授業の予習も終えてその日は委員会活動も無く暇を持て余した勘右衛門が一人ぶらぶらと廊下を歩いていると、少し先の方で両手いっぱいに授業で使用しただろう忍道具の入った箱を抱えてふらふらと危なっかしく歩いている青色の忍装束を着た子が見えて「大丈夫かな〜?」と勘右衛門が思ったのとガシャンという音が鳴り響くのはほぼ同時だった。
勘右衛門は歩いていた場所からぴょんと飛び降り急いで見事なこけっぷりを見せてくれた子の所に駆け寄った。

「四郎兵衛!!」

「あ、尾浜先輩」

「大丈夫?怪我してない?」

「大丈夫です〜」

えへへと照れ臭そうに笑う四郎兵衛に怪我が無い事を確認した勘右衛門は散らばった忍具をひょいひょいと拾い集めて箱に詰めた後にそれを軽々と持ち上げた。

「これ用具倉庫だよね?」

「え?…あ!おっ尾浜先輩、僕が運びます〜!」

「だ〜め!また転んだりしたら大変だろ?」

「で、でも…」

いいからいいから〜、とスタスタと歩いていく勘右衛門に四郎兵衛は慌てて走り寄った。

「あ、あの尾浜先輩」

「ん?」

「あ、あの…ありがとうございます」

「どういたしまして」

そんな二人のやり取りを物陰から見ている影が三つ
勘右衛門達がにこやかに話ながら歩いていったのを確認してからガサリと茂みから一人出てきた。

「……………」

「あ、あの〜」

「勘右衛門って四郎兵衛と似ているな…」

「え?あ〜そうですね、二人ともおっとりしているというかのほほんオーラが出ているというか間の抜けた感じとか少し似ていますね…それがどうかしたんですか?」

ジッと二人が歩いて行った方向を見ながら腕を組んで何やら考え込んでいる人物に頭を傾げて顔を見合わせるしかない二人の耳に届いたのはまたしても意味の解らない言葉だった。

「眼は私に似ていると思う」

「「はっ?」」

「よしっ!勘右衛門を我が体育委員会に入れよう!」

「「えええええーッ!?」」

「ちょ、ちょっと待って下さい七松先輩!!」

「そうですよ!落ち着いて下さい!」

「何か問題でもあるのか?」

大有りです!と小平太に飛び掛からんとする金吾と滝夜叉丸の勢いに一瞬考える素振りを見せた小平太を見て滝夜叉丸が「いいですか?」と言葉を紡いだのと同時に小平太が「もしかして…」と言葉を重ねた。

「お前たち勘右衛門の事が嫌いなのか?」

「「違います!!」」

「なら問題は無いな!いけいけどんどん!!」

「「七松先輩!!?」

二カッと満面の笑みを浮かべた後に一瞬にして走り出して行ってしまった小平太の後ろ姿を見ながら「どうするんですか?」と問いかけてくる金吾に、滝夜叉丸は「まずはあの人に追いついてからだ」と頭を抱えてとうに見えなくってしまった小平太の暴挙を止める為に二人は駆け出した。



「いや…だから…あの、ですね…」

「七松先輩落ち着いてください〜」

金吾と滝夜叉丸が息を切らして追いついた先では有無を言わさずに勘右衛門に言い寄る小平太と、おどおどとしながらも小平太を止めようとする四郎兵衛の姿があった。

「「七松先輩!!」」

「あっ!滝夜叉丸先輩、金吾!」

二人の姿を見てホッと息をつく四郎兵衛の隣に苦笑を浮べて立つ金吾とハァハァと息切れを整えてキリッと小平太に顔を向ける滝夜叉丸。

「いいですか七松先輩?尾浜先輩はすでに学級委員長委員会に所属しておられてですね」

「知ってるぞ」

「分かっているなら誘わないで下さい!」

真顔で答える小平太に、勘右衛門はさすが暴君委員長と心の中で呟いて苦笑いし、こんな暴挙をいつも繰り返す小平太と委員会中のみといえどもいつも一緒にいる滝夜叉丸を尊敬したと同時に苦労してるんだろうなぁ〜と口に出さずにしみじみと思い、うんうんと頷いた。

「勘右衛門が入ればきっと楽しくなるぞ!四郎兵衛も嬉しいだろ?」

「え?それは…まぁ、尾浜先輩が入ってくれると楽しそうだし嬉しいですけど…」

「というか尾浜先輩が体育委員会に入るのを鉢屋先輩が許すとは思えませんけど」

金吾の言葉に滝夜叉丸が「そうですよ!あの鉢屋先輩が許すとは思えません」と賛同し、これで七松先輩も諦めてくれるだろうと思ったのも束の間

「鉢屋がいいと言えばいいんだな?」

「えっ?あー、まぁ…鉢屋先輩がいいと言うなら」

分かった!と小平太が善は急げとばかりに駆け出して行ったその後ろ姿を今度は四郎兵衛も加わった三人が「しまった!」と慌てて追い駆けて行ってしまった為にその場には勘右衛門がぽつりと一人置いてけぼりをくらっていた。

「えっ、俺の意思は?」



グッバイさよなら俺の青春



(あ、尾浜先輩)
(三之助…)
(こんな所に一人で突っ立てどうしたんですか?)
(みんな俺を無視して話を進めていくんだ…)
(?)







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