こだわり [ 43/156 ]
「という訳でコイツも船に乗せることになった。」
「要約しすぎだろ」
まあ俺も大歓迎だけどな、エリアスの頭を撫でて豪快に笑う顎鬚の男……船長アイフリードはエリアスの船の滞在を認めた。
「エリアス、ここにいる奴らにはお前が人魚である事は告げてある」
「俺たち、陸のはぐれ者が集まった連中だからさ!リアの事をどうこうしようと思っている奴はいないからな!」
「人魚は海の女神と言われているしな、死神が乗っているんだ。女神を乗せないでどうする。」
アイフリードの豪快な笑い声にエリアスは小さく頷くと「よろしく……」と掠れた声で言い立ち上がり、ぺこりと一礼した。
「……エリアス、ベットに入ってろ。」
「……?……お辞儀、だめ……?」
「そうじゃねぇ……」
エリアスの今の格好は男物のワイシャツを羽織っただけの姿だ。サイズがあっていない為、太ももまであるが脚はほぼむき出しであることには変わりない。それをニヤニヤと眺めるアイフリードをとりあえず1発殴っておくとエリアスを無理やりベットにもどした。
「いつつ……んだよケチくせぇな……まあだが、とりあえず服だな。エリアスの服だと目の保養だが飢えた男どもには毒でもあるだろ。」
それには全力で同意する。頭を抑えてこちらを睨むアイフリードを無視して俺は船医室のドアを開けた。
「そんな事もあろうかとかめにんを呼んでおいた」
「どもーっす!」
よく宅配や服のオーダーを頼むかめにんだ。こんな無人島にも呼べば駆けつける(かめなので多少遅いが)便利な行商人だ。
「準備が早くて気持ち悪ぃな」
「あ”あ”?」
「ちょっメンチ怖いッスよ副長!!ほらエリアスもビビって…………ないな、うん」
「…?アイゼン、は、怖くない…よ?」
「…ッ……!!」
「見ろうちの子をみたいな視線やめろ」
「あのー、それでオイラはどなたの服を作ればいいっすか?」
恐る恐る挙手してきたかめにんに呼び出した要件を思い出す。こいつの服を作ってほしいとエリアスを指すと、どんなデザインがいいっすかー?と間の抜けた声で尋ねられる。
「脚は見せようぜ。これ船長命令な」
「変なところでそんなの使ってんじゃねぇ。……露出は低めで頼む」
「リアの水色の髪に生える色がいいんじゃないかな?」
「……動きやすいの……」
「おおーう……見事にバラバラっすねぇ……えーと脚は露出しているけど他の露出がなしで水色に生えて動きやすい服……っすか…」
「いや脚の露出も却下だ」
「いや脚は大事だぞ。エリアスは美脚だしな」
アイフリードと睨み合うとオイラどうすればいいっすか……と項垂れるかめにんにとりあえず作ってみろと投げやりに頼んだ。
「まあ副長はご贔屓さんっすからね…。やってやりまっすよ!!あっ採寸するので男の人たちは出て言ってほしいっす」
どいたどいたー、とかめにんに押されるまま俺とアイフリード、ベンウィックは部屋から締め出される。
バタン、閉じたドアを前にふとベンウィックが呟く。
「…………あのかめにんってメスなんですか?いや女なんですか??」
「…………両生類……じゃないのか?」
「……いや俺も分からん」
とりあえず今はエリアス快気祝いの心水でも飲んで待とうぜ、と心水を取りに行ったアイフリードに今日は付きやってやるか、とベンウィックに見張りを任せて奴の後に続いた。
「どうっすか?!」
「却下だ。胸の露出は控えろ」
「こ、これはいいっすよね!!?」
「……却下だ。フリルが多すぎる」
「……ぐぬぬ……!どうだー!!!!」
「却下だ。もうそれは論外だな」
「ふくちょー……いつまでこのファッションショー続くですか……」
「俺が納得するまでだ。」
「それ一生かかるやつですよね!!見てくださいエリアスの顔!着せ替えされ過ぎて脱力した顔してますよ!「(-ι_-)」って感じになってきてますよ!!」
確かに衣装のダメ出しの度に着替えていたエリアスは病み上がりだ。さっさと済ませてやらないと体調に障ってしまう。暫く考えていると宝物庫にあった「布」を思い出す。
「おいベンウィック、宝物庫にリチアの布があったなアレをもってこい」
「ええ!!?あの布は異界で手に入れたエメラルドの絹糸で編み込まれた失われた文化の代物って前に副長…」
「いいから早くしろ!!」
「あ、アイアイサー!!!!」
「…………(-ι_-)」
「多分あと少しで終わるからその顔はやめておけ。心水飲むか?」
病人に心水を進めるアイフリードを1発殴ってベンウィックが戻ってくるのを待った