※武士パロ・死ネタ





ぱちり。目を開けた。

辺り一面は真っ暗闇で、俺の視界を黒く塗りつぶしている。



ここが何処なのか、もうそれすら分からないほどに俺の身体は死線への道を進んでいるらしい。右手に握り締めていたはずの刀が、するりと地面に落ちた。手に力は入らない。俺たちの命ともいえる刀。それを手放すということは、

ここが俺の終着点ということだ。



(……動け、ねえ)



何人いるかとも分からぬ敵を追いかけ、道中、ひたすら斬る、斬る、斬る、斬る。血を浴びても、己の行く道を信じて、ひたすら前を向き、歩く、歩く。

結局、俺の行く道とは何だったのだろう。行く先に、何があったというのだろう。それすらも分からずに、歩いてきた自分はきっと相当の馬鹿だ。



(ああ…会いてえなあ…)



何も感覚の無くなった手のひらを、空に翳してみた。真っ暗な空に包まれ、もう自分の手すら見えない。この世界は、もう俺を照らしてすらくれないのだろうか。

いや、違う。この日の本は、別に俺を要らないものだと判断したわけじゃない。きっともう俺に、休めと言っているだけだ。この手に抱いた、たったひとりの女が、寂しいと、俺を呼んでいるだけだ。



――――神田はん、あたいを、外の世界に連れて行ってくれはるん?

――――…嬉しい。外の世界を見るのは、何年ぶりなんでしょ。

――――……おおきに、神田はん。あたいは、幸せ者どすなあ。



僅かな日の光ひとつすらない吉原桃源郷で主人の奴隷のように毎日を過ごしていたひとりの花魁…篝(かがり)という娘は、太陽を見たあの時、この世にはこんなに綺麗なものがあったのかと、そう言った。俺はあいつに、この日の本の美しい景色をもっと見せてやりたかった。

ただ、それだけだったのに、こうなってしまったのは何故だろうか。



(……俺は、まだ…)



やり残したことは、まだたくさんある。あいつの元へ行くまでに、やらなければならないことがたくさんある。そう思い、感覚の無くなった手のひらをそのまま握りしめた。そして瞳を閉じる。



(……ああ、そうか)



瞼の裏に、あいつの面影を見た。それを見た瞬間、この日の本がすべて穢れたもののように見えて、すべてがどうでも良くなった。やり残したことなんて、最初からなかったんだ。



(…愛してるぜ、これからも)



手を伸ばしたところで、もうあいつはいない。小さな手を握ることすら出来ない。空虚になった俺に、未来などない。握り締めていた手をもう一度開いて闇にかざす。

もう、終わりだ。

俺はそう呟いて、静かに目を閉じた。





今そっちに逝ってやるから、

(もう、その言葉は)
(声にならない)





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