「勘ちゃん勘ちゃん!」
「なぁに〜?」
「今日は5月1日、五いの日なのだぁ〜!」
五月一日
「そんな訳で今日は俺と勘ちゃんを敬え」
「意味が分かりません。」
いきなり現れた勘右衛門と兵助の言動について行けずガシガシと頭を掻けば、兵助に連れられて来ただろう苦笑いを浮べる勘右衛門から、ごめんね?と矢羽音が飛んできた。
それから何で兵助がこんな事を言い始めたのかを勘右衛門と矢羽音で会話していれば案の定兵助が間に割り込んで邪魔して来やがった。
「勘ちゃんと矢羽音のやり取りをしていいのは俺だけだ!八左ヱ門は虫とでもしてろ!」
「出来るもんならやってやるわッ!」
はぁ〜…
兵助の勘右衛門好きは今に始まった事じゃないがここまで来るとウザいだけだと思うんだが、正直な話勘右衛門がどう思っているのかが気になる…
「勘右衛門は兵助と居て疲れないのか?」
「えっ?別にそんな事ないよ?」
「マジでか…」
兵助と居すぎて感覚が鈍っちまったんだな、可哀想に…
「で、なんだ?今日は語呂合わせで五いの日だから豆腐でも寄越せってか?」
「これだから八左ヱ門はバカだアホだと言われるんだ。俺がいつもいつも豆腐と言ってると思うなよ!!」
「言ってるだろ!?」
「まぁまぁ〜」
こいつ自覚ないのか?と厭きれていると、フンっと鼻を鳴らした兵助が自慢げというか得意げというか、どや顔でここに来た理由をやっと話し出した。
「今日は五い、つまり俺と勘ちゃんの日だ!だから俺と勘ちゃんが喜ぶ事じゃないと意味が無い。なので、豆腐屋に行って豆腐食べてそれから甘味屋に行って団子でも食べようと思う。八左ヱ門の奢りでな!」
「やっぱり豆腐じゃねぇか!!しかもなんで俺の奢り!?」
「それは三郎が言ってたから!」
「ほぉ〜、三郎がな…」
三郎…。
あいつにも絶対奢らせるッ!!
それから、早くしろと兵助に急かされながら私服に着替えて校門に向かうと既に三郎と雷蔵が私服姿で待っていた。
「遅いぞお前ら!どれだけ私と雷蔵が待ったと思っているんだ!」
「三郎ちょっと来い…」
「なんだ?もしかしてあれの話か?」
ニヤニヤと笑う三郎は、心得てますと言わんばかりに俺の肩に手を回しながら三人から距離をとるように離れさせた。
「これはチャンスだぞ八左ヱ門?」
「何がチャンスなんだよ?」
「何がって…。はぁ〜、お前はほんと何も分かってないな…」
三郎の言い方に少しムッとすれば、いいか?と更に密着し、こそこそと耳打ちしてきた。
「今日は兵助曰くい組の日、謂わば記念日だ。記念日とは斯くも人の記憶に残りやすい。
こんな日にお前が勘右衛門に好いところを見せれば勘右衛門の中でお前の好感度は上がり、八左ヱ門格好いい!と印象に残る事違い無し!」
「マジでか!?」
「…そんな訳で私と雷蔵の分も頼むぞ?」
「任せろ!」
まさか三郎が俺の事を思ってしてくれていた事だとは思わず一気に俺のテンションは上がり、グッと親指を立てる三郎に俺もグッと親指を立て、ここに来るまでの憂鬱な気分とは違い晴れやかな思いで学園の門を潜り街に繰り出したが、追々考えれば上手く三郎の口車に乗せられた気がしないでもない。