ナーガ様の力もあり、過去に戻ってこれた私は……過去のお父様とお母様と再会を果たした。
お父様は私をルキナ、と認めてくれた。そしてお母様も……
「私たちの娘はこんなに綺麗に育つんですね……」
「お母様……っ!」
過去の世界で母の……オリヴィエ、さんは私のことを「もう1人の娘」と言ってくれた。
私はもう二度と母とは会えないと思っていた。……未来でお父様が亡くなったあと、それを追うように母も亡くなっていた。
母はいつも優しい笑みを浮かべて、優しくて穏やかで、でも照れ屋で……争いを嫌う私の自慢"だった"。
……それは過去の姿であっても、何も変わらなかった。
お母様は私を優しく抱きしめて「頑張ったんですね」とそっと背中を撫でてくれた……だから私も縋るように抱きしめてしまった。
すると、お父様の後ろから未来でも見覚えのあるコートの女性が声をかけづらそうにこちらを見つめていて慌ててお母様から離れた。
よりにもよってこの人に見られてしまうだなんて……恥ずかしい……!
「あの……ルフレさん、ですよね」
「感動の再会の所すみません……貴女はルキナさん、なんですよね。聞き耳を立ててしまってごめんなさい……」
「いえ!その、いずれルフレさんにもお話しようと思っていましたので」
「そうだったんですね……あっでは改めてよろしくお願いします。ルキナさん。これからは一緒に行動をされるのでしょう?」
「はい!お父様を……過去を守るために私はここに来たのですから」
にこり、と微笑み私のことを歓迎してくれたのはこの世界のルフレさん。頼もしい軍師であり半身であり友であるとお父様が散々言っていた。その話に毎回私は「お父さまのはんしんはお母さまです!!」と謎の反抗心を見せていたものだ。
だが、今は……そんな事は思わない。
「私のことはルキナ、と呼んでください」
「えっ……でも……」
「その……恥ずかしながらルフレさん。私は貴女のことはもうひとりの母のように思っていました」
「……え……?」
不思議なことに、私はルフレさんと初めてあった時から「他人」の気がしなかった。彼女に敬愛があり、親愛を寄せていたのだ。
お父様のお話を聞いていた時はただの我儘な嫉妬で溢れていたはずなのに、私は彼女の事を「他人」と思えなかったのだ。
「貴女は未来で……いえ、私に色々な事を教えてくれました。それこそ最初は勉学が苦手だった私に意地悪をしていると思っていて、何度も壁を壊してでも逃げていましたけど」
クロムさん遺伝がそんな所にも……と呟いた彼女に私も思わず苦笑いしてしまう。いえ、小さい頃の話で今ではたまにしかしない方法ですよ?
「でも…そんな私に…貴女は色んな「術」を教えてくれた。戦略を、勉強を……生きる術を……貴女は私に沢山教えてくれたんです。
だから私は誇らしく思っているんです。私には"四人"の素晴らしい母がいるんです、って」
私のお母様、
過去のお母様
そして、
未来の世界で私に色んな事を教えてくれた母、
目の前に、いるルフレさん。
「先生、なんて言葉じゃ収まらないほど私は貴女を敬愛していたんです。……それとふふ、何故でしょうか?ルフレ、さんはお母様に似てないのに、私はよくルフレさんのことを間違えてお母様、って呼んでしまったこともあったんです」
「……ぁ……っ私にはそんな風に慕われる資格なんて……ないんですよ?」
「ええ、だから、私が勝手に思っているだけなんです。それに人を慕う事に資格なんて関係ないですよ。私は誰になんと言われようとルフレさんが好きですから」
「……熱烈な告白、ですね。半身と言ってくれたクロムさんそっくりです」
ルフレさんは折れたのか少し気恥しそうに笑ってくれた。それにお父様と似ていると言われて悪い気はしない。
「私だけじゃなくて弟も……」
「え?」
「いえ、なんでもありません!お父様とお母様、そしてルフレさんの力になれるように頑張りますのでよろしくお願いします!」
◆◇◆
それから、私を軍に引き入れてくれたイーリス軍の皆さんと行動を共にするようになって暫く。
皆さんはとてもいい方ばかりでなんの隔たりもなく私に接してくれていた。
そんなある日、ギムレー教団から逃げている女性を匿ってほしい、とある進軍途中の村で助けを請われ見過ごすわけには行かない、とお父様とその女性の方の元へ案内をされていた。
そして、そこに居たのは……
「っ叔母様!?」
「姉さん!!?」
「おえねちゃん!おねえちゃん!?」
そう、そこに居たのはエメリナ叔母様だった。私は彼女の事を肖像画でしか見たことはなかった。だが、その絵のそのままの姿でそこに居たのだ。お父様とリズさんはエメリナ様の姿に声を震わせて彼女の名前を呼ぶが、エメリナ様は何の反応もしなかった。
「……ね……さ……?」
「どうしたんだ、姉さん!俺たちがわからないのか!?」
「おねえちゃんわたしだよ!リズだよ!」
「……お二人共やめてください。エメリナ様はは口がきけないのです」
首を傾げるばかりのエメリナ様を庇うようにルフレさんがお父様とリズさんとの間に割って入った。どういうことでしょうか?彼女はエメリナ様がいきている事を知っていた……?
「ルフレどういう事だ!?」
「……私は、"あの日"エメリナ様は自ら命を絶つと想定していました。なので事前に崖下にペガサスナイトの皆さんに1部待機してもらっていたのです。……ですが……」
「そこの女性に匿うように頼まれて居たのですが……この人は口がきけないのです。この村に逃げてきた時からこのような様子なのです。
しゃべる言葉はまるで幼い子供のようで………よほど辛いことがあったんでしょうな…かわいそうに…」
「すみません……クロムさん。ペレジアや教団がどう動くか分からなかったのでいままで黙っていました。……そして私はエメリナ様を…………救えなかった」
エメリナ様は尚もお父様とリズさんを見ても何も言わず、ただ「ぁ……ぅ……」と嘔吐くだけだ。私が……エメリナ様を話を聞いた時は確か聖女のような、とても優しい方だと聞いていた。今の彼女は震えて、脅威に怯えている……ただのか弱い女性だった。
「おねえちゃん……なんで……」
「ごめんなさい……、リズさん。私は"知っていて尚も"救えなかった……あなた達には私を裁く権利があります」
「っ何を言っているんだ!」
お父様は、ルフレさんの肩を掴むと泣きそうな、声で叫んだ。その怒号にエメリナ様が肩を震わせたがお父様はルフレさんのことを離さない。
「ルフレ、俺はもちろん姉さんに元に戻って欲しいと思う……俺やリズのことを思い出して欲しい。昔のように一緒に話したかった………でも、それは…
思い出させることになるんだ。
姉さんを死まで追いつめた残酷な世界を、自責と重圧に苦しみ抜いた自分を…」
だから、これでいいんだ。
お父様は震えた声で、そう言うともう一度ルフレさんに「ありがとう」と言った。
「っあ……そんな事……ないんです……ないんですよ……ッ救えなかった、"また"救えなかった……っ」
「いや、生きているだけで、いいんだ。姉さんには聖王としての重荷をずっと背負わせてきた。これからは、一人の女性として……幸せに生きてほしい。だから、ありがとうルフレ」
ごめんなさい、ごめんなさい。と何故か「誰か」に謝って泣いてしまったルフレさんにお父様は彼女の頭を撫でて憑き物が落ちたような顔で、笑っていた。
「お前はよく泣く軍師だなぁ」
「ふふっ、なんですかそれ……でも吐く、よりは良いですね」
「ぅ……よしよし、?」
「っエメリナ様まで…………」
お母様、今日だけはルフレさんとお父様が一緒にいることを目をつぶってあげて下さい……ルフレさんは、本当に色んな人を救ってくれる人ですね。