君たちの話



※当たり障りのない程度のifのネタバレあり


青色の君と




消えて、崩れ落ちていくギムレーの背中を軍のみんなが急いで撤退していく。
僕も急がなきゃ、とルフレを見送った後……まだ完全に消えていない邪竜……未来の、僕達の世界のルフレさんの元へ走った。

【…………手遅れ、になる前に……逃げないんですか……?】

「うん、逃げるよ。笑って待つ、って約束したからね。……でも「お礼」をちゃんと言ってなかったから」


彼女の姿は、もう見えない。ただ光の粒子がそこにあるだけ。……いつ消えてもおかしくなかった。だからこそ、僕は危険を犯してまで最後の言葉を交わしに来た。


「……貴女を……悪い魔女と言うには、優しすぎるんですよ」

【………あなたは、王子様の役目を果たしたんですね……】

なら、これを、返さないと。

小さくなっていく声と共にその場所からこぼれ落ちたのは押し花の栞だった。それは……僕がかつて彼女に……告白した際に渡したシロツメクサで作った花のリングがその中にあった、

「こ、れ……は」

【……ほ、んもののリングは……渡せました……か?】

「うん……!うん、……」

涙で視界がぼやける中、精一杯頷く。彼女は僕のその返事に満足したのかほんの少し、だけ笑った気がした。

【 ……上出来……です……よ……マークのこ……と、頼みますね……】

「っ……待って!!」


なんで貴方一人が背負っていくんだ
なんで貴女が消えないと行けないんだ
なんで、自分を悪役と決めつけて邪竜に呑み込まれたのか
なんで、なんで、なんで

僕の求める、答えなんて彼女は教えてくれない。
彼女はいつだって導く事はしてくれても、あとは貴方次第、と答えを濁して笑う。






「答えなんてありません私はいつだって「自分」の為にしか行動出来ないんです」

かつて、彼女が……邪竜に落ちたルフレが言っていた言葉だ。
その「自分」とは、果たして誰のことだったのだろうか?
その答えが帰ってくることもないまま


「悪役」を自ら名乗った彼女は消えていった。





勝手な奴め……
父さんは何度も、何度もそう言って邪竜が消えた空を眺めて泣いた。
僕も、そう思う。勝手な人だと。でもそれは「僕達の為」で、「自分勝手」な人と言葉で決めつけるには、やはり彼女も邪竜になったルフレさんも優しすぎるのだ。

そんな彼女達が……消滅して、2年経った。
僕は故郷のイーリス、……ではなくとある王国にいた。


「そろそろ行かれるんですか?」

「うん、……帰らないと」

今いるのはそのとある王国の庭園。
僕の故郷のイーリスと違ってまだ開拓途中の国ではあるがさすが王族の城。見事に咲き誇る一面の薔薇はイーリスの庭園より手入れが行き届いており余程腕のある人が育てていることが伝わってきた。

そんな庭園で僕はこの国の女王となった方とお茶会をしている。何でそんなことに……という理由はとても長くなるので後で説明しよう。


お茶を一口、飲み込んで女王、……カムイ様は、そうですかと微笑んだ。



「ではラズワルドさん、またお会いしましょうね」

「……はい、またお会い出来ると嬉しいです」



僕はそのお茶会の席から立ち上がると……この国から、いや、この世界から帰る準備をしなければ、な。とお土産に貰ったお茶菓子を片手に頭をかいた。





僕は……いや"僕達"はギムレーを倒した後、異世界の竜にその力を貸して欲しいと、異世界の王国、暗夜王国にやってきた。

選ばれたのはウード、セレナ、そして僕の3人。ナーガ様と違い、力が弱まっているという竜は大人数の転移は難しいから、と3人に絞ったという。

僕はルフレを待ってなきゃと最初こそは断ろうとしたが永遠に戻れない訳ではなく、望めば元の世界に戻れるという話と竜に纏わる事で話せる限りを教えてくれる、その二つの条件にこちらに来た。




こちらの世界で名前は「ラズワルド」と名乗り、暗夜王国の王子の部下として活動していた。なんでも他世界に移動したことにより何に影響するか分からないから、念の為に、だそうだ。

白夜王国、と言う僕達がいた暗夜王国は元々は敵対していた。だがその国達が同盟を組み、世界の危機を脅かしていた邪竜魔の手から救う事が出来た。
正確に言うと僕達はほんの少しだけ助力しただけでこの世界を救ったのはカムイ様達王族の皆様だ。

白夜王国で産まれ、暗夜王国に攫われて育った彼女は竜の血を色濃く継いでおり、両国の王族たちからそれはもう蝶よ花よと愛されていた。そんな彼女だからこそここまで軍を大きく出来たし、彼女が指揮を執る事によって軍杯も上がっていた。

カムイ様は何かと僕を気にかけてくれた。多分、僕がカムイ様の義兄にあたるマークス王子の部下だっただろうか?
今となっては、わからない。

僕は今から2年、という月日を過ごした世界から元世界へと戻るからだ。元の世界に戻るための術式を組み込んだ特殊な石は、この世界へ連れてきた竜から貰った。使えるのは1回だけ。
ちなみにウードやセレナは向こうで結婚をしたので、頃合を見て、こちらに戻ってくると言っていた。

幸せそうな二人のことを見ているとやっぱり家族っていいよなぁと改めて思ったものだ。


ふわり、暖かい光に包まれて行く。何処か、へ引っ張られる感覚に身をゆだねて目を閉じて、一拍。
そして目を開くと僕の見慣れた、場所にいた。そこは、イーリスの国境の近くだった。
髪の色も向こうの世界に行った時は正体を隠すために銀髪だったが馴染みのある青色へと戻っている。持っていた鏡で確認すると隠していた聖痕もちゃんと戻っていた。

移動魔法という目立つもののためか気を使い、人目の付きにくい場所に転移してくれたのだろうか?
光を失った石を握りしめて、イーリスの敷地へ歩いていく。懐かしい。2年という月日でイーリスは少し発展しているように見えた。…………、時間の流れって同じ、だよね?



……ちょっと、不安になってきた。検問を受け(僕の場合聖痕を見せたらOKだった)懐かしいイーリスへ入国する。
この世界が何時であろうと、やろうと思っていた事は変わらない。下町を抜け、人通りの多い道に出て目当ての店へ向かう。二年前にも訪れた花屋だ。
場所が変わってなくてほっとする。店主も変わっていないようでそこまで時差はなかったんだな、ってさらに安堵した。



「すみません、赤いチューリップを10本ください」
「おや兄さん!!随分久しぶりじゃないか!!あれからナンパはしてないのかい?」

この花屋は女性に渡す花を買う時に通っていた為覚えられていた。そして痛い所を付かれた。あっ勿論今も昔も本命はルフレだからね?
内心冷や汗をかきながらはは、と笑って赤い包装紙に包まれたチューリップをうけとった。


ああ、そう言えばこれは聞いておかなければ

「すみません、今日って何月何日でしたっけ?」

「ん?今日は8月の4日だよ」

なんだいにいちゃんぼけちまったのかい?
豪快に笑う店主に、僕はありがとうございます、とだけ告げてその場を後にした。







◆◇◆


かつて忌まわしき邪竜と対峙した大地は3年、という月日で草木が生い茂っていた。
邪竜が暴れた跡の瓦礫たちを避けて僕はそっと、先程買った花を置いた。


「ただいま……ルフレ」

チューリップが風に吹かれて揺れ動くのを見て、僕は王都へ向けて歩き出そうとした、が



「とぉーーーあっ!!」

「うわぁ!!?」

背中に向かって勢いよく聞き覚えのある声と共に「何か」が衝突してきた。その衝撃に耐えられず転倒してしまい、地面に伏せながら恐る恐る後ろを見ると、僕の予想していた子が僕の背中の上に乗っていた。少し背丈が伸びているように見える。「マーク、」そう呼びかけると不機嫌そうな声が返ってきた。

「……僕は今、父さんの頬を抓ってヘッドロックしてトロンの書の角で頭を殴ったあとに首めがけてラリアットしてもみあげを引っ張ってやりたい気分なんです!!」

「僕の息子がバイオレンス!」

最後だけ微妙に優しいのは何故だろうか、というツッコミは置いておき、ルフレ似の力でそれをやられたら流石に僕でも瀕死になるのでマークを僕の背中から退かそうとすると



なんで……と小さく声が聞こえた。


「僕を置いていったんですか……」


背中に置かれた手が、震えている事が伝わってきた。
……僕達は選ばれた時、別れの言葉を言うことは許されなかった。それを了承してあの世界へ行ったのだ。だから僕は「ルフレを探してくる」とだけ、……の書き置きをしてこの世界を去った。

僕は"置いていかれる側"の気持ちも、痛い程分かっているはずなのに。


「……ちょっとごめんね」

僕はマークと一緒に転がる。「わっ」と驚いた声を上げるマークが地面に着く前にギュッと抱きとめた。
やっぱり少し、大きくなってる。


「もう何処にも行かないよ。約束する」

「……当たり前です。一緒に、"一緒に"母さんを探すんです」

「……うん。……ただいま、マーク」



一緒にを強調させた彼は笑って「おかえりなさい」と僕を抱きしめ返してくれた。
僕の、帰る場所はルフレが居ない間も彼が守ってくれていた。それが僕は嬉しかった。


「さーはやくかえりましょう、父さん!!僕達の家に、母さんを待つ場所に」

「もう勝手にいなくならないって」


マークは僕の手を掴んで魔導書を取り出した。マーク曰く、「移動用の魔法です」と僕がいない間に開発したそうだ。……流石ルフレの息子……


その魔法をつかってあっという間に跡地からイーリスの城へ景色が変わって行った。僕がイーリスからあの場所へ移動するのに三日もかけたのが嘘みたいだ。
こんな事ができるようになるなんてすごいなぁ、とマークの頭を撫でていると、聞きなれた声がマークの名を呼んでいた。

「マーク!連れて帰ってきたか?」

「あっおじいちゃん」

「おじいちゃんはやめるんだマーク」

父さんとマークが顔を合わせる度にする挨拶(?)を済ますと僕を見て「久しぶりだな」と、父さんは笑った。僕が言うのもなんだけど勝手にいなくなって2年経っているのにあっさりとした再開の言葉に、父さんらしいなと思った。

「うん、ただいま……父さん」

「あっさりしてますねーまあそれこそおじいちゃんです」

「だからおじいちゃんは……いや、今はそんなことはいいか。今時間はあるか?」


父さんはまっすぐ僕を見て「いや、時間なくてもいい。とにかく合わせたい奴がいる」と返事をする前に問答無用で僕を引っ張っていく。それにマークもはいはーい、と呑気に返事をしてあとを付いてきた。

……マークの強引な部分は父さんに似たんじゃないかな。


「えっと、何をするの?それに合わせたい人って……」

「お前……今日が何の日か忘れたのか?」

「おじいちゃんダメです。父さんまるで分かっていません」



コツコツ、カツカツ。マークと僕と、父さんのブーツの音だけが広い廊下に響いて落ちていく。
?、?。二人が何を言いたいのか、まるで分からなくて首を傾げると二人揃ってため息を吐いた。




「8月7日、お前の誕生日だろう」

「あっ……」




そう言えば、この世界に来てもう三日も経っていた。
それに……誕生日など、小さい頃に祝ったきりであの絶望の未来では忘れていたのだ。

「オリヴィエも、小さいお前も待っている」


小さいお前、……って事は、僕はこの世界に産まれたのか。なんとも言えない、気持ちになる。

ほら行くぞ、と父さんに急かされるが僕はその場所、に居てもいいのか。と悩み立ち止まった。


「でも……ぼくは…その……本来ならこの場にいないイレギュラーな存在だから」

「はーーーーーー???」

何言ってるんですか!!
その声と同時にマークが僕の背中を思いっきり叩いた。……流石ルフレの息子、力が強い……ヒリヒリと痛む背中を擦りながらマークを見るととても怒っていた。

「それを言うなら僕なんてイレギュラーのイレギュラーのイレギュラーオブイレギュラーなんですよ?今更すぎます」

「……だ、そうだぞアズール」

「……分かったよ」






入るぞ、父さんがそう言ってとある部屋のドアを開けた。
その部屋は、見覚えがある。たしか……未来では僕の部屋だった場所だ。

父さんに続くように一歩、部屋に脚を踏み入れる。
ほら、とマークがそんな僕の背中を押して先に部屋にいた、……ルキナと赤ん坊を抱えた母さんの前に僕を導いた。



「おかえりなさい、……アズール。そして誕生日おめでとう。貴方は私たちの青空よ」

「っ………………た、だいま…!」






母さんに、父さんに、ルキナに、マークに、
皆に祝福されて、母さんの腕の中で眠る赤ん坊は、"僕"だった。
ぽたり、涙が頬を伝う。良かった、よかった。"僕"は、この子は、この世界で幸せになれるんだ。










母さんと父さんが赤ん坊のアズールを撫でて、お前はナンパなんてするなよ、って笑った。ルキナと、この世界の小さいルキナもアズールは可愛いままでいてね、と言っていて、なんだよそれ……と涙が少しずつ引っ込んでいった。

そしてマークは小さいアズールを見ていいな、と呟いた。

「僕も早く産まれたいなー」

「今更だけどすごいセリフだねそれ」

でも確かに、僕もマークと早く"会いたい"
幸せそうに微笑む母さんや、カムイ様の顔が浮かび改めて家族っていいなぁと母さん達がアズール、にしているようにマークを撫でた。



「おじいちゃん、父さんに何かプレゼントないんですか?」

擽ったそうに笑うマークはそう言えば、と父さんを見る。「僕はちゃんと準備してますよ」と彼が懐から取り出した鋼の臭いのする袋に胃薬を準備しなければ、と覚悟を決めた。


「おじいちゃん言うな。そうだな……考えては居たんだがお前が喜びそうなものは花か女性とのお茶会か……としか思い浮かばなかった」

「何気に酷いよ父さん」


赤ん坊のアズールには服を用意したんだがなぁ、とわざとらしく視線を逸らす父さんに無理しなくてもいいのにと、思っていると父さんは母さんに「あとは頼んでもいいか?」と抱えていた赤ん坊のアズールを母さんに預けて身支度を始めた。




「んー?何か思いついたんですかー?」

「ああ、今日は何かいい予感がする」

あいつの事だ、恋人の誕生日に死ぬ気で帰って来てもおかしくないだろう、なんて言って父さんは笑った。

「確かに母さんならありえますねー!でもなんでそんな事わかるんです?」

「半身のカンだ」

「すっごいアテになりませんね!」

元気よく返事したマークをわしゃわしゃと勢いよく頭を撫で回して父さんは特大の誕生日プレゼントを持ってくるからな、と部屋に入ってきたばかりのリズさんを連れて部屋を出ていく。リズさんは去り際に「実は今日帰ってくるかもってサーリャの占いの結果出ててたのよ」っていたずらっ子のように笑って答えをバラして父さんのあとを追う。


取り残された僕はポカン、と口を開けて困惑していた。




……いや……そんな、まさか……


「ほら父さん、惚けてないで、僕達も行きますよ!!笑って居ても行動を起こさなきゃ意味なんてないんですから!」

「……確かにそうだね、……"アズール"も、ルフレと一緒に誕生日をむかえたいよね」



母さんに抱えられてすやすやと眠るアズールの頬を撫でて、どうかこれからの君に幸がありますように、と心から願った。






でもまあ、
その為には、まず僕が幸せにならなきゃね。


「行こうか、マーク。父さんと競走だね」

「いいですね!おじいちゃんには負けませんよ!」



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