エピローグ



その人は昔からとても不思議な人だった。







ルフレさんが好きです!!」

「まあ!!とっても嬉しいです!××××さん!私もすき……と言いたいところですが私の「呪い」はまだ解かれていないのでその告白は受け取れないんです」


王宮の庭師に選んでもらった花束を彼女に差し出すととっても嬉しそうに微笑んで受け取ってくれたけど、「そもそも今の年齢だと児童ポルノ法に引っかかりそうなのでもう10年後ですね」とよく分からない言葉でやんわりとかわされた。

「じど、……?ううん、それより呪いってなに?」

「ん?ああ。いまのうちに××××さんには話しておかなければなりませんね……実は私、自分勝手な人達によってわるーい悪い呪いにかかっているんです」

ええっ!!?彼女が深刻そうな顔で言うから肩を跳ねて驚くと、ふふ、と微笑む。だからからかわれていると思ってつい、むっとして本当に呪われているの?って聞き返した。

「どんな呪いなの?」

「ハッピーエンドになるまでは何度も過去繰り返しちゃうんです。タチが悪いですよねぇ」


僕がその彼女の言葉を理解出来る前に彼女は淡々と言葉を続けた。

「そもそも私が辿って居たのは単なる過去ではなかったんですよ」

「?」

「実は呪いを解く方法は単純明快なんです。if……もしも、の可能性を捨てないこと」

「もしも?」


ええ。と僕の髪を撫でて笑う彼女は話がよく分かってない僕に呪いを解く為の方法、を話し始めた。


「ふふ、いいですかここからはただの独り言です。

もしあの時ガイアさんを仲間に入れていたら、
あの時サーリャさんに声をかけていたら、
もしあの時に村人ドニさんの勇気を試していたら、
もしあの時エメリナ様を助けていたら……
そんな「もしも」の世界です」

「ノワールのお父さんとお母さんのガイアおじさんとサーリャさん?と、ウードのお父さんのドニおじさんとそれにエメリナ様?」

「そうそうその人たち。あっでもこの話は内緒にしておいてくださいね。えっと、××××さんはノワールさんやウードさんがいなかったら寂しい?」

「うん……僕の友達だもん」


「そう、ですよね。寂しいですよね。だから全員が幸せになれる選択肢を探さなきゃいけなかったんです。それなのにまあ私はサボってサボって……とりあえず好きな人といたい!って欲求だけがやたら強かったんです」

馬鹿すぎますね。自分の事なのに皮肉に笑う彼女は視線をさまよわせた後僕があげた花束を見つめてさすが花の似合う男ですね、って今度は綺麗な笑顔を見せてくれた。

「もし過去の私が全てのもしも、を全て受け入れていたら××××さん、あなたの出番です」

「僕?」





「ええ。過去の私に「よく頑張ったね」といってあげてください」

「たったそれだけでいいの?」

「ええ。たったそれだけで過去の"私"は幸せになれると思います」


話はおしまいです。
彼女は僕の頭をそっと撫でて、貴方は1番青色が似合ってますね、って僕の瞳を覗き込んできた。


「じゃあ、今のルフレさんは?ルフレさんは幸せになれないの?」

「物語には必ず悪い悪役がいますよね?私はその役にならなきゃ。そうしないと「私」の呪いは解けませんからね」

「……ルフレさんは悪い人なんかじゃないよ。
僕も、ルキナも、父さんや母さんだってルフレさんのこと大好きだもん!!」








「……ありがとう。

世界で一人だけでも、そう思ってくれる貴方がいるだけでもう私は充分なんです」


お花、大切にしますね。彼女は僕があげた花を大切そうに懐にしまった。

「過去の私はなんか変な覚悟決めて頑なですよ。なので是非頑張って口説き落としてくださいね」

「……過去なのにまるで別人のように言うんだね」


「ええ。可能性が違えば、それはもう別人です。……今の私がいい証拠ですね」

花を持っていた方の手を彼女はそっと撫でた。その手にはよく分からない、見覚えのない赤い紋章がそこにある。


そして彼女はその手を隠したままそれに、と言葉を続けた。






「いつだって呪いを解くのは王子様の仕事ですからね」












◆◇◆




遠くで何処か聞き覚えのある声が聞こえた。


「あれが敵の砦か…ひとりで戦おうとしてる奴がいるな。助けに入るぞ!」



ナーガ様の力によって過去に戻れた僕は今、村を荒らす荒くれ者達が居座っているという遺跡に盗賊退治に来ていた。仲間達とはぐれてしまった為、その間に人助けでも、と動いていたが単独の行動にはやはり限界があったかぁ……と砦に侵入した後に若干後悔していると
、その最中に村の人たちが助けを呼んでくれたのか僕の他にも盗賊たちを圧倒する人たちが現れた。

ちょくちょく、見覚えのある人がいる。あれは……まさか……


「おい、大丈夫か?俺はイーリス国の王子、クロムだ。
お前の助太刀をしに……」


そして、その先頭にいたのは、僕と同じ髪の色をした……

「!!イーリス王子…クロム………それじゃあ…あなたが………父さん、なんだね」

「なに…!?それじゃあ、お前も…!?」

僕の……父さん。……いや、この世界の父さんに証拠である瞳の聖紋を見せると「ルキナには弟ができるのか……」と納得してもらえた……この世界で僕はまだ産まれてないのか。そう思うと何だか恥ずかしくなって、話は後でね!!と父さんを振り切り遺跡の奥へ足を踏み入れた。


すると綺麗な銀の髪が遺跡を軽快な足音を立てて目の前を横切っていった。
見覚えのある、その姿を慌てて追ってその銀髪の彼女の前に立ちふさがっていた盗賊の1人を峰打ちで攻撃した。

「大丈夫!?」


「……あ……ず……



突然現れた僕に驚いていたのか、口を開いて、驚いている彼女に……ルフレさんに僕は手を伸ばした。
驚いたな。未来での彼女と何ら変わりない。綺麗な女性だった。


「ああ、僕はアズール。宜しくね、……綺麗なお姉さん……」

そう言って、僕は警戒されないように初対面を装って、笑った。
彼女は瞳を震わせて、「ルフレ、です」と小さな、消えるような声で言うと僕の手を取った。


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