「勘右衛門は今日から久々知勘右衛門になるから、そこんとこ宜しく」

昼食をいつもの様にみんなで集まって食べていると、兵助が突如として言い放った言葉に、兵助以外のその場に居た四人の箸が止まり、えっ?!とみな一様に兵助の顔を凝視するが、当の本人は至っていつも通りに昼食を食べ続けている。
だが、もう一人の当事者である勘右衛門は余りの驚きに開いた口が塞がらず、食べようとしていたであろう出汁巻き卵がポロリと箸から零れ落ちテーブルにべちゃりと落ちた。

「お前はまた唐突に何を言い出すんだ」

「そうだよ兵助、冗談なら笑える冗談にしなよ」

「勘右衛門なんて驚き過ぎてまだ固まったままだぞ」

ろ組からの非難の声にも何のその、兵助は平然と昼食を食べ続けて、ごちそうさまと箸をテーブルに置いて一言、お前達が何といおうとこれは既に決まった事だ、と言い放った。

「いやいや、決まった事って…」

「なら何故、勘右衛門まで驚いているんだ?」

「そうだよ、どうせ兵助の夢オチなんでしょ?」

尚も浴びせられる、ろ組の批判に、夢じゃ無い!と兵助が勘右衛門の方を向き、昨日の夜豆腐に将来を誓い合ったじゃないか!と勘右衛門に詰め寄り、勿論覚えてるよな!?と問い質した。
だが、勘右衛門はその事を覚えていないのか、えっ、えっ!?と慌てふためくその姿に、兵助は愕然とした。

「そ、そんな…、それじゃあ新婚旅行は伊豆の温泉に行こうって話した事も」

「ごっごめん、…覚えてない」

酷いっ!!とテーブルに突っ伏して泣き出した兵助を、勘右衛門は必死に謝りながら、どうしようどうしようと悩み出すのを、ろ組の三人は兵助を白い目で見詰め、勘右衛門を憐れみを含んだ目で見詰めた。

「兵助、その話しは何をしてる時に話したんだ?」

「ぐすっ…、何してる時って、寝る前に布団に入りながら…」

「その時の勘右衛門の様子は?」

「えっと…」

突然、三郎が兵助に昨日の様子を事細かに聞き出し始めたのを不思議そうに残りの三人は首を傾げながら見詰めた。

「ふむ…勘右衛門が兵助との話しを覚えていない訳が分かったぞ」

「ほんとうかっ!?」

三郎の言葉に四人は、なんでだなんでだ?と詰め寄るのを三郎は、まぁ落ち着け、と四人を宥め席に座らせた。

「結論からいうに、勘右衛門は兵助と話しをしている時には既に寝ていた、という事だ」

「それなら何で寝てんのに返事するんだよ?」

「あぁ、それは私も聞いた話しなんだが、寝ている相手に話し掛けると稀に寝言として返事が返ってくるらしい」

「「「「へぇ〜」」」」





寝ている子に話し掛けちゃいけません!


(自分の寝言を覚えている人間なんて居ないだろう?)
((((なるぼと〜))))
(そういう訳でこの話しはもう、お開きでいいな?)
(えっ!?)
(あ〜良かった〜。俺、本気で久々知勘右衛門になるのかと焦っちゃった)
(ははは、なにいってんだ、勘右衛門は鉢屋になるに決まってるだろ?)
(ははは、三郎こそなにいってんの?不破に決まってるじゃない)
(お前ら話しをぶり返す様な事いうの止めろ…)





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