※静→臨です
※臨也が静雄に興味をなくしたら。










路地裏で地面に押しつけて、その上に跨って殴りつけても、臨也は笑みを崩さなかった。いつもの嫌な笑みより、もっと嫌な笑い方だ。コイツが『愛すべき人間』のことを語っているときの笑顔だった。慈しみと哀れみと嘲りと愛情がごちゃ混ぜになったような笑い方。コイツを慕う人間に向けられたものだ。俺には、向けられなかったはずの笑み。
「何をしたって同じさ。君は俺の愛すべき人間だよ。何をされようと、俺は君を愛してる。君は人間だから」
「黙れ…ッ」
何度も殴りつけたのに、傷だらけの身体を庇うことも、腫れた頬に触れることもせずに臨也はただ笑って、喋った。殺し合いをしていたときならば逃げ道を探してさまよったであろう視線も、今はただ俺に固定されている。逃げる気すらないのだ、コイツには。そう思ったら無性に悔しくなった。ぎり、と奥歯を噛みしめる。
何故、コイツは俺を『人間』だと認識した?今まで散々、化け物だ怪物だと罵ってきたくせに。
何故。何故。
問いただしたくなる気持ちを抑える。そんなことを聞いて、何になる?

そんな俺を見て、臨也はふふ、と小さく笑った。慈む目で嘲る目で、哀れむように愛おしむように言葉を舌にのせる。
「今の君はとても人間らしいね。考えればいい、悩めばいい、そして俺にぶつければいいよ。それが人間だ」
「黙れっつってんだろ!」
思い切り臨也の顔の脇を殴る。地面がへこんだ。臨也はびくりともせず、そこに視線を向けることもせず、やはり笑った。ああ不愉快だ不愉快だ。何故、どうしてコイツは。
君は人間だよ、と繰り返し、言い含めるように口にする臨也に、どうしようもない苛立ちと不快感と、それから、虚しさが溢れてくる。
なぜ、と、それしか出てこない。どうして手前は。
唇を噛みしめて眉を寄せる。俺の表情をうっとりと眺めながら、臨也は楽しそうに笑った。
「化け物だったのに、いとも簡単に人間になれちゃうんだね。ああ、人間っておもしろいなあ。ねえ、平和島静雄くん」
「…臨也、…」
シズちゃん、と呼ぶその声が、そのふざけた呼び名が、嫌いで嫌いで仕方なかったはずなのに。

「なあに、静雄くん」

こうして俺の名を、甘く軽やかな声で呼ぶコイツが、嫌で仕方ないなんて。
ああしてふざけたあだ名を、時に楽しそうに時に苛立たしげに時にうんざりしながら呼んだアイツが、恋しくて仕方がないなんて。

「臨也、」
「ふふ、…静雄くん、君は―――」

甘すぎる微笑みが、向けられる『人間』への愛情が疎ましいなんて、俺にだけ向けられていた憎悪が嫌悪が殺意が、心地よかっただなんて。

「君は、俺を殺せないよ」
「……」

それらの意味を、答えを、今更に気づいても。

「大嫌いだ」
「愛してるよ」

もう、遅すぎる。





(欲しかったのは『愛』じゃない)

上辺だけのよりも
心の底からんでほしい


(「大嫌いだよ、シズちゃん」)



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シズちゃんに興味をなくした臨也。
小ネタで書いたら予想外になんかキタので書いてみた。

ハッピーエンドにしたい…が、無理そうだ←

と思ったけどやっぱりわたしはハッピーエンドが好きなので無理矢理静→(←)臨っぽくしてみた。












「最後にひとつ、教えてあげるよ」
傷だらけのはずなのに、そんな様子は微塵も見せずに立ち上がった臨也は、振り向いて俺を見て笑った。嫌な笑顔だ。『人間』に向けるものではなくて、『シズちゃん』に向けられていた、ムカつく笑い方で。
「…人間の静雄くんは愛してる。化け物のシズちゃんは愛してない。でも、」
ふっと表情を緩めた臨也は、何かを諦めなくてはいけなかったような、大事なものを落としてしまった子供のような顔で、また笑って、
「シズちゃんは、大嫌いで、だいすきだった」

それだけ言って、ふいと前を向いて走り去った臨也の頬で光を反射したものが、涙でなければいいと思った。






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おい静雄、追いかけろよ!
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