※季節外れのエイプリルフールネタ 今日はエイプリルフールだ。エイプリルフールにはろくな思い出がない。クソノミ蟲のせいで。 毎年毎年、意味のわからない悪戯をしかけてくる。しかも毎年がらっと趣向を変えてくるから、気を付けていても引っ掛かる。毎年変わらないことといえば、ノミ蟲への殺意が普段の何倍にもなること位だ。 今年は何を仕掛けてくるのか。自然といつも以上にノミ蟲の臭いに敏感になる。クソ、気分悪ぃな。ノミ蟲の臭いがぷんぷんしやがる。…と思ったら、黒いコートを見つけた。 目が合う。 「あ、シズちゃんおはよー」 「いざやてめええええ!!池袋には来んなっつってんだろうがあああああ!!!」 「やだなあシズちゃん、相変わらず短気だね。これだから君には会いたくないんだよね」 臨也は笑顔を浮かべているが、いつものむかつく笑みとは少し違った。 普段より邪気がない気がして、動作を止める。それを見て、臨也がきょとんと俺を見上げた。 「どうしたのシズちゃん。俺の顔になんかついてる?」 首を傾げて見せる臨也に、嫌でも警戒してしまう。 じとりと臨也を見ると、臨也はまた笑みを浮かべた。 「安心しなよシズちゃん。最近俺忙しくてさ、今年はエイプリルフール何にも用意できなかったんだ。だから今年は何もないよ」 「信用できるか」 「酷いなあ。まあ今日エイプリルフールだし、俺の言葉が信用ならないのも分かるけどさあ。シズちゃんって単純なくせに妙に疑り深くて嫌いだよ」 「安心しろ、俺も手前が大っっっ嫌いだからよ」 臨也はそれを聞いて、何故だか嬉しそうに微笑んだ。他の奴らから見たらいつもと同じ笑い方だろうが、俺は高校の時からこのノミ蟲と殺し合いしているからか、嫌でも気付いちまう。 「悲しいなあ、俺もシズちゃんのことは大嫌いだけど!もう殺したいくらい大嫌いだよ。俺の近くに居ないでほしいなあ!大嫌いなシズちゃんが近くにいると、苛々しちゃって仕事が手に付かないからさ!」 いつもと同じぺらぺらよく動く口に、ぶちっとどこかが切れる音がした。 「それはこっちの台詞だクソノミ蟲ィィィィ!!手前のせいでどんだけ俺が胸糞悪ぃ気分になると思ってんだ!死ね!!」 ちょうど隣にあった自販機を持ち上げ、ノミ蟲に向かってぶん投げる。 「あははやだなあ本当、シズちゃんてば短気すぎじゃない?」 笑いながらそれを避け、ノミ蟲は走り出した。当然俺は追い掛ける。 「シズちゃんこわーい!」 「うぜぇ黙れ死ね!!」 笑いながら俺の数m先を走るノミ蟲に向かって近くにあった看板を掴んで投げるも、ノミ蟲はひょいと避けてしまう。 「避けてんじゃねえよ死ね!!」 「避けるに決まってるでしょ?当たったら俺死んじゃーう」 「だから死ねよ!!」 ファー付きのフードがノミ蟲の動きと一緒に揺れている。 あそこ引っ掴んで捕まえて、ボコボコに殴り殺す、と決意しひたすらに追い掛けた。 追い掛ける最中も臨也の口は減らない。殺してぇ。 しばらく走っていると、臨也が路地裏にするっと入り込んだ。臨也を追って俺も路地裏に飛び込むが、臨也の姿はすでに見えなかった。どこかに曲がったんだろう。 「クソ、次見つけたらぶっ殺す…」 発散できなかったイライラを抑えながら、煙草を取り出す。煙を吐き出す瞬間、嬉しそうに微笑んだ臨也の顔が浮かんでまたむしゃくしゃした。 結局、仕事を終わらせて家に帰るまで何もなかった。家に何か仕掛けてくるわけでもなく、エイプリルフールの悪戯がないまま一日が終わった。忙しくて何も仕掛けられなかったというのは嘘ではなかったらしい。 あと1分もしない内に日付が変わる。俺は数年ぶりに比較的平和なエイプリルフールを過ごせたことで気分がよくなった。そんな時、携帯が鳴った。気分が良かった俺は、誰からの着信なのか確かめずに電話に出てしまった。きちんと確かめておけば、気分がいいまま一日を終わらせられたかもしれないのに。 『もしもーし、シズちゃん?』 昼間に聞いたばかりのイラつく声が聞こえて、電話をとったのを後悔した。 「…手前、何で俺の番号知ってやがる」 『シズちゃんたら、俺を誰だと思ってるの?』 情報屋の折原臨也だよ?と馬鹿にしたような声音で言う臨也の声に、携帯がみしっと音を立てた。 「何の用だクソノミ蟲」 『ひっどいなあ。エイプリルフールのネタばらししようと思ったのに』 「は?手前やっぱり何かやってやがったのか」 そう言いながら今日あったことを思い出してみるも、エイプリルフールのネタになりそうなことはなかった。もっとも、このノミ蟲なら俺に気付かれないような悪戯をすることなど朝飯前だろうが。 『シズちゃんが想像してるようなことはしてないよ。忙しかったのは本当だから』 「じゃあ何だよ」 『嘘ついてみようと思って』 「嘘…?」 今日は何か嘘をつかれただろうか。普段通りむかつくことを言われた記憶しかない。 『そう。嘘だよ。…大嫌いも会いたくないも、全部嘘だよ』 「…は」 『じゃ、用はそれだけだから。ばいばいシズちゃん!』 「はぁ!?おい臨也…っ」 呼び掛けるも、携帯からは無機質か音が響くばかりだった。 どういうことだ。大嫌いも会いたくないも嘘?それはつまり…、…いや違うだろ。嘘だっつーのが嘘なんじゃねぇのか? そう思って時計をみたら、00:02と表示されていて。 他の可能性に逃げられなくなった。そういや今日はやけに大嫌いだと言われた気がする。 「…クソっ…」 なんでこんな、顔熱ぃんだよ。 嘘つきの四月 (意味分かんねぇ!ノミ蟲のマンション行って問い詰めてやる) (あああ言っちゃったやめとけばよかったあ…!) === 季節外れですが、コメントいただいたのでアップしちゃいました。 結局両思いって話。無自覚だったシズちゃんと乙女臨也。 おそらくこのあとマンションでも一騒動あることでしょう |