※3000HITキリリク。
※相馬様リクエストの「(共演する前からお互いが好きな)シズイザで俳優パロ」です。
※いつも以上に別人です。戦争とかひとかけらもないです。









「明日は、−−−で−−−の…」

波江さんがつらつらとスケジュールを読み上げるのを聞きながら、俺は雑誌をめくる。
一応波江さんの声は耳に入っているし、スケジュールも頭に入ってはいくが意識の外だ。俺の目は雑誌に釘付けだった。

雑誌の中でインタビューに答えているのは、一人のモデル。近々俳優としても活動を始めるらしいけど。


彼の名前は平和島静雄と言う。
俺が、ただひとり憧れているひとだ。

きっかけは、彼が載っている雑誌を見たことだった。それを見たのは本当に偶然で、九瑠璃と舞流が俺の家に置き忘れていったそれをなんとなく開いた時に、彼を見つけた。
彼のまっすぐな眼差しを見た瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。愛想なんてかけらもない表情で、ただこちらを、正確にはカメラを見ているだけなのに、俺の心はぐっさり打ち抜かれてしまった。
気高い獣みたいな人だと思った。
世間では人気俳優として活躍中の俺だけど、きっとこの人は俺の手の届かないところに居るんだと思った。触れられない、汚せない人だと、直感的に感じた。
それ以来、俺は平和島静雄の出ている雑誌をこっそり買い集め、ひっそりとファンをやっている。おそらく俺が彼のファンであることを知るのは波江さんくらいだろう。

そして、きっとこれは波江さんも知らない。
直接会ったことは一度もないけれど、俺はどうやら彼に惚れているらしい。ただ画像が印刷されただけの紙にどきどきしてしまう程度には。
性格も声も嗜好も、外見とそこから推し量れる程度のこと以外何も知らないのに、好きになるなんて馬鹿げてる。一目惚れなんていうのはフィクションの中だけの話だと思っていたし、実際にあるとしてもまさか自分が経験することになるとは思っていなかった。しかし、やはり俺は彼が好きなのだ、困ったことに。
普段は穏やかだけど、キレると怖いらしいとか、あまり愛想のいい方ではないらしいとか、付き合いもあまりよくないとか、そんな風に人づてに彼のことを知るだけで浮き足立ってしまう。
彼と交流もなく、直接会ったことすらない俺にとっては、そんな噂や雑誌のインタビューを見るだけでときめいてしまうのだった。



「好きなものプリンだって、かぁわいいなあ」
「…貴方、本当に彼が好きね」

ぱたん、とスケジュール帳を閉じた波江さんが呆れたように言ったが、気にならない。こうして『平和島静雄』関連のものを読んだり見たりしている時はもちろんのこと、それ以外でも割といつもの事だ。それもどうかと思うけど。

「まあね。というか嫌いな部分が見つからないよ」
「そう、なら喜びなさい」

波江さんの言葉に、顔を上げる。波江さんは無表情のまま俺を見下ろしていた。喜ぶようなことがあるのか。この会話の流れだと、『平和島静雄』関連のことみたいだけど。

「何を?」

問いかけると、波江さんは淡々と言った。この後俺が受けるダメージなど知らず。きっと知っていても何も変わらなかっただろうけど。

「彼と共演することになったわよ」
「……え?」


ばさり。
雑誌が床に落ちた音が、やけに耳に残った。



***





折原臨也という名前は、至る所で聞くし、見る。
それは端整な顔立ちと文句なしの演技力で人気を勝ち取っている俳優の名前だ。
折原臨也は、画面の向こう側では豊かな表情を見せた。困ったように笑ったり、悲しくて仕方ないといった様子で泣いたり、女を口説く男の表情を見せたり、庇護欲をそそられるような弱々しい表情を見せたりする。
そのどれもがきれいで、醜いところなどひとつもない。それは、画面の向こう側で見せる表情すべてが、折原臨也のものではなく役柄のものだからだ。生身の人間ではなく、台本の中に存在する人間のものだから。

役柄の表情ではなくて、折原臨也の表情を見てみたいと思ったのはいったいいつのことだっただろうか。
そしてそれは、おそらく俺が折原臨也という人間に好意を抱いた時期と一致するのだと思う。
好意というのは、残念ながら憧れなどではない。本来なら女に抱くはずのそれだった。なにがきっかけなのかはあまり覚えていない。ただ、気づいたらそう思っていた。
初めこそこの気持ちを持て余していたが、最近では折原臨也の出ている番組を見る度に今まで感じたことのないような気持ちになることも慣れて当たり前になった。

ただ、折原臨也は俺にとっては遠い人間で、これからも関わることなどないと思っていた。だからこそ、こんな風に思っていることを受容できていた。

だから、初めての俳優としての仕事で折原臨也と共演することになったという話を聞いて俺が思わず携帯を握りつぶしてしまったのも仕方ないことなのだ。




***





俺にとって、『平和島静雄』は汚してはいけないというか触れてはいけないと言うか、ともかく好きだけど関わりたいと思う相手じゃなかった。
いや、関わりたいと思っていないという訳ではないけど、関わってはいけないという感情を自主的に持っているような感覚で関わりたくなかった。

けど、まあ俺も人間な訳で。本人が目の前にいれば、話してみたいと思ったりも、する訳で。



「はじめまして。平和島静雄くん、だよね?俺は折原臨也。よろしくね」

多分誰も気づいてなかっただろうけど緊張でがちがちだったはずの俺は、気づいたら笑顔で『平和島静雄』に手を差し出していた。






「静雄くんて、ドラマとかは初めてなんだっけ。じゃあ緊張する?」
「ええ、まあ…、それはやっぱり。折原さんは、緊張したりするんですか」

平和島静雄…静雄くん、と呼ぶことにしたので静雄くんと呼ぶ。静雄くんは、今俺の隣で缶コーヒーを握りながら俺と話をしている。
実物は思ってたより背が高くて、思ってたより穏やかで、あの獣の目は見せてくれなかった。まあそりゃそうか。初対面の人にあんな目を向けてたらあっと言う間に人間関係が崩壊する。
しかし、実物の破壊力も想像以上だった。内心はものすごく動揺しているし混乱しているしどきどきしているが、それを押し隠して俺は笑ってみせた。

「やだなあ、臨也でいいって。同い年でしょ?」
「いや、でも…先輩ですし」
「えー?…うーん。俺は、静雄くんと友達になりたいなあ、と思ってるんだけど」

友達、なんて。
友達になりたいと思う相手に抱く感情ではないものを、俺は持っているのに。
しかしそんな俺のことなど知るはずもない静雄くんは、目を見開いて、ぱちぱちと数回瞬きを繰り返した。

あ、かわいい。

……ってそれはないだろ…!いくら惚れてるとはいえ同い年の男に!
ガンガンと壁に頭をぶつけたくなる気持ちを抑えて、困ったような戸惑ったような顔でこちらを見ている静雄くんににこっと笑いかける。すると、ぴく、と肩を跳ねさせてすい、とさりげなく視線をそらされた。

そういう仕草やめてもうほんと可愛いから…!
静雄くんには見えない位置で拳を握りしめて耐えていると、静雄くんがそらしていた視線を戻して再び俺を見た。
目があった瞬間ににこりと浮かぶ笑顔は、もう癖のようなものだ。

「…あの」
「うん?」
「じゃあ、…臨也、さん」
「臨也でいいってば。敬語もいらないよ」
「でも…」
「俺がいいって言ってるの。…それとも、俺とは友達になりたくない?」

いやまあ俺もある意味友達にはなりたくないけど。友達以上になりたいっていうか。不純だなあ俺。
そんなことを心の中でつぶやいていたら、静雄くんが躊躇いながら、

「…臨也?」
「………っ………」

戸惑うように口にされた自分の名前に、俺は思わず口を閉じた。
自分の名前、たかが三つの音が、こんなに破壊力を持つことになるときがくるとは思わなかった。

「…あの、やっぱり、」
「静雄くん。俺も、君の呼び名変えたいんだけどいいかな?」

やっぱりやめた方がいいとかそんなことを言おうとしていただろう静雄くんの言葉を遮ってそう言うと、かまいませんけど、と返ってくる。

「敬語だめ」
「す、…悪い」
「うん。ねえ静雄くん。…シズちゃんって呼んでもいい?」
「………え」

いやそうな顔をされたが、めげない。

「だめ?」
「いや、だめじゃない、けどよ」
「それじゃあこれからシズちゃんって呼ぶね!あ、アドレスと番号聞いてもいい?俺のも教えるからさ!」
「はあ…でもこれ、借り物で」
「えっ、なんで?シズちゃん携帯持ってないの?」
「こないだぶっ壊して…新しく買うまではこれ使えって弟が」
「ありゃ。じゃあ変えてからのがいいかな?いつ買いに行くの?」
「まだ決めてま、…ない」
「そうなんだ?あ、俺と買いに行く?俺詳しいよ」
「いや、おり、……いざ、や、…は、忙しい、だろ」

たどたどしいながらも一生懸命に敬語を話さないようにする静雄くんもといシズちゃん。とりあえず今はたくさん喋って、呼び捨てと敬語なしを定着させよう、と決めた俺は、当たり障りのない話をしつつシズちゃんの情報を聞き出しながらこの話し方にも慣れさせるという一石二鳥を狙うことにした。シズちゃんと仲良くなる、を含めたら三鳥か。


シズちゃんと、挨拶ついでに立ち話くらいはするような仲になれれば、俺としては幸せだ。
まあ友達以上になりたいなーと思わないでもないけど、それは願いであって望みじゃない。
アイドルとの結婚を夢見ながらも恋人を作る女子高生にとってのアイドルポジション、が、俺にとってのシズちゃんだった。








それから数週間経って、俺とシズちゃんは仲良くなりはじめていた。
シズちゃんは俺に敬語を使わないことにすっかり慣れてくれたようだし、最近は短いながらもメールのやりとりができるようになった。

それに。
至福の時間も、出来た。



至福の時間とは、撮影中の時間のこと。
シズちゃんが演じる役と俺の演じる役は、あまり仲がよろしくない。よくよく衝突する俺達(の役柄)は、にらみ合いや口喧嘩をすることも多々あって。

つまり、シズちゃんのあの鋭い目が、俺にまっすぐ向けられるということだ。
演技の中での話だけど、最低だな、と吐き捨てられた時、俺はMじゃないのにゾクゾクしてしまった。いや本当俺マゾじゃないよ。ただ、その位に鋭い目線だったということだ。これは俺一人の意見ではなく、その場にいたほとんどが賛同した意見なので、惚れた欲目などではないことを追記しておく。
今まで演技などしたこともないというシズちゃんだが、演技は上手だった。上手というよりは、まっすぐというか。役が本人に合っていたのかもしれない。しっくりきていた、というのが正しいか。

しかし、演技中のシズちゃんは俺を睨み口汚く罵るというのに、演技の外となるとシズちゃんは相変わらずだ。
呼び捨てと敬語なしには慣れたようだが、いまだに俺への遠慮が抜けない。
シズちゃんはあれでいて結構真面目らしいから仕方ないかもしれないけど、俺としては非常に焦れったい。別に睨まれたい訳でも罵られたいわけでもないし今のシズちゃんの態度も嫌いじゃないけど、俺はありのままのシズちゃんが見たい。ありのままなら、睨まれても罵られても構わないし、今の態度だって遠慮からくるものでなければもっと素直な気持ちで受け入れられるのに。





まあ、少しずつ慣らしていけばいっか。

そんな風に思いながら、くるりと椅子を回す。
まだまだ時間はあるのだから、シズちゃんと仲良くなる過程も楽しむとしよう。



===
続きます。
すみません、思いの外長くなったので一端アップしました。
視点ころころ変わってすみません。

終わりが見えないぞ…。

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