※23×17 中身だけVer.
※23×17シリーズとつながりはありません。
※事後





意識が浮上する。
夢と現実の間でゆらゆら揺れる意識を感じながら、珍しいなとぼんやり思う。俺は寝起きがいい方だから、普段ならこんな風に起きているのか眠っているのか分からない状態になることはなく、ぱちりと目が覚めてしまう。まあたまにはこんなのもいいかもしれない、と思いながらうとうとしていると、ふと布団の暖かさに気づいた。
布団とは暖かいものだが、この暖かさは違う。なんだろう、わからない。寝ぼけた頭で、重い瞼を持ち上げる。まだ寝ていたいと訴える身体は瞼を開くことも拒んだが、それでも眠気より好奇心が勝った。
「……しずちゃん…?」
視界に入るのは、目を閉じてすやすやと眠りこけているシズちゃん。そうか暖かいのはシズちゃんの体温か、と納得して、シズちゃんの寝顔を観察してみる。寝顔は穏やかで、普段俺を追っかけている時の鬼の形相と同一人物だとは思えない。こんな顔初めて…、いや、そういえば一度だけ見た。一瞬だったけれど、シズちゃんが屋上で昼寝してた時に。俺が近づいた瞬間覚醒していつもの鬼の顔に戻ってしまったから、こうしてじっくり見ることはできなかったけど。残念だったなあ、あのときももう少しシズちゃんの寝顔を眺めたかったのに。まあ、シズちゃんが俺の前ですやすや眠るなんてありえないだろうけど…、…あれ?でも、今シズちゃんは俺のすぐ近くでぐっすり眠っている。すぐ近くどころか、
同じ布団で…、……え?

一気に覚醒した。あわててシズちゃんから離れる為に起きあがろうとする。
「いっ…!」
しかし、鈍い痛みが身体を襲い、脱力して布団に逆戻りしてしまった。せめて、もの凄く近距離に居るシズちゃん(肌の暖かみを感じてしまうほどだから、まあ、つまり密着している)を直視しないようにとシズちゃんに背を向ける。というかなんで俺裸なの…いや今は考えないようにしよう絶対キャパシティオーバーになる。
改めて、自分の身体の状態を確かめてみる。今まで気づかなかったが、痛いだけでなくだるい。感じたことのない感覚だ。痛みとだるさで起きあがる気にはなれないが、しかし後ろにはシズちゃんだ。起きあがって離れたい。どちらも選びたくない俺が悩んでいると、背後から名前を呼ばれた。
「…臨也…?」
ぎくりと肩が跳ね、身体が強ばる。俺のよく知る声よりも穏やかで、少し掠れているが、それは間違いなく、
「起きてたのか…、身体大丈夫か?」
「…、し、シズちゃん…?」
シズちゃんの声、で。

シズちゃんは上からのぞき込みながら、シズちゃんに背を向けていた俺の肩をつかんでころんと仰向けにさせた。身体を固まらせていた俺は何の反応も抵抗もできずにただ仰向けに寝転がってシズちゃんを下から見上げる。シズちゃんは俺を見下ろして返事を待っているらしい。大丈夫かって大丈夫な訳ないだろ、痛いしだるいし、というかシズちゃんは何で俺と同じ布団で寝てるのさ!
「おい、臨也?大丈夫か?」
頭の中では疑問や不満がつらつら出てくるのに、何一つ言葉になることはなかった。
だって。だって、なに、なんなの、この、

「昨日無理させたからな…、今日は休みなんだろ?ゆっくり休め」

この甘ったるい空気!!


頬を撫でる手に、ただでさえ身体の痛みやだるさで動けなかった俺は、完全に動けなくなった。
「し、しず、しずちゃ、」
「あ?何だよ、何どもってんだ?」
どもるだろ!
つっこみたかったが、相変わらず俺の口は俺の意志通りには動いてくれないらしい。
「な、こ、…!!!」
なんなのこの状況、とか、ありえない、とか、何がどうなってこうなった?とか、言いたいことはたくさんあった。あったけど、どれもこれも今の俺は言葉にすることができない。パニックに陥りかけた俺を落ち着かせたのは、パニックにさせた張本人だった。
「落ち着け。何にキレてんのか知らねえが、落ち着かねえことには分かんねえぞ」
「……」
悔しいが、シズちゃんの言うとおりだ。俺は目を閉じて深呼吸をした。目を開いたら隣にシズちゃんはいなくて俺は服を着てて、なんだ夢だったのか今日は夢見が悪いなあ、で済めばいいのに、と思ったが、目を開いてもそこにはやっぱりシズちゃんがいて俺は服を着ていなくてああやっぱり現実なんだと打ちのめされることになった。

「落ち着いたか?」
「…おかげさまで…」
夢オチという希望を打ち砕かれ、俺は冷静になった。諦めたとも言う。
「んで、どうした?」
優しく、そう、優しく(ここ重要!)問いかけられて、俺は顔がひきつるのを感じながら問い返した。
「…シズちゃんこそ、どうしたの?」
「何がだ?」
「何がって…、おかしいじゃん。なに?何で俺シズちゃんと全裸で同じベッドにいるの?というかここどこ?シズちゃんはキレないし優しいし正直キレない上俺に優しいシズちゃんとか怖いんだけど!」
まくしたてると、シズちゃんは無言で眉を寄せた。言葉にするなら、『はぁ?何言ってんだコイツ』だ。それ俺のセリフだよ。
「何言ってんだ、手前」
やっぱり言った。
「そのまんまだよ!」
「…ふざけてる訳じゃねえみてえだから答えてやるが、ここは手前の家で事務所だろ。それと、前はともかく、今は手前が何もしなきゃキレたりしねえだろうが。同じベッドで寝てる理由なんて聞く間でもねえだろ?簡単に忘れられねえ程度にはヤったはずなんだが、足りなかったか?」

ここが俺の家?とか、『前はともかく』って今もそうだろ、とか、まあつっこみどころはたくさんあったんだけど、そんなの吹っ飛ぶくらいの衝撃がきた。
…………同じベッドで寝ている理由。聞く間でもないほど分かりやすいことで、それから、シズちゃんの発言の中の『やった』の変換が、なんかこう違う気がする。

嫌な予感しかしない。

しかし、嫌な予感というのは確かめたくなるものである。たとえば幽霊が背後にいるかもいれない、と思ったら振り向いてしまうように。つまりいないことを確かめたい、それが杞憂であることを確かめたいのだ。
例えそれが、杞憂でない可能性の方が高くても。

「…やったって、何を…?」

おそるおそる問いかけた俺に、シズちゃんはあっさりと答えてくれた。

「何って、せ」
「ごめんやっぱいい!!黙って頼むから!!!」

シズちゃんの口に掌を当てて無理矢理遮ると、シズちゃんは不快そうな顔をして俺の手首を掴んであっさりとシズちゃんの口から外した。そのまま、手首をベッドのシーツに押しつけられる。

「臨也」
「な、に?」
「本当に忘れてるのか?」
「忘れてるって…、何を?」

シズちゃんが俺のもう片方の手も柔らかく拘束する。完全に逃げ場をなくしたことに気づいて、どうにか逃げだそうと頭を巡らせるが、シズちゃんと目があってその思考も停止してしまった。

シズちゃんがイケメンすぎる。なんか、やたらえろい。
あのチェリーな雰囲気どこにいったの?

「…なあ、臨也」
「えっ!?なに!?」
「手前、いくつだ?」
「いくつって…年齢?何言ってるの、シズちゃんと俺同学年なんだから一緒に決まってるじゃん」
「…俺は23なんだが、手前、本当に23の臨也か?」
「……え?」

…23?
なんだそれ。俺、17歳なんですけど。

多分顔に出ていたのだろう、シズちゃんがやっぱりな、という顔をしてため息をついた。

「な、なに、どういうこと?」
「俺は23だ。で、手前も身体は23。中身は…、16か17ってとこだろ」
「俺、17だけど…、身体はってどういうこと!?」
「起きて自分の身体見てみろ…って、起きれねえんだったな」
誰のせいだよ、とつっこみたかったが、シズちゃんが俺の背とベッドの間に腕を入れて俺の体を柔らかく抱き起こしたので、その言葉は口から飛び出すことなく消えていった。やめてくれ、本当に死ぬよ俺。
俺の心情など知る由もないシズちゃんが俺の上半身を起こさせた。するりとシーツが体を滑り、俺の上半身を露わにする。

俺は自分の体を見下ろして顔をひきつらせた。
いや、だって、…明らかに情事の痕跡のある身体。感覚で分かってはいたが、視覚からくるのはまた違う衝撃がある。腕や胸が赤くなっている。鬱血痕…、いわゆる、キスマークだ。細かい描写は省くことにする。俺が沸騰する。
「多少は成長してんだろ?」
シズちゃんの言葉に、改めて自分の身体を見てみる。キスマークとかそういうのは無理矢理意識から追い出した。
言われてみれば、少しだけ成長している、気がする。正直衝撃的すぎるいろんなもののせいでそこまで考えられなかったが。
「…つまり、なに?この身体は23歳の俺だけど、意識は17歳の俺、ってこと?」
「多分な」
納得はできないが、しかし目の前で起こっている現実だ。受け入れざるを得ない。俺は今、6年後の世界にいるらしい。しかも、意識だけ。
一応現実を現実として受け入れると、ふと疑問が沸いた。
「シズちゃん、何で俺が17歳位の俺だって分かったの?普通、記憶喪失かなんかだと思わない?」
さっき俺が言ったことを思い返してみても、俺が17歳の俺だなんて思える要素はどこにもなかった。というか、もしかしたら今の状態だって、18歳から23歳までの記憶が抜け落ちているだけかもしれないし。
「いや、なんとなくな。仕草とか、態度とか、高校の時の臨也だったから」
そんなもの、普通は分からない。シズちゃんは23になっても相変わらずの化け物っぷりを発揮しているらしい。
「シズちゃん、本当に化け物だね。普通はそんなこと気づかないよ」
「悪かったな、化け物で」
シズちゃんは機嫌悪そうに眉を寄せたが、キレはしなかった。
キレないシズちゃんというのが新鮮で、俺は思わずシズちゃんをまじまじと見つめてしまう。
相変わらず髪は染めているらしく、人工的な金色だ。顔立ちは大人っぽくなっている、気がする。表情は少し不機嫌そうではあるが穏やかだった。
「…なんだよ?」
「いや、…23歳のシズちゃんてこんななんだなあ、って」
思わず手を伸ばして、頬にぺたりと手のひらをあてる。シズちゃんは嫌な顔をするでもなく、俺の手を受け入れていた。それをいいことに、俺はしばらくぺたぺたとシズちゃんの頬や腕を触っていたのだが(17歳の時とは、やっぱりなんとなく違う)、シズちゃんが俺の手を掴んだ為動きを止めた。腕を掴まれた時、握りつぶされるかと身構えてしまったが、シズちゃんは随分と手加減が上手になったらしく、痛みを感じるどころか柔らかささえ感じるような力加減だった。
「…臨也」
力加減ができるシズちゃんに驚いて、掴まれた手首を凝視していると、シズちゃんに名前を呼ばれた。手から目を離して、シズちゃんを見上げる。苦虫を噛み潰したような顔をしているのに、何故か頬が少し赤い。俺は首を傾げた。
「なに?」
「…そろそろ服着ろ」
「え、」
急になにを言うんだろう、と思った。直後、そういえば俺服着てない、と現状を思い出す。
シズちゃんをぺたぺた触ったり動いたせいで、シーツがめくれあがっている。先ほどあまり見ないようにしていた明らかすぎる痕跡を直視してしまい、慌ててシーツを被ろうとする。が、鈍い痛みにぼすんとベッドに沈むことになってしまった。
「無理に動かねえ方がいいぞ」
「……」

もう動く気力も話す気力もなかった。
だが、とりあえず一言だけ言いたい。

「死ね、シズちゃん」
「嫌だ」



17in23

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途中でオチを見失いました。



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