緑が豊かに広がる草原に、一見してただ寝ているように見える黒いコートを着た人間が倒れていた。フードを深く被っており、その顔は見えないがよく見ると胸は上下に動いており、生きている事は分かる。だがそこから動く気配はない。

そんな人間に近づく人影が二人………イーリス王国の王のクロムと王女のリズだ。


彼らは倒れているコートの人間を覗き見る。


ねぇお兄ちゃん大丈夫かなぁ?
ダメかもしれないな
そんなぁ!


二人のわざと、らしく聞こえる会話が草原の中に響く。そしてその声に反応したのか、コートの人間はむくり、と起き上がった。
立てるか?とその人間へさし伸ばされたクロムの手を、コートの人物は迷う様子もなく手を取り起き上がった。


ぱらぱらとコートから草が落ちて行く。起き上がっても尚クロムの手を掴んで離さないその手は何の痕もない綺麗な女性の手だ。








それを見て、はは、と小さく笑ったクロムは起き上がった彼女の……ルフレのコートのフードを取って静かに口を開いた。










「……おかえり、我が友よ」








「っもう紛らわしい演技は止めてくださいよ!」



心臓止まるかと思ったじゃないですか!






そう言って彼女は、ルフレはクロムの手を力強く握りしめて微笑む。それと同時に、声が、聞こえる。
クロムの
ルフレの、大切な家族の声が。


あーーー!!負けた!!父さんが遅いからですよー!!
後から駆けてくる二人の、青色の青年達に「約束、初めて守れました」と、彼女は彼等に向かって大きく手を振って心から、笑った。














◆◇◆








イーリス王国の城下町から少し人里離れたその場所にその家はあった。

レンガ作りのその家は家主の要望により、広くもなく、狭くもなく、かと言って家族五人で住むには充分な間取りをしていた。


「おっきい僕はずるい」

「な、なんだい急に」


そこにお忍び出来ていた青い髪の小さな男の子はふくれっ面で青い髪の男性に突っかかっていた。二人はとても似ている。親子……というか男の子を大きくするとそのままその男性になると言われても頷けるほど「そっくり」だ。

「僕もルフレさんとけっこんする!!」

「やだ……モテ期……?!」

「その気にならないでルフレ!」

冗談ですよ、そう言って奥の部屋から現れた女性は青のワンピースを身にまとって優雅に笑って青い髪の男の子に「今日はどうかされましたか?」と目線を合わせるようにしゃがんだ。

「マークとあそびに来たんだ!」

「ふふ、マークなら向こうの部屋にいますよ」

女性が指した方向には青い髪の男の子が二人で花瓶に花を飾っていく様子が見えた。
二人が持つその花はチューリップ。父親である青年が毎年買ってくる花で、赤い花は瑞々しく咲き誇っている。

アズール、と呼ばれた少年はそんな二人に笑顔で駆けつけていく。


「ちゅーりぷぇ」

「チューリップですよ、小さい僕。
父さんは毎年、結婚記念日にこの花を母さんにプレゼントするそうです。ああ見えてロマンチストですよね」

「ぱぱ、ろまち」

「そうそうロマンチスト。この花の花言葉はねぇ」

ニヤニヤ、とわらう黒いコート青年はその続きをいう前に腰の位置にタックルしてきた青色の塊に「こんにちは小さいアズールさん」と目線を合わせるようにしゃがんだ。

「こらマーク×2イタズラしちゃダメだよ」

「してませんー」「んーー!!」


どうせなら薔薇にすればいいのに、そう言って青年のマークは小さいアズール、と呼ばれた彼にもチューリップが見えるように少年を抱えた。

「チューリップだー!」

「ギザですよね。小さいアズールさんはストレートに気持ちをぶつけていってくださいね」

「マーク、それ言ったらルフレとられちゃうからね?」

少年のアズールを下ろしながら「冗談ですよ」とマークは笑う。すると、あー、うー、と小さい声が彼らの近くから聞こえきた。


「あっ起きた!」

「おきーっ」

「妹が可愛いのは分かるけど、気をつけてね」


赤ん坊の声に反応して青い髪の3人はベビーベッドを囲む。その中にいるのは先月に産まれたばかりのマーク、達の妹がそこにいた。
僕は母さん似ですけど妹ちゃんは父さんにそっくりですね。そう笑って青年のマークは妹の柔らかい頬を撫でた。


「小さい僕、小さいアズールさん知ってますか?」

「むー?」

「妹ちゃんの名前の意味は「太陽」という意味が込められているんですって」

「きらきら!!」

「へーーー!そうなんだー!」

「そうです!!お日様なんて父さんにしては中中いいセンスですよね」

「しては、は余計だよマーク…………」


さっきからマークの発言に棘がある……
わざとらしくシクシクと顔を伏せるアズールにルフレはあらあら、と微笑ましくその光景を見つめながら出来上がった料理をテーブルに置く。

その料理を見て「鋼?」「いやてつ、かも」なんて会話を繰り広げるマーク×2に軍師チョップを喰らわせたルフレは笑顔で取り皿を渡していく。小さいアズールさんも食べますか?と聞く彼女はまるで聖女のようだ、と錯覚するくらい綺麗だが持っている料理が金属の臭いがする為「ご飯食べてきたから……」と小さいアズールはその場から一歩二歩下がった。


取り皿を渡されたアズールは苦笑いで愛妻料理を慣れたように取っていく。

「やっぱりカムイさん、料理も含めてルフレに似てるや……」

「カムイ?」

「言ったでしょ?ルフレが眠っている間異世界に行ってたって、でね、その時にあった女性なんだけど……」



「…………浮気ですか?」

「誤解だってばー!!」

「大きい僕がうわきしたら僕に言ってね!」

「わぁい父さんが若い父さんになるぞー」

「わぁい」

「あーうー!」


ひとつの食卓を囲み、家族に囲まれたルフレは心から笑う。




嘗て
悲劇に泣き現実を嘆く女がいた
嫉妬に駆られて大切なものを見失った女がいた
多くの人を利用して無理矢理"家族"を得た男がいた
狂愛を真なる愛と語る女がいた
愛する人の"代わり"に王と結ばれた女がいた


嘗て、嘗て、「嘗て」

そして、今は



「母さんは幸せですか?」

マークは聖痕がある右手を母親の手に重ねた。そこにあるのは何の痕もない綺麗な手。
マークはこの手が、皆を救ってくれる手が大好きだった。




「……ええ、とっても」








人々は後に語る。





【伝説の軍師ルフレの名は、

無数の書物で語られているが、

それゆえその正体は捉えどころがない。

だが、彼女とその夫アズールは

お互いを心から愛していた…

その事は、


"どの時空"

どの書物でも変わりない。】












それはいろんな時を越え、
様々な姿になった虹色の彼女が青色の君と出会うまでのお話















「おかえり、ルフレ」

「ッ……"ただいま"!!アズール!」





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