全くもって苛々する。
どいつもこいつも気安くそれに近寄るな!それは私の所有物だ!勝手に喋り掛けるな勝手に触るなッ!!と周りの輩にいう事が出来ればこんなに苦労しないんだが…
まさか友人だと思っていた相手がこんな感情を抱いている知ったら勘右衛門はどんな顔をするだろうか?気持ち悪がって私から離れるだろか?それとも優しいお前の事だ、私に気を利かせて今まで通りに接するのだろうか?
はぁ…全くもって恋とは厄介な物だ。

「鉢屋〜今度の合同実習の事で相談が…ってあれ?何か怒ってる?」

「怒ってない…」

うっそだ〜絶対怒ってるね、どうせいつもみたいに悪戯したのが雷蔵にバレて怒られたんでしょ?早く謝って許して貰いなよ!と笑う勘右衛門に何だか腹が立ち、彼の柔らかい頬を思いっ切り引っ付かんで引っ張ってやった。

「いひゃいッ!!」

「煩いッ勘右衛門が悪いだからな!」

自分でもこれは八つ当たりだと自覚しているし勘右衛門は悪くないと分かっているが、どうしてもこのもやもやする思いを抱かせている張本人が目の前でへらへらしていると腹が立つ。
少しはお前も私と同じ様に苛々してもやもやするれば良いんだッ!と私は最後に思いっ切りつねってから勘右衛門の頬を離した。
勘右衛門は涙目でう゛〜と唸りながら両頬を擦り、俺がなにしたっていうんだよ〜と聞いてくるので、自分で考えろと言い放ちその場を離れた。

「それで勘右衛門に冷たくしてしまった自分が嫌でそうやって拗ねてるの?」

「雷蔵には全部分かってしまうんだな…」

そりゃ〜五年も一緒にいれば分かるよ、といわれた。
だけど勘右衛門とだって五年間一緒にいるのにあいつは分かってくれない、と雷蔵に抱き付き甘える様に呟いた。そんな時に運悪く、想い人である勘右衛門が来てしまった。

「鉢屋〜さっきの事なんだ…けど……。」

「「あっ…」」

ごっごめん!と勘右衛門は顔を赤くして走り去ってしまった。
雷蔵は、あちゃ〜と苦笑いを浮かべ唖然としている私に追わなくて良いの?と話し掛けて来た事でハッと我に還った私は急いで勘右衛門を追った。

「兵助ッ!勘右衛門見なかったか!?」

「あ?勘右衛門ならさっき物凄い勢いで裏山の方に走って行ったけど?」

何かあったのか?と心配する兵助に、何でもないッ!助かった!!と告げ急いで勘右衛門の後を追った。

はぁ‥はぁ…。あれから大分走って来たが勘右衛門は一体全体どこに行ってしまったんだ?
流石の私も多少疲れてしまったので木の根元に腰を下ろし休憩でもしようかと思ったその時、ガサガサと茂みを揺らす音が聞こえ、熊でも出て来るのか?と苦無を瞬時に手に持ち、いつでも攻撃出来る体制で茂みの先を見詰めた。
すると現れたのは熊でも猪でもなく、何故か狸を抱えた勘右衛門だった。

「あれ?鉢屋?なんでここに居るの?」

「お前という奴は…」

えっ?えっ?と先程、顔を真っ赤にして走り去った事等忘れてしまったような顔をした勘右衛門に緊張の糸が切れ地面にへたり込んでしまった。

「その狸はどうしたんだ?」

「罠に引っかかってたんだ〜」

と満面の笑みを浮かべる勘右衛門だが装束に僅かだが紅い血痕らしき物が付いているのが目に入った。
私は急いで勘右衛門に近付き怪我の具合を確認しようとしたら何故か子狸に警戒され威嚇までされた。
この狸めッ!何様のつもりだ!!

「勘右衛門!その狸をおろせッ!!」

「えぇ〜駄目だよ〜この子怪我してるし」

という事は勘右衛門が怪我をした訳ではないのか…
念の為、勘右衛門に確認した所怪我はしていないとの返事が返って来たので、私は安堵しまた地面に座り込んだ。
そんな私を見て不思議そうな顔をする勘右衛門を隣に呼び、いつまでも勘右衛門に抱かれているこの憎らしい子狸の怪我を見てやる事にした。

「これ位なら直ぐに治るだろ」

「そっか!良かった〜」

そういう訳だからその狸は置いて帰るぞ、と勘右衛門の後ろに目をやり告げれば勘右衛門は一瞬きょとんとした後に、後ろを向き子狸の親がこちらを見ているのに気付いた勘右衛門は、そっとそちらに子狸を離してやった。
そうすれば子狸はこちらをチラチラと見ながら母親の元に行き二匹揃って茂みに消えて行った。
それを見て、それじゃあ私達も帰るぞ!と立ち上がり、そういえばと当初の目的を思い出し勘右衛門の方に向き直った。

「勘右衛門、まず雷蔵とのあれは誤解だ!いいな?それと今から大事な事を言うぞ、…私は勘右衛門が好きだッ!!」

「俺も鉢屋の事好きだよ!」

ほんとうかッ!!と嬉しさのあまり勘右衛門に詰め寄るが、何だか釈然としない。
もしやと思い、雷蔵は?と聞けば好きと答え、それじゃあ八左ヱ門と兵助は?と聞けばこれまた好きと返って来た。
どうやら私の告白を友達感覚の好きと勘違いしている事が解り、私はガクッと肩を落とした。
そんな私に勘右衛門は、鉢屋?どうかしたのか?と暢気に聞いて来るのに苛立ちを感じ、思わず勘右衛門を抱き寄せその柔らかい唇にかぶりついてしまった。




苛立ちに噛んだ唇


(そんなので上手くいったの?)
(いや…、思いっ切り引っ叩かれた)
(あはははは、だよね〜)



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