君たちの話



※ifの「見えざる忠実」微ネタバレあり







桃色の彼は微睡みの中で彼女を求めた。







「は、ぁ……」

ゴホッ、吐き出した息と共に血が溢れ出る。
出血した腹部を押さえるが血は止まりそうにない。僕を切り捨てて迷わず進んでいく人達をただ背中を見送る事しか出来なかった。




「……ッルフレ……、ルフレ」

好きな人がいた。ルフレという、軍を率いる軍師の彼女に、僕は一目惚れをした。そしてそんな僕の一目惚れはなんと叶い、めでたく両想いになれて沢山の愛を確かめあった…………が運命とやらは僕が嫌いらしく、僕の恋人は自ら命を落とした。……否、そうしなければいけない状況を作り出してしまった僕らこそが裁かれるべきだったのだ。

そして彼女が消えてから、半年絶ったある日僕は別世界の竜に異世界を救うことを手助けしてほしい、と言われた。僕は……僕達は「竜」を倒した選ばれし者として救ってほしいと、

ちがう、僕らのおかげなんかじゃない。あの人が、僕の大切な人が命をかけてくれたおかげで邪竜は消えたのだ。でも……それが贖罪になるのであればとその願いを引き受けた。



ハイドラ、と名乗る竜に送られた場所は「暗夜王国」という異世界の国だった。この世界では新たな名を与えられ「ラズワルド」と名乗ることになった。

この世界をもし救えたとしても彼女は戻ってこない。それは分かっていたけどこれ以上彼女のような犠牲者が出ないように、自らの命を捨てるような真似をさせないように、そう言い聞かせてこの世界で傭兵として働き、少しずつ国や世界の内情を見守っていた。





……だがその結果がこれだ。
この世界で得た大切な人すら守れない。




僕を刺したあの男はきっとこの国で忠義を誓った、この国の王子であるあの人を躊躇いもなく殺すのだろう。やだなやだなァなんで動かないんだ僕の体は!


動かせない視界に少しだけ写る髪の色は桃色に戻っている。ああ、魔法が解けたのか、だけどそんなの今はどうでもよかった。
僕の髪色はこの世界に来る前に正体を隠すために魔法にかけてもらい銀の色をしていたがそれが父親似の見慣れた暗い桃色の髪になっていた。もう時期死ぬ、という証だろう。



ならばせめて、
と僕は激痛の走る体を奮い立たせて動かし、胸元からある物を取り出した。

女性が好みそうな可愛らしい装飾を施されたそれ……僕が彼女にプレゼントした香水だ。中身は殆ど使われていない。否、使う時期など本当に微々たる期間しかなかったからだろう。

本当はもっと早く渡したかった。でも母親似の羞恥心が邪魔をして渡すまでに時間がかかってしまったのだ。


僕はそれを、形見……として。持ってきていた。






「花言葉を込めてプレゼントすると喜ばれるよ」

「花言葉……」

「じゃあ……このプルメリアの香水をください」


花の似合う男
軍の人達からはそう言われてる。自分で名乗るのは恥ずかしいので言った事はないが確かに花は好きで、飾るのは勿論、調べるのも好きだった。だから気前のいい店主の言う通り花言葉も知っていたのでせっかくなら、と彼女にあう言葉の香水を選んだ。

この香水に使われているのは南国にしか咲かない花だ。花言葉の意味は確か……「気品」「恵まれた人」「日だまり」「内気な乙女」
……クロムさんにずっと焦がれているあの人にあげるもの、だけどあの人は自分が思っている以上に恵まれていることに気づいていない。そういう理由で選んだったっけ?


プシュ、控えめな音をたてて香りが広がった。

南国にいつかきっと本物の花を見に行こうね、なんて約束していたっけ。
ああ……この国はとても寒い。暗夜、と言うだけあって空は常に暗く、寒々しい国。ここじゃ花なんて見れないから、せめて香りだけでも、って広がる香りに目を伏せた。





「……ああ、……最後に」

また君に会いたかった。
帰れなくて……ごめん



運命、なんて信じたくないけどまた生まれ変わるとか
また出会えるとか、奇跡があれば、あるのなら、


(である限りきっとまた貴女に恋をするんだろうなぁ)




ぽたり、一筋の涙が血と共に流れた。




父さん?父さん?
……僕が産まれるかもしれなかったのに……本当に……もう、遅いんです!!このビビりー!!!!バカ!!ナンパ者!!
……なんで死んじゃうんですか、なんで信じて待ってられないんですか、足掻かないんですか!!

……グスッ……悔しいので次にあったら頬を抓ってやりますからね


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