黒色の君へ



嘘でしょう。嘘だろう。嘘であってくれ。
その言葉が何度脳を反響したか分からない。

「おい大丈夫か?ほら」

「こんな所で寝てると風邪ひいちゃうよー?」

生きてる……?生きてる!!?
アズールさんが帰ってしまう世界なんて、私が残っていても仕方がなかったのに……!!


「おーい、聞こえているか?」

「生きてる?」

「ダメじゃないか?」


「そ、そんな!!?」


心配そうなリズさんの高いソプラノの声にもうこのまま朽ち果てたかった思いを抑えてのっそりと起き上がると手を差し伸べてきたのは、まるで「初対面」のような振る舞いをするのは昔の嘔吐の種ことイーリス軍聖王、






「なんでこんな所で寝ていたんだ?」



「ク…ロムさん」

片袖どうしたんですか?無くされたんですか?
それともアン〇ンマン精神で片袖がない人に上げたんですか?白々しい演技をする彼にそう言ってやろうと思ったが何だが様子が変だった。

本当に「初対面」みたいなのだ。彼の言葉や、態度が。


…………彼はきっと、私をからかって初めてあったあの日を再現しているんだろう。そうだろ、そうであれ。

彼の演技であって欲しい。その願いは無残にも「なんで俺の名前を知ってるんだ?」という絶対演技が出来ないだろう選手権堂々の1位を取れるだろうクロムさんの言葉で打ち砕かれた。


◆◇◆



「……頭がいたいぜ」

「どうしたルフレ?甘味食うか?」

「いらないです。仕事しろこの半端腹筋」

「ひっでえなオイ!!?」


あれから何度か頭を柱に打ち付けたり熊と戦ったり内もも捻ったり熊と戦って得た肉をフレデリクさんに食わせたりしたがやはり夢は冷めなかった。

「夢であって欲しかった……」

「おいその菓子も食っていいか?」

「それは私がアズールさんに上げるために練習している物です食べたらそのクマちゃんへし折りますからね。」

前と同じ、いや多少の誤差はあるものの、物語は着実に私が前辿った同じ道筋に進んでいた。
ちなみに多少の誤差の一員の一つはこの目の前でお菓子を食べている半端腹筋ことガイアの事だ。前はエメリナ様暗殺の時忍び込んでいた賊として私がサンダーを食らわせて殺した気がする。、気がするというのはあまり覚えてないからだ。だが今回はなぜか彼はちゃっかりとこちらに寝返り、こうして目の前でお菓子を食っているという現状だ。

「またでたな。その「アズール」って誰なんだよ」

「私の旦那さんです。未来の」

「………………」

そっと無言の同情の目でガイアの高級菓子を差し出してきたのでそのままそのハチマキを巻いた頭をお菓子に叩きつけておいた。
嘘じゃないです。私の旦那様として未来から来るんですから。


だから私は「そのため」に頑張った。

エメリナ様の暗殺を阻止…………しなかったのだ。未来を知っていて、なお。



なんで?酷いことを、見殺しにするなんて、可哀想に、
未来は変えられたはず、


そんな言葉が頭を過ぎっては全て振り払った。



"未来が変わってしまったら"最悪の未来が無くなる。つまりアズールさんに会えないかもしれないじゃないですか。全てを諦めた私にとって、理由なんてそれだけで十分だった。










エメリナ様も、必要な犠牲なのだ。






死ぬはずだった私に、生きる意味はそれだけしか残っていなかった。
だから私はそれに縋った。
ルキナさんだって父親を救うために未来を変えたのだ。私だって私の愛する人と会うために、贔屓してもいいはずだ。

どうせ最後は邪竜と死ぬのだから―――……











なのになんで,オリヴィエさんはロンクーさんと、リヒトさんはセルジュさんといい感じになってるんですかね!!?

「す……すみませんっ私、て……握っちゃって……」
「……いや、気にするな。このままでいい」


おいロンクー(ロリコン)さんあなたにはノノさんという運命のロリ……っいえ女の子がいるはずだ!!それなのになんでそうして見つめあってるんですか!!?ダメですダメです!!オリヴィエさんにはリヒトさんとくっついてもらわ……ああああ!!?リヒトさん何しているんですか!!?なんでセルジュさんにお洋服作ってもらって……!やめてー!!そのセルジュさんにはリベラさんという女の人みたいな男の人と結婚するという運命が……運命が……!!


「俺は運命を変える!!……一緒にそれを叶えてくれるか……マリアベル…」
「ええ、共に成し遂げましょう……クロム様……」






性王!!!!!!!!!てめぇ!!!!!!

────別の意味で吐き気してきました。どうしてくれる。




◆◇◆



結局私は(皆さんの結婚相手の)運命を変えることが出来ず、かと言って準備も何もしていなかったのでエメリナ様も救うことも出来なかった。
アズールさんも生まれてこない、最悪最低の未来。
私は何のために過去に戻ってきたのだろうか?





「私は……未来から来たルキナです。」





目の前の感動の()親子の()再開()をただ私は流し見で見ていた。


「わたくしたちの娘は、こんなにも美しく育ったのだと……」

すみませんその娘さん"前"はスミアさんの娘さんでしたよ。
節操なしな性王に笑うことすら出来なかった。






お母様っとマリアベルさんに泣きつくルキナさんを観察していると……ふと、気づいた事があった。

ルキナさん、前となんにも変わってない気がする。いくら父親似だからといって母親が別の人でもここまで変わらないものなのか?


実はマリアベルさんとの子供ではなくスミアさんとの子供……では……そこまで考えたのだがその当のスミアさんは半端腹筋こと菓子盗賊にハートを盗まれていたのでそれは有り得ない事だった。


………………まさか、ね?













そんな私の心配は裏腹に、賊がでて、あの日初めて彼とあった日になった時
私は口角が上がるのを堪えるのが必死だった。




「僕はアズール。よろしくねルフレさん。」


久しぶりに会えた愛しい彼は黒髪になっていた。






また会えたね。

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