強いという意味 [ 94/156 ]
「どうしたのエリアス!!?すごい怪我…!!」
「ライフィセット、お前もこいつに治癒術を頼む」
血を流したからかくらくらする。これが貧血と言うやつだろうか?腕から流れ出る血にライフィセットが大袈裟に慌てて治癒術をかけてくれた。
「なんじゃ、勿体ないのぅ人魚の血は高く売れそうなのにのー」
「てめぇ……」
「ぉぉーこわいこわいのぉ儂は裏切り者に逃げられて傷心中なのじゃ、優しくしておくれ」
「裏切り者、見つかったの?」
いつの間にかに合流していたマギルゥは実はのぅ涙目退魔師の元に儂の可愛いかわいい裏切りものが、話がとても長かったのでここで略しておく。
マギルゥの話を聞いているとじっとしていて!!と、ライフィセットに怒られてしまった。ちなみにロクロウにも怒られた。心水のことで。
「お前……っお前……もったいないことを…!!今からでも戻ったら取り返せないか?」
「ごめんね。むり」
「……いいさ…リアに預けた俺も悪かってたしな……ライフィセットに預けておけばよかった…!!」
「持たせるわけないでしょ」
ライフィセットのおかげでだいぶ止まってきた血に私じゃなくてアイゼンがほ、と息を吐くのが見えた。
改めて治癒術ってすごいなぁとライフィセットのつむじとアホ毛を見つめる。そう言えば、この耳にも効くのだろうか。
「ライフィセット、」
「どうしたの?まだ痛い?」
「この耳にも、それ効く?」
「っ……」
髪の毛をかきあげるとライフィセットが息を飲む様子が見えた。ベルベットも少しだけ目を見開くが一瞬だけだ。ライフィセットは、どうだろう…と呟いて「戻すことは出来ないけど傷跡を軽減することはできるかも、」と腕にかけ終えた治癒術を失った片耳に向かってかけてくれた。
「いた、そうだね」
「今は痛くないよ」
「そっか……人魚って耳が鋭いんだね」
追っ手が来るかもしれないので耳の治療は移動しながら行ってくれた。後でもいいよ、と言ったのだがライフィセットは僕がやりたいんだ。とこちらを真っ直ぐ見つめて言うのでエリアスが折れた。
反対側の普段隠れている尖った耳を珍しいそうに見つめるライフィセットはそう言えば、とマギルゥへ視線を移した。
「マギルゥも耳、鋭いよね」
「儂の耳は実は人魚の血肉を食らったせいでこんなに立派で可愛いお耳なのじゃ~」
「そう、なの?」
「嘘に決まってるでしょ……マギルゥの言うことを真に受けない方がいいわよ」
「う、うん」
腕に付着したカピカピに固まった血をペリペリと剥がしているとアイゼンが「嘘なら、いいがな」とマギルゥを睨みつけた。
マギルゥ、はそんなことしないと思うのだが、なぜそう思ってしまうのかは分からないので今は言わない事にした。
🌻
聖隷術が使えても、なんて自分は無力なんだと、ライフィセットは感じていた。
爛れていた所は少しだけマシになった、程度のエリアスの傷口にもっと、もっとちゃんとしないと、とその小さな拳を握りしめた。
「なんだライフィセット。またしょんぼりしてるみたいだな」
「はぁ……」
「おっ、今度はため息か?」
ライフィセットの気持ちを察したかのようにいつもの変わらない気さくな笑顔で少年に近づくと「お前も感情豊かになってきたなぁ」とそのアホ毛のたった髪を撫でた。
「……ねぇ、ロクロウ。僕は今誰かの役に立ててるのかな」
「ん?」
「ロクロウはなんでも斬れるし、
アイゼンは誰でも殴る。
ベルベットは強いし、
あの左手でなんでも食べる
エリアスだって水がある所ではすごく強い」
「儂は!!?儂は!!?」
「どうした?」
ライフィセットの話が耳に入ったらしいアイゼンも近づいてくる。マギルゥの事は皆慣れたようにスルーだ。
……僕は格闘術や刀の扱いは得意じゃないし、弱くていつもみんなに守られてばっかりだとライフィセットはうなだれる。しかしそれに対してもロクロウは笑顔だった。
「何言ってるんだ。お前の回復術があるお陰で俺たちは迷わず戦えているんだぞ」
「そう……だったら嬉しいけど、でも……」
「いきなり一人前になれると思うな」
不意に、アイゼンが口を開いた。
ベルベットもそれに続くように「タダ飯食らいのマギルゥよりかは役立ってるわよ」と自称魔女の帽子を掴む。
こらー!!ワシのプリティハットにー!!以下略。ライフィセットはアイゼンの言葉に「どうして?」と返した。
「心が解放されて間もないお前が、ここまで戦い続けられる事は充分にすごい事だ」
「応。俺もそう思うぞ」
「本当……?」
「嘘を言ってどうする」
「強さというのは、単純な力だけじゃない。何かを守るという気持ちがあって得るものだ。お前がその努力を怠らなければ、必ず強くなれる」
その言葉にライフィセットはそっと胸に手を置いた。自分自身に問いかけるように。その様子を見ていたエリアスは変わっていくライフィセットに少しだけ、「羨ましい」という感情を思い出した。
「強いよね」
「坊がか?」
「うん、皆……」
「……その中に儂は入っておるのかの?」
「?、もちろんだよ」
「……見る目がないのう」
マギルゥはベルベットに掴まれた帽子を整えるとその顔を見られないように深く被ったまま何も言わずに先にローグレスの門を潜った。
それにライフィセットとアイゼンも続く。
「その気持ちさえあれば、お前は必ず強くなれる。今はそうでなくても、いつの日か必ず」
「うん………」