それは、いつものように僕たち火薬委員会のメンバーが在庫管理の仕事に専念している時でした。
その日も、いつもと変わりなく黙々と仕事をしていた久々知先輩でしたが、いきなりすくっと立ち上がり何やら真剣な面持ちで、じっと出入り口の方を見つめ出したのです。
その光景に僕、二郭伊助と二年の池田三郎次先輩に四年の斉藤タカ丸先輩は何かあったのだろうかと顔を見合わせました。
「久々知先輩どうかしたんですか?」
「えっ?あ、あぁ…。」
久々知先輩の行動が分からず、先輩にどうかしたのかと尋ねてみたけれど久々知先輩は曖昧に言葉を濁すだけで疑問は解消されなかった。
どうしたものかと三人顔を見合わせたその時、久々知先輩が申し訳なさそうに残りの仕事を頼めないかと仰って来たので僕たちはやっぱり何かあったのだと思い、分かりましたと二つ返事で承諾した。
「久々知先輩どうされたんですかね?」
「ほんと珍しいよね〜」
久々知先輩が走って行った方を眺めているとタカ丸さんが、あっ、分かった〜!といつものように間延びする声を発した。
なにが分かったんですか?とタカ丸さんに聞くと、勘右衛門くんの所に行ったんだよ〜と教えてくれた。
勘右衛門というと久々知先輩と同じクラスの尾浜先輩の事だよね?
でもいきなりどうしてまた尾浜先輩の所に?とタカ丸さんに聞くと、だって兵助くんは勘右衛門くんが大好きだからね〜との返事が返って来た。
その言葉に僕は疑問符が浮かぶばかりだ。
「気になるなら行って見る?」
「駄目に決まってるでしょ!!」
ちゃんと仕事して下さい!と抗議の声を上げたのは二年の池田三郎次先輩で、タカ丸さんはそれにやっぱり駄目かぁ〜と素直に謝っていた。僕としては、あの久々知先輩が仕事を放棄してまで会いに行く理由が気になって仕方ない。
それは、先程タカ丸さんに抗議した三郎次先輩も同じだと思い僕は一つ提案を上げて見る事にした。
「良し!だったら早く仕事を終わらせて久々知先輩の後を追いませんか?」
「さんせ〜い!」
てな訳で、僕たちは中断していた仕事を再開し久々知先輩の後を追う事にした。
何やら後ろで三郎次先輩がブツブツいっていたけど僕とタカ丸さんは気にせず仕事に取り掛かった。
「あっ、いた!」
「ほんとに尾浜先輩と一緒にいるし」
そこに居たのは、にこにこと楽しげに話しをしながら教材を運んでいる尾浜先輩と久々知先輩が居た。
そして久々知先輩はというと僕たちが見たこともないくらい嬉しそうな顔をしていた。
「あの久々知先輩が笑ってる!?」
「信じられない…」
僕と三郎次先輩の呟きにタカ丸さんは、兵助くんは勘右衛門くんの事が大好きなんだから当たり前だよ〜と二人を見ながら何故か嬉しそうに呟いた。
焔硝蔵でも聞いたけど、その言葉に僕たちはまた驚いた。
だって失礼かも知れないけど、久々知先輩って豆腐にしか興味がないものだと思っていたから…
でも今の久々知先輩を見ると、その言葉が本当なんだという事は分かる。だって久々知先輩凄く幸せそうだから。
君受信アンテナ
(久々知先輩が尾浜先輩の事が好きなのは分かったんですが)
(肝心の理由って何なんですか?)
(分からない?)
((はい))
(好きな子が困ってたら直ぐに分かるって事かな?)