桃色の君に





「ッッ…ルフレ顔色が悪いが…大丈夫か?」

「はい大丈夫です。ご心配をおかけしたみたいですみません…っ…」

「…ッいや、その、だなルフレ……!」



「なん、でしょうか…っ?」





「その軍事書を…ッ閉まってくれないか……ッッ!」

「うら若き乙女の部屋にズカズカと入ってきた正義の鉄拳(書の角)です大人しくくらいな、ッッさい!!」


ぷるぷると白刃取りの容量で軍事書を両手で挟み頭に触れるのを必死に抑えていたクロムさんに私も負けじと力を込めてこの分厚い本の角をそのお気楽な頭にめり込ませるために奮闘していた。

「悪かったって!ただ最近お前が冷たく…っ感じてだ、なっっ……!」

「奥さんとお子さんのいる男に気安く未婚の女がッ、近づいていいわけないで、しょッッ!!」

ドコッ!!

「イっ、っっっ…!!」


結局私の力の方が勝り見事に軍事書の角を聖王の頭にめり込ませることを達成すると同時に再びうら若き乙女のテントが断りもなく誰か、の手に寄って開かれた。



「やあ、ルフレさん!約束通り遊びに来ましたよー!どうです!?嬉しいでしょ………、ってクロムさん何をしているんですか……?」


人のテントで頭を押さえてゴロゴロとのたうち回る軍の一番えらい(筈の)人にアズールさんは疑問符を沢山浮かべて私とクロムさんを交互に見た。

「ぐ、軍事書っが……っ!!」

「えっ…、…ああその分厚い本かぁ…」

それ前に僕も食らいましたけど手首でもめちゃくちゃ痛かったです。そう苦笑いするアズールさんにも無言で聖王も沈めた伝説の武器…じゃなくて軍事書を突き出す


「…アズールさん、またナンパに失敗したんでしょう? 」

「…な、なんでわかるんですか!?」

「いつも失敗した時に限って私の所に転がり込んでくるんですから…いい加減わかります。」

ですがそれは乙女の部屋に断りもなく入っていい理由にはなりませんね。
にこやかにそう告げて軍事書を振り下ろすと今度はアズールさんが両手で本を受け止めた。

「わわわ!!?待って待ってごめんなさい…!!その、クロムさんの声が聞こえたので……ッ!」

「聞こえたから何ですか」

クラスチェンジしまくって力の底上げした軍師の力を食らうがいい……ぐぐぐと少しずつアズールさんの頭に近づいていく本を彼は床で這い蹲る男の二の舞にはならない!と必死に抵抗する。


「…その、ルフレさんってクロムさんの事苦手でしょ?だから、…2人きりじゃない方が……って……」

「…………………………」

「無言で本を近づけるのやめて下さいいいいっ!!」


本当に察しがいい男である。床に這い蹲るクロムさんには聞こえないように小声で半分正解、半分不正解を私に囁く。
何だかその見透かされた態度が気に食わなくて更に力を込めてアズールさんの頭にも聖なる角をめり込ませると彼もクロムさん同様頭を押えてううううううう、と唸り声を上げて崩れ落ちた。

「人の部屋(テント)でゴロゴロしないで早く出てってください」

「誰のせいでこうして痛みに耐えていると…!」

痛みが引いてきたらしいクロムさんが私に食いつくように立ち上がると再びテントの入口が家主の断りもなく開いた。

「お父様?ここにいらっしゃるのですか…………、っルフレさん…!」

「……はぁ……こんにちはルキナさん。あなたのお父様ならもう要はないです。連れて行って貰えませんか?」




最悪だ。ファザコンマザコンこじらせたルキナさんに「父に近づく嫌な吐く軍師」がクロムさんと一緒のテントにいるのを見られてしまった。
これはヒステリックに母親に話してまためんどくさいことになる(そして私は再び吐く)

「ええ…貴女に言われなくても!!……?お父様頭が痛いのですか?」

「ああちょっとルフレに…な…」


ルフレに、…な……、じゃないぞ。
止めてくれて意味深に最後を濁したら……ほら

「っ貴女はお父様の部下の分際で手を挙げたのですか!!?」

「ルキナ、何度も言っているだろう。ルフレは部下じゃない。半身だ、と」

「お父様の半身はお母様です!!」


あ。ダメだ。



「うっ……ぇ……」

「おいルフレ…?」



やばい
、やばいやばい。吐く。

ルキナさんの、母親に似た視線が私に突き刺さる。やめて、吐く、ぞ。
グルグルと色々なものが回り始めて本格的にやばくなってくるが「好き(だった)人の前で吐く」という無駄なプライドと乙女心がそれを拒絶して喧嘩してもう、とりあえずむり。吐く。ルキナさんの後ろにスミアさんの幻覚まで見えてきた、



「クロム様と私の大切な娘」
「"私"を選んでくれてありがとうございます……クロム様」






幻聴まで聞こえてきて、色々限界だったその時



「……ううっ! ううっ! 痛いし心も寂しい……
どうしていつもフラれちゃうんだろ……!!ねぇルフレさん!!ちょっと個人相談にのってくださいよ!」


「えっ、あっちょっ……アズール!!?」




桃色の彼が私の手首を掴んでテントから飛び出してくれた。






















「吐き気は大丈夫ですかルフレさん?」

「お蔭さまで、……引っ込みました。」


あんなにぐるぐるとさ迷っていた吐き気は外の空気を吸ったと言うとこととあの親子から離れたことにより嘘のように治まってきていた。

念の為薬を飲むとアズールさんはほっとしたように笑った。

「それで、どうして僕はフラれるんだと思いますか?」

それ本気で聞いていたのか、と見直したのが馬鹿らしくなり私も釣られて笑うとアズールさんの隣に座った。

「…そんなに落ち込まないでいいんじゃないですか?元気を出してください、どうせすぐに新しい女の人好きになるんでしょう?」


「はい、もちろん!
………はっ!?いえいえ!そんなことあるわけないじゃないですか!?」


「……………」


「…………………」


じーっ
狼狽え始めるアズールさんを無言のジト目で見つめていると彼は先日同様髪色と同じくらい顔を染めて私の視線から逃れた。



「…そんなにじっと見ないでください…は、恥ずかしいですよ…それに、そんな目で見ても僕の言ってることは…変わりません、よ?」

「嘘をつかないで下さい。私の目はごまかせませんよ?……と、言いたいところですが今回は助けてもらったので見逃してあげます」

ふふ、と気が緩んで笑うと彼は何故か更に顔を染めて視線をさ迷わせた。


「…あ、いえ、その…じゃあ、その通り…かもなー…
さすがはルフレさん、僕のことをよく見ていらっしゃる」


「何ですか急に肯定して……まあ、わかるに決まってるでしょう?アズールさんは女の人と見れば誰かれ構わずナンパばかりしてるんですもの。」

「おやおや、ルフレさん……嫉妬ですかな?嬉しいなぁそんなに僕のことを…」

「なにを都合のいい解釈をしてるのですか?私はただ呆れてるだけです……再びこの角を喰らいたいのですね」


「わわっそれは勘弁してください!!」


私がローブに潜ませていた魔導書(軍事書は置いてきてしまった)を構えると逃げるように距離を取られた。冗談ですよ、というと「洒落になりませんって!」と赤みが引いてない顔で怒られた。

「ふう…まったくもう。たまには戦闘以外でも皆の役に立ってみせてください。そうしたらお茶ぐらい考えてあげてもいいですよ?」


「本当ですか?やったぁ〜!じゃあ今はルフレさんの
気が変わらないうちに、退散しときます!それじゃ、失礼!」


先程までしつこいくらいに絡んできたのに言質を取ると呆気なく立ち去るアズールさんに余計なことを言ってしまった、と苦笑いしていると、







「あっ、ルキナには僕から注意しておきますから!!」


1度振り返りそう言った彼はどこまで察しがいいのだろうか


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