侵入 [ 77/156 ]
それから私に何か言いかけて黙った、アイゼンは「……今は策戦に集中しろ」と崖に聳え立つ海門の搬入口を見据えた。
その視線の先には見張りの人間が2人と、先程見た門より簡素な入口があった。
「あれが搬入口……」
「こっちは警備がいるな」
「つまり結界はないってことね。行くわよ」
先に様子を探っていたベルベット達が警備の見張りの二人に襲いかかろうとする。サポートしなきゃ、と私も後に続こうとすると見張りの人たちから"嫌な気配"を感じた。
「だめ……!その人は……!!」
「気をつけろ!そいつは!」
聖隷、の二人も気づいた様で後ろから声を荒らげた。それに反応してベルベットとロクロウが咄嗟に戦闘態勢を取る。
すると見張りの人間だった、人たちが唸り声をあげながら黒い淀みを纏い、トカゲの様な……業魔になった。
「いきなり業魔になりやがった!!」
「どういう不運よ!?」
「だから言っただろう!」
目の前で凶暴化した人間に慌てて水を出して弱らせるとそこをロクロウが切り裂いた。後ろにいた2号も術でサポートしたお陰もあって、急なことだが怪我人は出なかった。
「これが……業魔病……?」
「警備が業魔病にかかっているとはな……これも死神の呪いか?」
「まあな」
ロクロウの問いに対してアイゼンはどやぁ(ベンウィックが教えてくれた)と言った感じの顔で答える。
ベルベットは「なんで偉そうなのよ……」とブレードについた血をはらって、ため息を吐いた。
「……けど突っ込んでいたら危なかった。止めてくれて助かったわ」
彼女は仕込み武器をしまってアイゼンを一瞥し今しがた倒したトカゲの業魔を見下す。アイゼンは、俺じゃない。こいつが気づいたんだと視線で2号を指した。
「あんたが……?」
「っ…………」
ベルベットがアイゼンから二号、に視線を移すが二号はベルベットのその視線から逃れるように俯く。
しばらく二人の沈黙は続いたが、二号の様子を見てベルベットがそっと口を開いた。
「…………これからもしっかり警戒頼むわよ。死神が一緒なんだから」
「……?」
ベルベットの言った事をあまり理解してなかったらしい二号が首を傾げる。するとロクロウがニヤニヤ笑いながら二号の背中を押した。
「喋ってもいいってことだよ」
「良かったね」
それだけを告げて我先に、とベルベットは海門の裏口へと入っていく。その後ろ姿を見ながら二号は拳を握りしめた。
「ぁ……っ警戒はしっかり」
「……やっぱり道具、なんかじゃないね」
ベルベットの後駆けていく二号を見てそう呟くと隣を歩いていたロクロウがリアも行くぞ、そう私を急かした。
「……アイツに続いて侵入するぞ。ぼーっとするな」
「……、二号……は……ちゃんと意思ある……」
「……?おい」
「ううん、なんでもない……」
波のように流されるまま着いてきているが、本当にこのままでいいのだろうか……皆に迷惑をかけるくらいなら海に戻って人魚として生きて、死んだ方がいいのかもしれない。……この要塞を抜けたら、少し考えよう
足にはったバリアーをかけ直すと意気揚揚と乗り込もうとしているロクロウの後を追った。
🌻
侵入した海門要塞の内部は業魔病が蔓延しており、先程の門番ようなトカゲの業魔や鎧の業魔が溢れていた。
理性を失っている彼らは容赦なく襲いかかって来る為、こっそり侵入、とは行かなくなってしまった。
「ううむ……海門中に業魔がいるようだな……まさかアイゼンお前が業魔病の原因じゃないだろうな?」
「……いや、偶然蔓延した所で俺達が来たんだ。……死神の道連れとはこういう事だ。悪く思うな」
襲いかかってくる業魔を殴り飛ばしてアイゼンがロクロウの問にバツが悪そうに答える。
……?そういえばそもそも業魔病の"原因"って何なのだろうか?
そんな事を考えながら聖隷術で生み出した水を二号に襲いかかろうとする業魔に向けて飛ばした。
パシャン!生み出した水が床に弾けると同時に敵の……業魔の動きは止まった。
「……ごめんね」
入口にいた業魔を一通り倒し終えるとベルベットは辺りを見渡す。どうやら生きている「人間 」はいないか確認している様だった。
「……むしろ好都合ね。敵は組織的な行動ができなくなっている」
「こっちは少数だ。確かに乱戦の方が有利に立ち回れるな」
死神の呪いすら利用する二人に、アイゼンはニヤリと笑うと予め調べていたのか、この海門の見取り図を広げた。
「開閉装置は海門の上部にあるはずだ。それを起動して合図の狼煙を上げる」
「了解、海門の上ね」
簡素だがわかりやすい地図で現在の位置を確認するが要は上を目指せばいいんだな!!とザックリとしたロクロウの状況把握で纏まり、先を進む。
「……っと、」
「あまり無理をするな」
倒れている兵達を避けながらベルベット達の後に続こうとすると、長時間歩くことに慣れていない為よろけてしまった。すると後ろからアイゼンがそっと支えてくれるとそのまま何も言わずに進んでいく。
「あっ……りがとう……、」
「……ここは穢が蔓延している。人魚は……お前は大丈夫なのか?」
「穢……?って、……」
「…………いや、お前に影響が無ければそれでいい」
私の疑問に答える前に視線を逸らされる。……またモヤッとした。だがこの場所ではあまり考えている暇もなく、先頭を歩いていたベルベットに早く行くわよと急かされた為、先程見た地図の通りに一度建物の中から海門内部へ出た。
目の前に広がる閉鎖的な海は何故か数時間ぶりなのに懐かしいものに見えた。……このまま人魚になってこの場から居なくなることも出来るだろうが今はそれをする気にはならなかった。
「アイゼンと、ちゃんと話さないと……」
「、……大丈、夫?」
「!……うん、ありがとう……えっと……二号」
「うん……警戒は……しっかりして、るよ」
最初と比べて、たどたどしくだが話すようになった二号は私の後に続いて周りをきょろきょろ見渡している。すると「船……」と小さな声で海門近くに止められていた船を指さした。
「おい、船が残ってるぞ」
「戦艦だ……マズイな」
「海からの陽動がやられる可能性があるわね」
開閉装置を探す他にあれも破壊していくぞ、と目的が一つ増えた、ので更に速歩で駆けていく。崖沿いの道を伝ってまずは装置があると思われる上へ目指していると建物内部に再び入る為の梯子にたどり着いた。
「梯子……」
「……お前は高い所が駄目だったな。……なら最後尾は危険だ。俺の前に登………………いや、……」
私がもしも落ちた時対処できる、と言いかけて黙った
アイゼンはチラリ、と私の足を見てベルベットに声をかけるがロクロウと二号、私はよく話が分からず首を傾げた。
「なんだ?なら俺がリア後ろに……」
「ベルベット、エリアスの後ろ頼む」
「……わかったわよ。それとロクロウあんたそれセクハラよ」
「お、応」
先頭はロクロウが登りその後ろを二号、もし二号が落ちた時に支えるのはその後に続くアイゼン。その後に私が登りベルベットが続くことになった。
「?、別に後ろはアイゼンでもいいんじゃないの……?」
「……いいから、ほらあんたはアイゼンに続いて登りなさい」
「う、うん」
なるほど!スカートか!!と登り終わった後に閃いたらしいロクロウは無言のアイゼンとベルベットに殴られていた。