作戦は成功した。
クロムさんへ向けたトロンは彼を傷つけることはなく、私も邪竜へ意思を乗っ取られることは無かった。
(必死にアズールさんへの思いをお供のように唱えてましたからね!!)
ちなみにこの思いが無ければ今頃クロムさんの腹にはトロンが刺さっていた事だろう。おっと彼の娘さんが怖いのでここまでにしておこう。
あとは、目覚めてしまった邪竜……アズールさん達の未来から来た私を殺す事で全ての戦争は終わる。
気持ちを切り替えるように作戦を書いた地図に向き合うと相変わらず断りもなくテントが開いた(もはや慣れた)
「やあ、ルフレさん!今日も一段ととお綺麗ですね!」
彼のその一言だけで一々テンションが上がってしまうのでここ最近は軍議に手がつかずに困っていた。いやだがこれは最終決戦だ。迂闊に浮かれる場合ではない!!
誤魔化さないと、この気持ちは宝物だ。
彼は私を救ってくれた。だから私はこの恋心だけで十分だと言い聞かせて笑った。
「……あらアズールさん。相変わらず女の子たちをナンパしてるんでしょう?」
「いやぁ〜。実を言うと最近は控えるようにしているんですよ?」
「あら、どうしてです?……あなたらしくもないですよ」
進軍は1週間後を控えており、今は私の作戦の見直しだった為既に団長のクロムさんや各部隊長とフレデリクさんはそれぞれ体を休める為に部屋に戻っていた。
なので今この場にいるのは私とアズールさんの二人っきりだ。
心臓の音聞こえていないよな?大丈夫ですよね…
「僕が女の子に声をかけるのは仲間としてのただの交流の一環ですからね。そろそろ僕も好きな人だけに
集中しようか…な、…なんて……」
「えっ…………」
好きな人
、確かに彼はそう言った。
ドクンッと心臓が嫌な音が鳴る。違う。クロムさんの時のようにはならないと決めたはずだ。
大丈夫、大丈夫。私は彼を応援"しなければならない"
「……っ、そうなんですか?誰です?」
恐らく未来から来た仲間達の誰かだろう。
意外と気遣い上手なデジェルさんとか、
可愛いンンさん……は、彼がロリコン認定されてしまうので何だか複雑だ。
強くて、凛々しいセレナさん(ティアモさんとヴィオールさんの娘さんで二人に似てとても優秀な子)の可能性もある。
他は母親似のシンシアさん(ルキナさんの妹でクロムさん要素が髪色しか見当たらない女の子)も中々美人だ。
それを言うならルキナさん……だが出来れば彼女じゃなければいいと思った。
「えっ…?いや、その…まいったな……ルフレさんって、意外と鈍感なんですね…」
さあ、誰だ、いっそ人妻でも驚かないぞと覚悟を決めていると予想外の反応が帰ってきて、困惑する。
「アズールさん……?」
「だから、その…
僕が一番好きなのは、
…えーっと……その…
ルフレさんだって意味なんだけど…」
「え」
「えっ?
え…? えぇっ…!? ど、どうしてですか!? 軍にはもっといい子いっぱいいますよね!!?いいいきなりそんなこと言われても…!」
思考回路が停止してる。もはや自分が何を言っているのかすら分からずこれは、私の妄想が見せてる白昼夢か、そうか。泣けるぜ。と完結させてアズールさんに見えないようにさり気なく太ももを抓るがとても、痛かった。
「ど、どうしてだなんて…恥ずかしいな… 。
え…えっと…その…僕みたいな男には…ルフレさんみたいにちゃんと怒ってくれて導いてくれる人が…必要なんですよ……、それに」
「そそそそ、それに?」
夢か!!いやでも太もも痛いぞ!!?
いや寝ていて実は太もももに熊が噛み付いているとか!!そんなわけないですよね!起きてます!!
よくわからない自問自答繰り返しているとアズールさんは私の手を掴んだ。
「ッッひゃっう!!?」
「その……一目惚れなんです……!…
………う、うわぁぁあ!恥ずかしいよォォ……」
「ひ、」
とめぼれ。一目で、惚れる。
その言葉が私の限界だった。
「うわわ!!?」
プシュウウウウウと湯気が出た(気がして)アズールさんに手を掴まれたまま私は後ろへ倒れた、がアズールさんが私の手を引いて支えてくれたのでぎゅっと抱きしめられた状態になって余計に顔から火が出た。
「ゆめゆゆめ、夢ですか?」
「落ち着いて下さいって……夢じゃないです
…それとも…
僕のこと、嫌い…ですか?」
「き、きらいなわけないじゃないですかッッ!!?」
慌てて彼にしがみつくと、はっと正気にもどり距離をとろうとするが彼にぎゅっと抱きしめられ身動きが出来なくなってしまう
どうした!!軍一の力…!?乙女の気持ちに負けて力が出ないです!!そんな馬鹿な!!?
「恥ずかしくて……かお見れないのでこのままじゃダメですか……?」
「いいいあえ!!らいじょうぶれすぅ……!」
呂律回ってないよルフレさんと耳元で笑われる。こうして抱きしめられるとちゃんと男の子というより男の人、で、身長は私より高くて、ああなんかもうダメだ。誰だよこの気持ちを抑えるとか言ってた軍師
無理に決まってる、こんなの、
「…わ、……私も、好き……れす。」
「…………ぷっ……」
「…今のはノーカウントで……私も好きです……アズールさん」
「はい、僕も大好きです。……こんな僕だけどよろしくね?」
ギューッとさらに力を込めて抱きしめられてもう私の心臓がいつ止まってもおかしくなかった。
あっこれで死んだらギムレーの死因が、トキメキ死になる?ならない……そうですか…
「……これからは他の子をナンパしちゃダメですよ?」
私、こう見えて嫉妬深いんですから、とアズールさんの肩に顔を埋めると頭の上から苦笑か聞こえた。
「…う、う〜ん。どうしようかな〜。それは難題だ!
なるべく、そうしますね!」
「ちょ、ちょっと待ってください!なるべくってどういうことです!?」
浮気したらまた吐きますからね!!と勢いに任せて叫んでしまうと、あっ。と我に変える。
「あはは、冗談ですよ、冗談!その人が好きすぎて体調崩しちゃう彼女がいるんですもん。そんなことはしませんよ。」
「……やっぱり知ってたんですね、私の体調のこと」
「クロムさんに何度嫉妬したか分からないですよ〜?
でも、そんなに心配しなくても僕が、心の底から好きだよって言うのは…
……あなたにだけですよルフレさん……、好き、です。」
「…はい…私も、愛しています」
そしてアズールさんは私にたくさんの愛をくれた。
1週間の決戦前の間たくさん好きと言ってくれて
たくさんキスしてもらって、
たくさん抱きしめられた。
流石に体を繋げることはしなかった……否、出来なかった。
だって貴方は口に出さなかったけどわたしには分かっていた。
彼はこの戦争が終われば、元の世界……未来に帰ってしまう事を――……
でも私はそんな彼を愛してしまった。
いつかいなくなると分かっていても、愛してしまったのだ。
だから、私に出来ることはただ一つだ。
「愛してます。ずっと、」
私が死ぬことで変わった未来で幸せになってくれれば、それで、それだけで十分です。
だってあなたはこんな私を幸せにしてくれたのだから。
「さようなら、アズール」
私は邪竜を滅ぼす道を選んだ.