色々な君は






うるさい、うるさい。うるさい!!!!

今しがた倒した邪竜を目の前に、私の中で「うるさい声」が響いていた。
血が滴る邪竜、の私。後は止めを刺すだけでいいのに「誰か」が私の手を止めさせた。

ポタポタポタポタ、ただ立っていると雨が降ってきて、持っていた剣から滴り落ちていく。

【また繰り返すのですか】

「誰ですか、あなた」

【"私"は私です。貴方自身です】

「邪竜?じゃあ殺してあげますから出てってください、うるさいんです」

【いいえ邪竜じゃないです「私」は「貴方」です】

「何が言いたいんですか?」

【なら1から言わせてもらいましょうか、エメリナ様は必要な犠牲?ふざけるなよ。あんなに頭捻って、行先確かめて、王族に頭下げてまで救おうとしてた癖に!!最終的に"諦めた"!!出来ないと頬り投げた!!そして「必要な犠牲」と言い聞かせた!!!!】


「うるさい!!黙れ!!!!」


【呪いのせいにするな!!その"呪い"は元々貴女のその歪んだ性格にする為の呪いじゃない!!呪いをかけた本人も狂わせるつもりは無かったんだ!!「ただ愛されたい」という呪いをかけた人の思いが強かっただけ、それを歪ませたのは貴女自身だ!!】

「うるさいんですよっ!!!!」




分かっていた。声の正体は〔最初の私〕だ。
頭いっぱい悩ませて、救おうとしてた。でもどう足掻いても出来なくて、でも逃げられなくて、私はアズールさんに縋ったのだ。
逃げたのだ。自覚した私に「声」は更に罵る

【逃げるな!!その邪竜を殺せばまた貴方は同じことをする!なんで素直に助けたいと言えないんだ!なんで依存するんだ!!"私"の幸せは逃げていたら永遠にやって来ない!!呪いも永遠に続く!】

「じゃあどうすればよかったんだッッ!!」

頭が、痛い。


邪竜を前に私が狂乱したように、見えたのだろう。実際そうだが。ルキナさん、私の娘が「お母様!!」と私に近づいてきた。

でも、今、はだめだ。

「これは……ッ結界?!」

「うん、ごめんね、もう少し、待って」


大丈夫。"邪竜"はちゃんと殺すから。貴女に恐ろしい未来はもう来ないから。






「やり直したいなぁ」

声はもう聞こえなくなった。

ぽたぽた、落ちる雨が頬を伝う。泣いてるのか雨なのか分からなくなる。でも分かるのは血の滑りと生暖かさ。倒れている邪竜の血だ。

私の後ろで倒れている、人は誰だっけ?ああそう、〇〇さんと××さんの子供の△△さん。言い難い名前だった、気がするぞ.
それと怪我をしてるのは□□さんと◎◎さんの娘さん。みんな、みんなボロボロだ。これも全部私の、采配のせいか

みんな泣いてる、みんな、邪竜を恨んでる。





これを殺しても、また同じだ。いや若しかしたらもう繰り返さないかもしれない。でも、やらないよりやった方が、運命は違うのかもしれない。

「ルキナ……」

「お母様……!なんで……!ファルシオンで邪竜の止めを刺せば……!」


そっと、結界の外にいるルキナに近づく。大丈夫、ちゃんとファルシオンで「止め」刺しますから。ちょっとお借りしますよ、と人、は通れない結界から無理矢理彼女のファルシオンを奪い取った。

「さようなら(ギムレー)

「グッ……くそっなんで……ッ何故だ……ァッ!!」


ぐりっ、
ファルシオンをギムレーの胸に突き立ててひねり抜いた。我ながらひどい死に様だ。また会うと思うけど。


さて、最後の仕事をしないと


「こっちの、邪竜も、ですね」











「お母様っ!!いやぁ!!イヤっ!!」

「いいん、です。これで」



ルキナさんの持っていたファルシオンをお腹につきたてた。
本当は心臓がいいんだろうけどファルシオンは普通の剣より大きい為自分で胸に指すのは難しかった。この場合じわじわと、だけど出血で確実に死ねるだろう。






「どけっルキナ!!おいルフレ!!」

結界の外、であの人が叫んでいる。
相変わらずうるさい。でもそれが私のためだと分かっている、から不思議と嫌いになれなかった。

「……も、助かりません、から……」

「うるさい!!黙れ!!!!いいか!!俺はお前の半身であり夫で!!!!お前を必要としてるんだ!!お前が俺たちを、この世界捨てようと知るか!!俺はッ!!お前を助ける!!」

そしてクロムさんはその手に持ってたもの、で結界の力に阻まれても無理矢理私の近くに来た。

「なんでそれ……もってきちゃっ、たんですか……」

「必要だと思ったからだ、もう誰も失いたくないんだ!!」

彼が持っていたのはファイアーエムブレム。
願いを叶える紋章。そんなものまで持ち出して「こんな」私を救いたいというのだろうか?本当にこの人は


「馬鹿ですねぇ」

「お互い様だろう」

ああ、そういう人でしたね。










「私、も全てを救いたい、んでした」


そう言えば、最初はそんな甘い考え持ってた気がする。
どこかの誰かさんに感化されて、思い出すなんて


私としたことが馬鹿でしたね。

「クロム、さんそれを……ファイアーエムブレムを、……」


そっと血塗れの手で紋章に触れる、とクロムさんは何も言わずに私に紋章を渡した。ああ、言わずとも分かってくれたんですね。さすがクロムさん。私の半身。


「……俺は、これを使ってお前を生かすために使うつもりだった。

……お前は人の顔見て吐くし
割と凶暴的だし
俺自身愛されていたかもわからん!
今だってそうして勝手なことをした!!!

だがな、ルフレ!お前を信じてる!!



こうして"勝手なこと"もお前は他人の為にしか使えない!」


言いたい放題ですねぇ。
紋章に触れた指先から眩い光が発せられる。願いを、叶えるために、もう1度、
邪竜、とはいえ一応竜。私の血に反応してくれた。良かった。まだ、おわれないんだ。

「……貴方は本当にいい男だったんですねぇ……、諦めたなんて、惜しいことをしてしまったのかも知れません」

「悔やんでるなら、戻ってきてもいいんだぞ」

「ふふ、……それはできません」





でも"次"があるのであれば、
もっといい奥さん……そうですねぇ
私なんかより優しくて
私なんかより母性に溢れていて
私なんかより美人で、
私なんかより、とても純粋な人と、結ばれて幸せになったらいいですよ。

口からもお腹からも血が止まらない。でも不思議ともう痛みは感じなくて、私の口は驚くほどスラスラと言葉を綴った。


「……全てをやり直したいんです。

エメリナ様だって救えたんです。

必要以上の犠牲を出さずに戦争を終わらせられたんです。」



邪竜が、呪いがなんだ、!!
私は私の生きたいようにしか生きられない!!




私は私の、皆の、クロムさんの、アズールさんの



「運命を変える!!!!」









ファイアーエムブレムはその願いに反応して、輝く光に包まれた。


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