その日は、実技の授業で習った体術の予習を一人でやっていた帰り道で、早く帰らないと兵助が心配するなぁと思い、急いで帰るのに近道の草むらの中をガサガサと移動中の時だった。
ふと誰かが泣いている、そんな気がして早く帰らなきゃと思いつつも、足は長屋とは別方向に進んでいた。
程なくして、自分と同じ水色の井桁模様の忍装束を着た子がうずくまって居るのが見えた。

「ねぇ、こんな所でどうしたの?もしかして具合でも悪いの?」

俺はその子に近付きながら、そっと尋ねるとその子はビクッと震えるだけで、うずくまったまま動こうとしない。
どうやら泣いてはいないみたいだけど、気になった俺は更に近付いて、その子の横に腰を下ろした。
その子は、ぎゅっと自分を抱える様にうずくまっていて泣き声は聞こえなかったが、俺には何だか静かに泣いているように見えた。

俺は、どこの組の子だろう、もしかして虐めにでもあっているのだろうか、と心配になって来てその子の頭を優しく怯えないように撫でながらもう一度、どうしてこんな所でうずくまってるの?と問えば、小さく震える声で上手くいかないんだ、と答えてくれた。
でも、俺には上手くいかない、の意味が分からず座学や実技の事かと思いそう尋ねると、ふるふると頭を左右に振った。
それから、その子はまたか細い声で、顔が上手くいかない、といった。
俺は更に意味が分からなくなり、顔が上手くいかないとはどういう意味だろうかと考え出すが答えは出なかった。

俺は、無性に何だかこの子を助けて上げられないのだろうかと思うと悲しくなって来て、もう一度その子の頭をやわやわと優しく撫でた。それからどうしようかと悩んでいたら、その子がボソッともういいだろあっち行け、と泣きそうな声で呟くのに俺は君を置いて行けないよ、と返した。
その時、ふと先程この子がいっていた顔が上手くいかないとは変装術の事かと思ったが、それは上級生になってからでは?と自分の考えを否定する。
でも、そういえば兵助がろ組に素顔を常に隠している変わった奴がいる、と話していたのを思い出し、もしかしてこの子がそうなのかな?と思ったら、俺は突拍子もなくその子をぎゅっと抱き締めていた。

「なっ、何するんだ!?離せ!」

今まで大人しかったその子が暴れ出すが、離せば顔が見えちゃうよ?それでもいいの、と問えばその子は大人しくなったけど僅かに舌打ちしたのが聞こえた。
俺は、苦笑いを浮かべながらも顔も見えないし誰かも分からないその子の背中を優しく撫でながら、誰だって上手くいかない時があるよ、俺も今日上手くいかなくて、実技の授業だったんだけどね全然上手くいかなくて、同じクラスのみんなは上手く出来るのに何で自分は上手くいかないんだろう、って悩んで悩んで授業が終わった後でも一人でもう一回頑張ってみたけど全然上手くいかなかったや、と自分で話して置きながら泣きそうになるのを堪えた。
俺は、内心お互い顔が見えないから自分の泣きそうな情けない顔を見られなくて良かったと思ったが、腕の中でその子が静かにごそごそと動いた事で初めてその子の顔が見えた。

「なっさけない顔」

その子はそういって僅かに微笑んだ。
そして俺は、自分が笑われた事より目の前にいるその子が少しでも元気になってくれたのが嬉しくて、自然と笑っていた。
それから、改めて俺を見たその子は今度は驚愕するように目を見開き、俺はその子に引き摺られるように保健室に連れて行かれた。

「お前いっつもそんなに怪我してんのか?」

「たっ、たまにだよ!……たぶん」

その子は、はぁ〜と溜め息を吐いたと同時にあんま無理すんなよ、と俺の頭をぽんぽんと叩いた。
俺はてっきり呆れられて馬鹿にされると思っていたので吃驚して思わず歩いていた足を止めてしまった。

「なに?どうかしたか?」

「ううん!何でもない!!えへへ」

その子は怪しげに俺を見るが、俺はほんとに何でもないから、と両手を振ってそう伝えるが、尚も訝しげに此方を見て来るその子に俺は恥ずかしくなりながらも、クラスのみんなには馬鹿にされたから、あっでも同室の奴は凄く良い奴なんだよ!と苦笑いを浮かべながら話せば、その子は何で頑張ってる奴を馬鹿にするんだよ?意味が分からん、と顰めっ面。
それがまた嬉しくてその子に優しいね、といえばその子はフンッとそっぽを向いてしまった。
でも僅かに頭巾から見える耳が赤くなっていたので照れてるのかな?と思って俺達はまた歩き出した。
そして別れ際に、一言お互い頑張ろうね!そう伝えて俺達は別れた。




不完全なひとの方が愛しい


(兵助!俺、たぶんろ組の噂の子にあったよ!!)
(何でたぶんなんだ?)
(名前聞くの忘れたから…)
(雷蔵…、さっき変わった雰囲気の奴にあった)
(そうなの?三郎その子の事好きでしょ?)
(なんで?)
(だって凄く良い顔して戻って来たから。それよりいつまで僕の顔でいるつもり?)
(今日からこれで行く)
(は?)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -