※絆の秘湯ネタバレ
赤色の彼が思い出に縋ろうとするのを"彼女"はそれを否定した。
「うぅーん、無いなぁ…手頃な物ってなかなか見つからないよ…」
「アズール、何か探しものかい?」
僕達は行商人のアンナ、という女性の招待の元、とある秘湯へ休息に来ていた。彼女達曰く、いつも異界の平和を守ってくれている貴方達にこそ来て欲しいの!と大盤振る舞いな対応をされた。
だがそこで屍兵たちが現れ戦闘になってしまい、先程ようやく戦況も落ち着いてきた中で僕はとある捜し物をしていた。
そんな最中、父さんに声をかけられた。丁度いいちょっと相談をしてみようと笑顔で僕は顔をあげたら「かわっ……」って何か言いかけてゴホンッって咳払いをしていた。
「それで、探し物ってなんだい?」
「いやー、この場所での旅の証を探してるんだよ」
「旅の証?」
「うん。その場所の思い出になるようなものを見つけてそこに行った証として持ち帰るんだ。例えば…海なら貝殻とかだね。そしたらその証を見るたびに、ここでのことを思い出せるでしょ?」
僕"が"この世界に思い出は残せない。だからその証だけでも持っていたかったので屋台とかを見て回ったがクロムさんの顔のお面とか……持ち歩くのに少し勇気のあるものが多く、お店の人のセンスはきっとルキナと同じような人なんだろうなって思ったのはここだけの秘密である。
父さんは少し悩む仕草をして「ああ」と頷いた。
「へえ、それは素敵だね。確か前にオリヴィエも同じようなことを言ってたけど…もしかしてそれってオリヴィエから教えてもらったのかい?」
「えへへ…さすが父さん何でもお見通しだね。父さんの言う通りこれは母さんからの受け売りなんだ」
元々キャラバンの踊り子だった母さんはこういった思い出の品物を見つけることが好きだ。僕の嗜好は何方かと言えば母さんに似ているのでこう言ったことは母さんを真似てしまう。でも父さんに教えて貰った事だって、僕はよく受け売りしている。
「あっでも花言葉とかは父さんに教わったものだよ」
「え……」
「「好きな人に教えて貰った」って父さんが教えてくれたんだよ。あっ!父さんの好きな人ってことは……結局母さんに教わってもらってるって事かな」
「……そっか、僕に…………ふふ、そうだね。"私の好きな人"に教えてもらったんだ。花言葉はね」
「やっぱりねー」
父さんはよく「私」って一人称をつかう。多分お偉いさん達と話す時の口調とかが無意識に出てしまっていると僕は勝手に思っていた。「それでいいのはあったのかい?」って話を戻してきた父さんが僕の手元を覗いてきた。
「それが全然無いんだよ!最初は僕や父さんの髪色みたいなこの赤い葉っぱを持って帰ろうと思ったんだけど…本か何かに挟んでないとすぐボロボロになっちゃうんだよ。これから持ち歩くことになるからできれば壊れにくい物の方がいいんだよね」
どうしたものか、と頭を悩ませていると父さんが「あっじゃあこのお湯は?」なんて冗談(?)を言ってくる。
お湯は持ち運べないでしょう……って言い返して岩を砕けばいいかな、なんて僕も冗談を返すと危ないからやめなさいって真顔で言われた。……過保護だなぁ。
父さんは宛にならないなぁ、と詮索を再開するとキラリ、と足元で光る輝きが見えた。
「あっ父さん、見て!温泉の浅瀬に手頃な小石があったんだ!色もここの雰囲気にぴったりの紫色だし旅の証としてはぴったりだよね!」
「へえ、確かに綺麗な石だね。いいのが見つかって良かったねアズール」
「うん。これで僕は覚えていられる。みんなで温泉に来たこと……この石は、ずっと大切にするよ。
…ずっと」
これでこの世界に、僕がいたって、証に残せる。
そう思ってその石を握りしめていると「そんなに旅の証って必要なものなの?」って父さんが首をかしげた。
「うーん………旅の証っていうより思い出を大事にしたいって感じかな。僕、楽しい思い出ってびっくりするほど少ないから……未来では…辛いことの方が多かったし、こっちに来てからもこの軍に合流するまでは大変だったから」
「あー……うん。ごめん」
「?、父さんが謝ることじゃないよそれに、平和になったら…未来に帰れても帰れなくても父さんや母さんとはお別れになる……だから今のうちに、いっぱい思い出を作っておきたいんだ」
何か容れるものないかな、ってポケットを漁っているとぞくっ、て寒気がした。
……しまった、父さんの"地雷"に踏み入れたらしい。
「待って、帰れなくてもお別れって………どういうこと?」
父さん、は未来も、この世界の父さんも、僕の怪我や僕が居なくなることをとても危惧していた。
愛されている、って自惚れでなくても思えたし、嬉しかったけど。こうなると父さんはとても怖い。
でも僕は言い訳をする気はなかった。
「……だって、この世界にはもうすぐ、本物の僕が生まれてくるでしょ?そしたら僕は、彼の傍にいるべきじゃないよ。この時代の彼に、僕が影響を与えるのは、
……きっと…良くないことだから…そう思うと、僕が父さんや母さんといられる時間って意外と少ないんだよね…」
えへへ…ちょっとだけ…寂しい、かな。
そう言って笑って誤魔化す。
「ごめんね、変なこと言ってでもこの石があれば大丈夫。父さんや母さんに会いたくなってもこれを見れば我慢できるよ。
いやー、ちゃんと手頃な物が見つかって良かったなぁ」
何でもない、ように悟らせないように、笑うのは慣れてしまった。だからこれで誤魔化せたかな。
ニコニコと笑い続ける僕に父さんは「ふぅん……」と納得したような声を返した。それに少しほっとする。
「……ねえ。その石…ちょっと見せてくれないか?」
「う、うんいいよ……ってええぇぇええええ!!?!!」
父さんは僕から受け取った石を構えるとそれは綺麗かフォームで振りかぶって「てやぁ!!」と気合の入った声と共に投げた。
「なんで石投げちゃったの!?も、もしかして僕に取ってこさせる新しい遊びじゃ…ないよね?」
「それはそれで楽しそうだけれども違う!!そんなものの為ならあんな石はいりません!!」
楽しそうって思っちゃったんだ……
少し父さんの思考に引いていると「いらないよ」とまた否定の言葉を繰り返した。
「あんな石に思い出を閉じ込めて寂しさを紛らわすぐらいなら…いらないって言ってるんだよ
いいかい?、思い出を作れるのは今だけ、みたいなこと言っちゃダメですよ。
君にはこれから楽しいことがいっぱい待ってる。いや、待っている世界にしないといけないんだ………そのために"貴方"はここに来たんだろう?」
そう言って、父さんは僕の頭を撫でて僕の手にそっとそれを置いた。
「……それあげるよ」
「これ、……父さんのじゃ……」
「いいの!いいから!ほらアンナって人に着付けしてもらうんでしょ」
背中を押されながら僕は握らされた手の中のものを見た。
赤い瓶の香水だ。サルビアの香りの。
サルビアの花言葉は母さんに聞いた。
「尊敬」「知恵」「良い家庭」「家族愛」尊敬、という意味を込めて元々は母さんが父さんに贈ったという香水。未来では僕はその香りを気に入って少しわけてもらったいたものだ。
「うん。そうだね…父さんの言う通りだ。後で自分を慰めるための思い出を作るんじゃない。これから先を笑顔で生きるための思い出を作らないといけないね!
ふふ、ふふふ!」
「何笑っているの……」
「いやー、僕ね、嗜好とか考え方とかは何方かと言えば母さん似でしょ?」
「う、うん。そうだね」
ギュッ、と握りしめた香水の瓶は父さんと同じ色。赤いサルビアの色。僕はこの香りが大好きだ。
だからこれをくれた父さんも、もちろん大好きで、好きな人から好きな物を貰えるなんて、僕はなんで幸せのだろうか、と笑がこぼれたのだ。
「父さんが女の子ならなー、すっごく好みだったと思うんだよね」
あっそれだと僕が産まれてないか、
そう言って笑えば父さんも「"そう"だといいね」って嬉しそうに笑った。
「僕は父さんが大好きだから!」
いつか父さんや母さんとお別れする日が来ても…今日のことを思い出して笑って生きていこう。
(どんな僕であれ僕が貴方を嫌いになれるはずがないんだよ、父さん)
僕は揺りかごで上機嫌に笑う赤ん坊をあやしながらあの時のことを思い出していた。
サルビアの香水はもうない。でもあの赤い瓶を見ていると父さんに見守られているようで、今でも大事にしまっている。
「…僕は……君の悲しむ事はしないからね」
あーぶー、
笑う娘の妻に似た髪を撫でた。
これは浮気……?いや浮気じゃないですけど……僕はマーク、じゃなくてマークちゃんとして産まれるはずだったのにそれがなかったということはやはりアズールさんのせいですね!!
もし次に会えたら本の角でチョップしてやります!