそうです……!」

聖寮、船、業魔、となると考えられるのは業魔と勘違いされたエリアスの行き先は「監獄島」だろう。あそこの海域は脱獄者を拒むようになっている為水の聖隷でもいない限り渡るのは難易度が高い。今すぐに追いかけることはまず不可能だろう。



「エリアス……!」

握りしめた黄色の包装がぐしゃり、と形を変えた。


🌻



「くっ…しゅん……ッ!」

くしゃみなんて初めてした……水の中じゃ縁がなかった現象だ。
あれから無理矢理乗せられた船に揺られてしばらく。手首に付けられた手錠をガチャガチャといじるが抜けそうにもなかった。

なにやら刻印のようなものも刻まれている為聖隷術も使えない。
しばらくソレを触るが諦めて壁に体をもたれかかせる。

(前にも……こんな事あった……気がする、)

覚えていないが私が人間にこの耳をとられた時だろうか?こうして手錠を付けられてどこかに閉じ込められていたよう……な、……



「しょうがないのぅ」


ズキン、と小さな痛みが頭を過ぎる。
そう、私はこうして捕まった時に話していた「人間」がいた。確か女の子。でも、

「…………だれ…だっけ…?」





私の記憶は欠陥していて思い出せそうにもなかった。





一度すごい揺れが来た、と思ったら今度は静かになる。バンエルティア号が島に到着した時に起こる揺れと似ていたので恐らくどこかの島に着いたのだろう。

「おいちゃっちゃっと歩け!!」

「いた……っ」

檻のような場所から無理やり引きずられるように歩かされ、船から降ろされて着いたのは絶海に建てられた塔のような建物だった。

「塔……?」

どこか禍々しい雰囲気を放つそこに、思わず足が竦むが対魔師はそれを気にすることなく私を無理やり歩かせる。

そして建物の中に入ると別の対魔師がおり、私を引き渡す。

「新しい業魔だ。コイツを適当な檻に入れておけ。」

「ええ……!?ですが若い女性の業魔ですよ?獣となった業魔の檻に入れて大丈夫何でしょうか?」

「業魔なんだ。そんなことは気にしなくていい!」

乱暴に押されて後ろ手に拘束されているので受け身も取れないまま倒れかけた時、私の顔は石畳の床ではなく、白い洋服に埋まった。

「待て。何をしている。」


「おおお、オスカーさま!!?なぜ一級対魔師の貴方がここに……!」


(いっきゅーたいまし?)

どうやら私を支えてくれているのはその対魔師らしい。そっと顔を上げると綺麗な緑色の瞳が見えた。
その瞳が私の視線と合わさると、彼は少し瞳孔を開いてこちらを見つめていると、そっと、口を開いた。

「……この女性は業魔ではない。……聖隷だな。」


「す、すみません!特に確認もせず、「島で捕獲した業魔」としか受け渡しの際言われておらず……」


(…聖隷でも業魔でもないんだけどな……)


「なら、僕が預かろう。見たところAランクの聖隷だ。誰かが使役している訳では無いんだな?」

「お、恐らく……」


着いてこい。そう手を引かれて緑色の綺麗な目の対魔師、オスカーは私をまた別の場所へ連れていった。



なんだかアイゼンとどんどん遠くなっている気がする。
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