プロローグ



────勝利を収めた我が軍はそれから王国に戻り、色々あった。

「色々」に省略しまくってしまっているのは思い出したくもないものが大半からだ。
城に勝利を伝えたイーリス自警団は帰ってきたクロム王を盛大に迎え、その後クロムさんが婚約者として紹介したスミアさんは国民にも温かく受け入れられ後に二人は結婚した。

王子様と彼を守る為に騎士になった貴族のお嬢様のハッピーエンドである。

────私も、本来なら友達である二人の恋慕に微笑ましい。と思うべきだったのだろう。それが片思いしていた男のハッピーエンドでなければ。

……結婚式には勿論呼ばれた。「お前に一番祝って欲しい」なんて、一番言われたくない人に言われて、その時も"何か"が込み上げてきて一人で吐いたがも最早それすら慣れてしまった。

あの日から私の行き場の無い気持ちは嘔吐となって物理的に零れ落ちる。最悪である。

そのせいで式の当日も直前まで吐いた。本当は行きなくなかったが私のことを「半身」と呼び、恋愛的な感情ではなく慕ってくれる彼の頼みは断れなかった。
それに国の軍師という立場もある肩書きもあって尚更行くしかなかった。


「ルフレさん、大丈夫?」

「リズ、さん……ええ大丈夫です……」


式へ向かう道中、クロムさんの妹のリズさんに何度か声をかけられた気がするが吐き気と戦うのに必死であまり覚えていない。
彼女はあの愚鈍な兄王と違って悟い子だからもしかしたら私の気持ちを知って気を使っていたのかも知れない。



「…はぁ……っ」

無理矢理呼吸を整えると着なれない淡い紅色のドレスを翻し肩にかかったショールを抱き込み会場への扉を開ける。


敢えて遅れて来たのでもう大分式は進んでいたらしく会場は大いに賑わっていた。

王の結婚だそりゃあ人はたんまりいた。
中でも主役の二人はとても目立っていて私はこの人混みに紛れてやり過ごそうと態々私を呼びに来てくれたリズさんとの距離を少しずつ開けていくといきなり誰かに肩を捕まれた。


「ルフレ!遅かったな」



────あ。すみませんお帰りはどちらでしょうか?

似合わないタキシード衣装に包まれた彼の隣で柔らかく微笑む新婦に整えた呼吸が再び乱れそうになった。


「……すみません……ギリギリまで軍記を読んでいました」

「こんな時まで…お前らしいな」


軍師ならではのそれっぽい適当な嘘でかわすと鈍い彼はその言葉を信じたようだ。純白のドレスに身を包んだ隣のスミアさんは苦笑いで微笑んでいる。

その曖昧な笑みに何となく察した。
────彼女は、きっと私の気持ちを知っている。


「そろそろ式も終わりだな……ギリギリになってしまったが楽しんでいってくれ」

「…はい……ありがとう…ございます」


段々俯きがちになる私とは対照的にスミアさんはクロムさんと腕を絡める。
………そんな見せつけなくても取らないよ。なんの後ろ盾もない軍師が貴族のお嬢様に等、勝てるはずがない。だが、内気な彼女のことだから私とクロムさんが半身等と呼び合い、距離が近い事が気になるのだろう。


皆に祝福されて嬉しそうなクロムさん。
私を疑わしげに見るスミアさん。
そんな新郎新婦を微笑ましげに見守る人。


いたたまれない空間にとにかく私は早くこの場から逃げたかった。

「……主役が、こんな所にいちゃダメですよ。……私は待ち人がいるので失礼しますね」

「あっ!おい!ルフレ……!?」


彼の返事を聞く前に、慣れないヒールで半歩下がるとさりげなくそのまま人混みに紛れて二人との距離をとる。







「そのドレス、よく似合っているな!!」


離れる前に何やら人たらしな言葉が聞こえた気がしたが、私はそれを聞こえないふりをし彼等に背を向けた。












「はぁ……」


人の波に揉まれつつバルコニー近くの人が少ない場所へ移動することが何とか出来た。
盛り上がる会場はたかが軍師一人が中心から消えた所で何も変わらず、新郎新婦に熱いエールを送っていた。


ここで少し休憩した後に部屋に戻ろう。
ここにいたって選ばれなかった脇役はただ惨めなのだから。

それに……これ以上幸せそうなあの二人を見たくなかった。







だがそんな私の心情とは裏腹に突如聞きなれた声が響いた。


「皆に、もうひとつ吉報がある!」



パーティ会場の端の席へ避難した筈なのに彼の声はとても大きく聞こえた気がする。聞きたくないのに耳慣れた大好きなあの声は私の耳は歓喜して拾ってしまうのだ。


「吉報」そう言った彼は隣にいるスミアさんの腰を抱いた。

私にとっては「吉」じゃなさそうな……何となくそんな予感がしたので念のため持ってきていたエチケット袋をそっと広げる。さあいつでもこい。
















「彼女の体に、新たな命が宿っているんだ」






そのクロムさんの高々と張り上げた声が私の鼓膜を震わせた瞬間また吐きました。

マジかよ。婚約宣言十日前とかだろ。
……つまり………"そういうこと"だ。

進軍時から関係があったんだ。
戦中になにしてんだ。


────あの性王トロン腹に刺さればいいのに。



【戻る】

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -