青色の君と



「では今回の進軍はそのようにお願いします」

ギムレーとの戦いも目前と迫って来ている。今までの”経験”を活かして皆さんに進軍の指示を出していくと各々異論はないみたいで納得してくれた。今回は暗愚王や覇王もいる為戦力には事足りている……むしろお釣りが出るくらいだ。

「では今日はありがとうございました。何かありましたらいつでも言ってください」

軽くお辞儀をするとそれが合図のようにそれぞれ立ち上がり解散していく。今回も特に意見はないようでほっとしながら広げた地図を片付けていると私以外居なくなった軍議用のテントの入口が開かれそこに立っていた人物に睨まれた。

「アズールとはなんかないんですか?」

「えっと……何か…とは?……セレナさん」


深い緑色の長い髪を揺らしながら入ってきたのはセレナさんだった。急に入ってきたと思えば何が言いたいのか……私は苦笑いで返したが本人は納得してくれてないようだ。


「そんなにわかりやすく避けておいて”何も”なんて言わせないからね。……今日の進軍予定だってアズールはメインの陽動メンバーから外れているし」

「それぞれの役割は私が見極めていますから……アズールさんだけでなく他の方も相応の場所に決めていると思っています」

「……それが全員だったら私も何も言わないわよ。ルフレさんが”アズールだけ”を危険や無茶な進軍から遠ざけているの,私たちが気づいていないと思ってましたか?」

痛い所を付いてくる。なるべくバレないように割り振りしていたが子世代の人達にはお見通しだったのか。

本音を言うと私は「緑色の彼」がギムレーに無理やり心中されそうになったことがトラウマになってしまっている。だからなるべく教団との戦いでは彼を前線には置かないようにしていたのだ。
そういえば……緑色……ソールさんのお子さんは今回はセレナさんか。その彼女に指摘されるとはなんという皮肉だろうか?


「たまたま,でしょう。……意図はなかったという事です」
「はーー?この期に及んで逃げるわけ?まどろっこしいったらありゃしないわよ!!ルフレさんだって本当はアズールのこと」


「違います」


彼女が全てを言い終わる前に私はその続きを断ち切った。
違う,ちがう。表面上はそう装わなければ。塗り固めなければ。私は彼を愛してますがその気持ちを外に出すつもりはないのだ。隠さなければ。隠さないと。

「アズールさんは確かに素敵な方ですよね。子世代の人達からも人望があると聞いてますし……それこそ……セレナ……さんもアズールさんとお似合い何じゃないですか?」


にこり,塗り固めた笑顔。私は上手く笑えていただろうか?
返事は聞きたくなくて私はそのまま彼女に背を向けてテントから立ち去ろうとすると後ろから「はぁ……、」とわかりやすいため息を吐かれた。そして彼女はそれが合図と言わんばかりに大股で距離を詰めて私の肩を掴んだ。

「あのですね!!!!ここだけの話、私達未来から来た組は一度アイツにフラレてるの!!皮肉なことにアイツはモテるよの!!身内にはね!!!!」








「は、?、え?」


彼女の言葉を私が理解する前に畳み掛けるようにカッと悪鬼迫る顔で私に顔を近づけてくるセレナさんに一歩二歩下がるが彼女の勢いは止まらなかった

「ルキナ以外はそりゃもう尽く……シンシアやデジェルもンンもノワールも!!もちろん私もよッ!!!!」

「ひぇ……っ!!?」


「あいつ……は……昔から一人しか見えてないのよ……」



その意味を気づきかけていてアイツを避ける貴女のことが私は苦手です。

セレナさんは……目を伏せてそう言ってその場を去ったが私はただその場に立ち尽くすことしか出来なかった。



◆◇◆




「アズール、さんでしたっけ?めげないですね」

セレナさんにいい詰められた次の日。
痛い所を冒頭で語り始める自称息子ことマークはニヤニヤと私に出された課題の本をページを捲っていた。
なぜこうも皆アズールさんのことを突っ込んでくるのだ。前世たちは全く無関心だったくせに。


「……口じゃなくて頭を動かしなさい」

「はぁーい……それにしてもそろそろ父さんが欲しいと思ってるんで」

すが。少年がそれを言い終わる前に特性ルフレチョップことトロンの角攻撃(物理)を食らわせるといつかのアズールさんとクロム同様彼は床でゴロンゴロンと痛みにのたうち回わった。

「手加減してくださいよぉー!!!!」

「のたうち回る元気があるなら口ではなく頭と手を動かしなさい」


叩かれた事で流石に観念したのか「はぁい……」と弱々しく返事をした彼は頭をその邪痕の刻まれた手で抑えながら立ち上がる。……結局マークのその邪痕の問題は後回しにされた。一応クロム達に報告はしたが「お前の子だ大丈夫だろう」「ルフレさんの子なら大丈夫です」と根拠もない謎の信頼(?)から引き続き私の観察下で面倒を見ることになっていた。

だから大丈夫かイーリス,色々寛容すぎてやばくないか?

だがその理由を聞くとクロム曰く,他人とは思えない……だそうだ。
……やめてください血は繋がって……ないと思いたいんですから私は。もだもだと悩んでいるとその悩みの種にもなり兼ねない青色の,彼女……ルキナが失礼します,と中に入ってきた。この世界の彼女はちゃんとノック(?)するいい子だ。


「ルフレさん今ちょっといいですか?」

「…いいですよ。マーク,ここで大人しくしているように」


―――ああ。昨日の話で忘れていた。そろそろ「そういう時期」か。
このあと彼女が私をギムレーと……裏切り者と断罪する。その話だと思ってそっとサンダーソードを忍ばせて,ルキナに続いてテントから出るとマークの「行ってらっしゃーい」と呑気な声が背中越しに聞こえてきたけど私は何も言わずにそこから立ち去った。

私はここでルキナに殺される気は……今はない。






















と、私なりにシリアスに決めたのにも関わらず「一緒に買い物しましょう!!」と、嬉嬉として野営地から少し距離のある街でショッピングを始める王女に持ってきたサンダーソードが虚しく腰で揺れていた。

「あの……何か私に用があるのでは?」

「ええ、ですからこうして買い物に付き合ってもらっているわけです!」

「……私に話したいこととかあったんじゃないんですか?もしくは勘づいてることとか」


「何のことでしょう」


適当な鼻歌を歌いながらセンスのな……失礼,ハイセンスな洋服を手に取っていく彼女にため息が漏れる。
父親と同じで彼女は嘘が下手だ。

ギムレーの正体は未来の私だと軍のみんなが知ったはずだ。なのにこうして「何でもない」ように振る舞う。私が言えたセリフじゃないが……意味がわからない。裏切り者めって今までみたいに言われた方が正常だと思ってしまう。

「本当に……何も言わないんですね」

「……何のことか分かりませんが,私はルフレさんが万が一億が一”あんな事”になるのであればそれを変えるために私は未来から来たのですから」

万が一って……いや,未来から来た貴女達はその事が分かっているでしょう。なのに断言した「私は邪竜にならない」……と。何を言っているんだと鼻で笑えばいい。腰に携えた剣を突きつけて危機感を植え付けてやればいい。

……なのにそれをする気も起きないのはだいぶ絆されてしまっている証拠だった。


「それにこの世界にはアズールがいますし」

「……へ?」

「あんな軟派な男でも一応王族です。聖痕もありますし……それに弟は小さい頃から再三言ってるんですよ「僕がルフレさんを助けるんだ」ってね」

「そ、それはきっと子供の手伝い的な意味でしょう……」


なるほど……アズールさんが私にやたら構うのは「そういう事か」
今までの世界ならアズールさんは母親のオリヴィエさんの元で生活していた。だがクロムとオリヴィエさんが結婚した事によりアズールさんはイーリスの王子になる。つまり未来の私とも触れ合う期間が多かったのだろう。……そりゃあんな可愛…………ゴホンッ幼いアズールさんに慕われたら未来の私も彼を可愛がったに違いない。分かるよ。うん……でもショタコ…犯罪は起こしてないと願いたい。

話がそれたが結論から言うとアズールさんが私にちょっかいを出すのは自惚れでなければルキナと同じく「慕われている」から……なのだ。
つまり勘違いしてはいけない。よし。………………分かりきってた事じゃないか。

「……ルフレさん?」

「……あっすみません。少し考えことをしていました……」

「…………弟はもちろんお父様も言っていましたがルフレさんは考えすぎです。少しくらい柔軟になりましょうよ」

こういうラフな格好してみてはいかがです?って差し出されたエメリナTシャツにははは……と乾いた笑いで目をそらす。
すると「そうそう,」と逸らした視線の反対から声が聴こえた。その声は今聞きたくなかった……。

「ルキナはいいこと言うねー。あっルフレさんは、こっち方が似合うと思う」

「アズールさん……」

サッとエメリナTシャツの上に渡されたのは落ち着いた青のワンピースだった。装飾も少なめで中々好ましい。流石センスがいい…………ハッ!そうじゃない流されそうになった。

「ルキナと買い物?いいなー僕も混ぜてよ。この間はフラれちゃったしね」

「えっと……その、」

「ルフレさんに手をだしたらファルシオンで捌きますからね」

「裁くじゃなくて捌くって言った!!?姉さん怖い……!」

わいわいとやり取りする姉弟を尻目に渡された青のワンピースを元の場所に戻すと「僕が買ってあげますよ?」なんて破壊力抜群な笑顔で言われたが戦争中にこんな可愛い品物は着る機会がないですって言うと悲しげに目を伏せられた。ああっ……その顔はやめてください……
青色の二人に挟まれて早くもここから逃げたい……と思っているとルキナさんが唐突に声を上げた。

「……あーーそうでした。私お母様のプレゼントを探さないと」

「えっ?あの」

なんだその「今思いつきました」と言わんばかりの顔は。いや待って、彼女が去るという事は私は彼と……?


「ルフレさん、愚弟ですがよろしくお願いしますね。アズール,捌かれる事はしないように」

「えっちょっ待ってくだ……!!」

駆け足で去っていくルキナさんに頭痛がした。何でですか何が目的ですか……嘘が下手なルキナさんが「わざと」私とアズールさんを二人っきりしておいて行った。

「ええー……」

「ルキナが行っちゃったから仕方が無いですね,うん!さあルフレさん行きましょうか」

アズールさんがさすが僕の姉。気が利くなぁ……なんて、軽口を言って器用に片目を瞑った。その瞳には聖痕が宿っていた。私の邪痕と真逆のそれ。

そこで傍と気がついた。

(…あれ?…そういえば今までのルキナの妹弟達って聖痕ありましたっけ……?)


見たことない……気がする。きっとクロムのように体の一部に刻まれているんだろうか。服の下とか……?
まあ今はどうでもいいことだ。今はこの状態を上手く回避しなければ。

「どうしますか?このままお茶でも……」

「その……ルキナともそんなに時間が割けなくてもうそろそろマークの所に帰らないと……」

「……そっか」



捨てられた子犬のような顔をされた。懐かれる理由を知ってしまった今はズキズキと良心が痛む。だが彼はめげない折れない。そんな所が好きです。あっ違う



「じゃあほんの少しだけなら時間はありますよね」

「うっ……はい……」

ぱっと笑顔を向けた彼はじゃあこれください,と今しがた戻したばかりのワンピースを買っていた。店主もすぐに包装をしていて私が止める隙もなくハイ,と袋に包まれた服を渡された。

「……ですから,着れませんよ?」

「今じゃなくていいです。この戦争が終わったら是非着て見せてくださいね……絶対に似合います」

「…………ええ,終わったら……」

私はいませんけど,……言葉を濁しているとアズールさんが「そうだ」と私の手を取った。いきなりの事に顔に熱が集まるがそれを悟られないように俯く。

「なっなんですか?」

「前あげた香水ありますよね?あの香水の瓶少し特殊で……太陽の光に当ててみてください」

「陽の光……?ええ,そのうちやってみますね」

あの黄色の瓶か。確かチューリップの香りって言っていたあの香水。
黄色のチューリップの花言葉は……「望みのない恋」「報われぬ恋」。彼は知っていてこれを渡したとしたらなんという残酷な事をしてくれたんだ。そんなの、言われなくても知っているのに。

……スッと顔の熱は冷めた。そうです。そうですよ。勘違いしてはダメですこの気持ちを悟られたらダメです。

「これ……服,ありがとうございます。アズールさんは”誰にでも優しい”ですね」

「っ……うん。……でもルフレさんは特別だから」

「……,それは未来の私が貴方に慕われていたから?生憎と私はその記憶はありません。…………特別……だなんて言葉軽々しく言わないで下さい」

刺々しい口調になってしまったがこれくらい言わないと,
勘違いするな,勘違いさせるな。
愛するな,愛されるな。
「前」の私たちの声がぐるぐると頭に響く。ごちゃごちゃしてぐるぐるして気持ち悪くなってきた。




けどアズールさんがギュッと握っていた手に力を込めたことによって正気に戻った。


「そんな頭ごなしに否定しないでください!!

貴女がどれだけ自分の事が嫌いでも僕は……!!」


「……っ?」


「えっと、!!その、ちょっ、っと待ってください!!あと1週間……いえ3日でいいんで!!……まだ"見つけてないので"!!このまま勢いのまま言ったら僕はきっと後悔します」

すみません,”探してくるので”失礼します!!
まくし立てるようにそう告げて彼は混乱する私を置いてルキナと同様走り去って行った……が


「うわーアズールさん情熱的ですねー」

「……テントで待ってるようにいいましたよね?」


ルキナに続いてアズールさん……そしてマークと青色三コンボ
頼むから途切れさせてくれ。休憩がほしい。
アズールさんがいなくなったと思ったらいつの間にか隣にいた自称息子はニコニコと私の返答を無視して話を続けた。


「母さんがどんな理由で逃げているか知りませんけどちゃんと向き合った方がいいんじゃないんですか?」

「マーク……今はちょっと色々混乱してるので後でで良いですか……」

アズールさんの言われた言葉を理解出来ず,混乱する中追い打ちをかけるようにマークが現れて頭痛と吐き気がぶり返してきた。



「まあまあ,聞いてくださいって。僕は最近とある人と指輪をねー探してるんですよ。

これ、僕が持ってた指輪。何故かとても大切なものって覚えててずっと持ってました。それで最近少し思い出したんですが母さんが僕に持たせてくれたものだったんです。「大切な人からもらった唯一無二の宝物」ってね。これはどうやらその大切な人が母さんの為だけに作らせたものだったらしいんです」

「……それがどうかしたんですか」


マークが見せてくれたのは首にかけていたネックレス。その先には青色の石が埋め込まれたシルバー色の指輪がある。それをプラプラと揺らしながら彼は話を続ける。

「それがですねー唯一無二の宝物がどうやらこの世界にあるかも知れないらしいんですよ。まあ過去の世界ですし当然か。それを探してるんです。"僕達"は」







「な……っ、はっ?……え?」

「さぁて、誰とでしょうか?」


未来の私が持っている唯一無二の、指輪

その指輪を見て何故か思い出したのは先程のアズールさんの言葉だった。

「まだ"見つけてないので"!!このまま勢いのまま言ったら僕はきっと後悔します」





えっ、いや、そんな、
期待しちゃダメだ
幻想なんか抱くな
諦めないと

色んな言葉がごちゃごちゃになる中

未来を望めるかもしれないという一際大きく聞こえた声に頭を殴りたくなったが今はとりあえずニヤニヤと笑う自称息子に再び軍師チョップスペシャル(物理)を食らわせておいた。



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