私にはどうしても気になっている事がある。
それは勘右衛門がどうしてあの時、私だけ名前で呼ばなかったのか…という事だ!!

バンッと机を叩いて鉢屋が身を乗り出して来た。今はちょうど昼飯時で食堂は満員状態。
そんな中でのこの鉢屋の行動、周りが気にしない訳がない。
鉢屋は雷蔵に周りに迷惑になるから止めろ、と怒られているがどうやら引く気はないようだ。

俺は、はぁ〜と溜め息をはいて別に理由なんてないよ、と答えるが鉢屋は納得がいかないようで、私はちゃんと勘右衛門と名前で呼んだのに不公平だ、と尚も食い下がってくる。
あからさまに自分が納得出来る理由を寄越せと目が語っている。
俺はまた溜め息をはいて鉢屋が納得するかどうかは分からない理由を話した。

「あの時名前で呼ばなかったのは、ただたんに名前を…その〜、ど忘れしたから!!」

これで納得した?と鉢屋を見るとポカーンと口を開けて放心状態になっている。
そして、直ぐにプルプルと震え出しまた大声を上げ始めた。

「ど忘れとはどういう事だ!?確かに勘右衛門にはブランクが有るだろが他の奴らは覚えていて私だけ忘れるなんて酷い!!」

私は勘右衛門に取ってどうでもいい存在なんだ!と今度は泣き始めた。
五年にもなって人前で泣くなんて恥ずかしくないのかこいつは、一緒にいるこっちが恥ずかしくなってくるから止めて欲しい。
それに、名前の呼び方なんてどうでも良いだろうにどうしてそこまで食い下がってくるのか、と悩んでいる俺の横では兵助が何時も通りに好物の豆腐を頬張っていて、勘ちゃん勘ちゃん!今日の豆腐は昨日の豆腐よりプルップルの色白美人なのだぁ!!とはしゃいでいるので良かったな、と笑いかければ至極幸せそうにまた豆腐を食べ始めた。

その時、鉢屋が静かになっているのに気付きチラリと見やればテーブルに突っ伏して妬ましげに此方を見ていてる鉢屋と目があった瞬間、今度はとうふぅううぅうう!!と意味不明な奇声を発してまた泣き始めた。
そして、一人で黙々と豆腐を食べ続けていた兵助が豆腐という単語に反応しない訳がなく、鉢屋に豆腐食いたのか?だがこの豆腐はやらんぞ!?と自分の豆腐を避難させているのに対し鉢屋は、いらんわっ!そんな固形物貴様のせいで食い飽きたわ!!くれるなら勘右衛門をくれ!!と食堂中に響くような大声を発したのに飲んでいたお茶を盛大に吹いてしまった。

「…なっ!?‥おっ、お前なにいって!!」

「いっておくが私は本気だ!!」

「フッ…三郎如きが‥、勘ちゃんが欲しくば俺を倒してから行くんだな!!」

ビシッと、鉢屋に向かって箸を突き付ける兵助とその挑発にのる鉢屋。
これが学年で1・2を争う天才児かと思うと頭が痛くなってくる…







(兵助も三郎もとりあえず行儀が悪いから座りなさい)
(勘右衛門!やっと私の名前を!!)
(勘ちゃん…無理して呼ばなくていいからね?)
(はぁ…)

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