桃色の君に



「僕はアズール。よろしくねルフレさん!」

アズール、と名乗った彼はどうやらオリヴィエさんとリヒトさんの息子……として生まれる予定の人物が未来から来たという。確かに彼はリヒトさんと同じ桃色の髪をかきあげてオリヴィエさん似の端正なお顔をしている。
二人の特徴を見つける為にじっ、と思わず見つめていると彼は器用にウィンクを返してきた。

ルキナさんを初めとした未来から来た子供たちはアズールさんとの再開を喜んだ。私も戦力になるのであれば歓迎すると、伝えると彼はあっという間に遺跡に居座っていた賊たちを壊滅させた。
実力はあるようで、お決まりの指輪で二人の子供の証明を済ませた彼をこの軍の剣士として採用することになった………のだが、このアズールという男は他の未来から来た子供たちに並ぶ、一癖も二癖もある男だった。


「やあルフレさん、今日も綺麗ですね!良ければ一緒にお茶でもどうですか?」

「あら、アズールさん。悪いですけど今ちょっと忙しくて……あなたの戯れに付き合っている暇はないのです」

私が拠点としているテントを捲って現れたアズールさんに淡白に接して追い払おうとするが、彼に嫌味は通じていないようだった。
むしろ笑顔で更に距離を詰めてこちらに歩み寄ってきた。


「え〜……ひどいなぁ!僕これでもすごく真摯な気持ちでお誘いしたんですよ?」

「その割には、向こうで別の女性兵士に声をかけてたみたいですけど?」

「それって……嫉妬ですか?」

ニコニコと人当たりのいい笑顔で段々と距離を縮めるちゃら男にため息を吐く。オリヴィエさんの内気とリヒトさんのショ…おっと可愛らしさが全然受け継がれてないこのナンパ男にこうして何度ため息を吐いたかわからない。まったく……めんどくさいのはどっかの聖王だけで十分なのに……

「あっまたため息吐いてますね、幸せげちゃいますよー?」

「誰のせいだと……、はあもういいです。リヒトさんの真摯な所は似なかったのですね貴方は」

「そんなことないですよ?だってさっきも真摯な気持ちで声をかけたのにフラれちゃいましたし……」

「…私とあなたの中では『真摯』という言葉の意味が違うみたいですね」

「そうですか…じゃ、お互いの誤解を解くためにも、
よく話し合わないと!」

「仕事の邪魔ですので遠慮しておきますね」


このままだと彼のペースに飲まれる。そう感じたので彼の視線を完全に断ち切り読んでいた軍事書へ目を戻すとまだ帰らないアズールさんはなにやらキョロキョロとあたりを見渡し始めた。

「ルフレさんってさ」

「しつこいですよ」


尚付きまとう彼に強い言い方になった。でもこのくらい言わないとわからないだろう。
持っていた軍事書を閉じると未だに私の天幕に居座る彼を睨み付けた。

「うわわ!そんな怖い顔しないでってせっかくの美人が台無しですよー」

「誰がこんな顔にさせているんですか!早く帰ってください、本当に邪魔です」



態度ではなく言葉で直接言うと彼は少ししゅん……と落ち込んだ様子を見せた。一瞬可哀想と思ってしまったが彼はすぐに表情をにこやかな笑顔に戻すと、じゃあ一つだけいいですか…、と真面目な顔をして距離を更に詰められた。

「何ですか近いですよ。キスでもしたいんですか?」

掴みどころのない彼なので敢えてからかうような口調で言うと彼は桃色の髪の毛と同じくらい顔を染めてばっ、と距離を置いた。

「へっ……!!?いや、ちがっ違いますよッッ!!」

「あら、可愛い顔ですね。オリヴィエさんの恥ずかしがり屋は多少は似たみたいですね?」

「かわ、可愛い!?…、ううう~……は…、恥ずかしい……」


顔から蒸気が出そうな程赤く染めた頬を隠すようにしゃがむと、上目遣いでこちらの様子を伺っているアズールさんを見て私は少し笑った。


「その、距離を詰めたのはごめんなさい、……僕が言いたかったのは…ルフレさんってさ、何か病気とか…なの?」

「は?何を言っているんですか?」

「大きな声では言えないけど…ルフレさんってさよく吐いているでしょ?」

「っ!?」


見られていたのか、察しがいいのか彼は人の顔色を見るのが得意らしい。
だが女性に向かってそのまま告げるのはデリカシーにかけていないだろうか。思わずイライラしながら口を開いた。

「……ええ、よく吐く軍師ですけどなにか?」

「ははは、それクロムさんが言ってたな……でもその言い方女の子に失礼ですよね」

「女の子という歳でもないですが……とりあえず後でクロムさんは殴っておきます」

この分厚い軍事書の角をあのデリカシーがマイナス振り切れてる聖王へめり込ませてやる、と立ち上がると顔の赤みが引いたらしいアズールさんに腕を掴まれる。

「……なんでしょうか?」

「いや、うまい具合に誤魔化されちゃったから…で結局ルフレさんは病気じゃないんだよね?」

じっと彼のすんだ瞳で見つめられると私が嘔吐する理由が初恋の拗らせによるものなんて、とてもやましく思えて(実際そうだが)とりあえず彼の私の手を掴んだ右手首に向かって軍事書を振り下ろした。


「ッいッッた…!!?」


「…本当、アズールさんって軽いですね。そうやって色んな女性の心配をされてきたんでしょう?むしろ、チャラチャラしてないほうが女の子にモテるんじゃないのですか?」

「…いつつつ……僕、チャラチャラなんてしてないですよ?も〜、ルフレさんったら酷いこというなぁ〜……まあ、そんなツンケンしている所も魅力なんですけど…今日のところはこの痛みに免じて引きますけどまた遊びに来ますね」

「来んな」


とりあえず近くにあった薬草を彼に投げつけるとアズールさんはわかりやすく顔がにやけたあと「ツンデレなところも好きですよー!!」とか言いやがったので今度はトロルの書を物理的に食らわせてやった。





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