「へいすけ〜!!」

中庭を歩いていると、大手をブンブンと振りながら走って来る勘右衛門に、兵助は立ち止まり、勘右衛門が来るのをじっと待ってやれば、直ぐに愛らしい笑みを携えた勘右衛門が傍まで来た。
兵助は、にこにこと笑う勘右衛門に少し頬を緩ませながら、なにか用事か?と口を開こうとしたその時に事件は起きた。

「えいっ!!」

ベシャっと冷たくて柔らかい物が兵助の顔に押し付けられた。
ぶつけた張本人の勘右衛門は小さく、やった!と握り拳を作り嬉しそうに笑っている。

「勘ちゃん、何してんの?」

「えっ?今日って兵助に豆腐をぶつけるお祭りなんでしょ?」

きょとんと、違うの?と小首を傾げて聞いてくる勘右衛門に、本気で勘右衛門は祭りだと思って仕出かしたのだと理解し、はぁ〜と溜め息が出た。
兵助は懐から手拭いを取り出して顔を拭きながら、それ誰から聞いたの?と勘右衛門に訪ねれば、勘右衛門はどこか不安そうに口を開き、鉢屋…と答えた。

「もしかして俺また鉢屋に騙された?ごめんな兵助、怒ってる…よな?」

「怒ってないよ」

不安そうに見詰めてくる勘右衛門の頭に手を乗せて優しく撫でてやれば、でも…と小さく勘右衛門は口籠り、シュンと下を向いて自分が仕手かしてしまった事に落ち込んでいる。
そんな勘右衛門に、兵助は少し慌てて鉢屋のいった事は本当だ、と嘘を吐いた。

「嘘だ…」

「う、嘘じゃないよ!まさか勘ちゃんが来るなんて思わなくてちょっと驚いただけだよ!!」

「…………」

ちらりと上目遣いで様子を伺う勘右衛門に、にこりと笑ってやれば勘右衛門は、そっか!と納得してくれた様子で一安心していると、鉢屋に騙された第二の被害者…いや、加害者が現れた。

「まさか三郎のいった事が本当とはなぁ〜」

「…八左ヱ門、その手に持ってる白い物は」

「もちろん豆腐!」

八左ヱ門の登場に、ジリッと臨戦態勢を取り、距離を保ちながら兵助は八左ヱ門に、お前も祭りだって聞いて来たのか?と訪ねれば八左ヱ門は至極真面目そうに、祭りは祭りでもただの祭りじゃないんだろ?と答えた。

「それはどういう事だ?」

「これは、ろ組の課題だとも言ってたな…」
優秀ない組から1本取れれば今週の課題クリアだそうだ…と八左ヱ門は答え兵助との距離を縮める。
兵助は、あの狐後で絞める、と悪態を吐き八左ヱ門の行動に全神経を注ぎながら、なにがなんでも喰らってなるものかと集中していると、八左ヱ門以外の気配に気付き、そういえばろ組にはもう一人と、この状況を引き起こした張本人が居たなと八左ヱ門の後ろから現れた彼らを見遣った。

「おっ、やっと来た」

「絹ごしと木綿どっちにするか迷っちゃった」

「雷蔵はほんとお茶目さんだな〜」

「三対一、か…」

ニヤニヤと笑う三郎に、このほら吹き野郎!と腹立たしく思いながら、先ずはあいつから潰す!と兵助は心に決め、飛びかかって来る三人をキッと睨んだ。






10月2日は豆腐祭り!


(どりぁああああッ!!)
(させるかぁああああッ!!)
(へいすけ〜頑張れ〜!!)



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