「…ただーいまー」
部活でへとへとに疲れた体を引きずるようにして家のドアを開ける。あぁ、早くシャワーを浴びてこの汗臭さから解放されたい…。体操服やら水筒やら教科書やらで無駄に重たいエナメルを床に放り、靴紐をほどこうと座り込むとふと男物の先の尖った革靴が目に入った。これがあるということはまさか…と顔を上げるとリビングのドアが開き、エプロンを身に付けた父親が満面の笑みで出てくるところだった。
「お帰りー!」
無駄にハイテンションな父親を見てただでさえ低いテンションがさらに下がった。さらさらと年のわりにはふさふさの赤髪をなびかせてシャンクスはわたしに駆け寄ってきた。
「は?え?なんで家にいんの?半年のロサンゼルス単身赴任はどうした?」
「ロサンゼルスで一人で暮らすの寂しかったから仕事ぱぱっと終わらせて日本帰ってきた」
「相変わらず無駄に有能だな!つーか帰ってくんなら一言連絡寄越せや!」
「久しぶりだなー!元気だったか?」
「久しぶりってお前がロサンゼルス行ってからまだ二ヶ月しか経ってねーよ。どうやったら半年の仕事が二ヶ月で終わるんだよ」
「厳密にはまだ終わってないけどな。有給すげーたまってたからそれ使ってあとはベックマンに任せてきた」
「最悪だな」
「そんなことより早くメシ食おうぜ!久しぶりに一緒に食えると思ったら嬉しくてたくさん作っちまったからさ!」
「あーそれは嬉しいんだけどお玉持ちながら踊るのやめてくんない。あと先にシャワー浴びるから」
「おう、じゃあ準備してっから!」
にこにこと嬉しそうにはしゃぐシャンクスを横目にバスルームへと向かう。また面倒くさい奴が帰ってきたと思いながら、わたしは肌にへばりついた汗をシャワーで流した。
父、帰宅する
「土産も買ってきたんだぜ!あとで一緒に見ような!」
「あーうん」
「それから写真もたくさん撮ってきたんだぜ!それもあとで一緒に見ような!」
「あーうん」
「どうだ、久しぶりの俺の料理はうまいか?」
「…あーうん」
「ていうかお前痩せたか?俺がいない間もちゃんと食ってたか?まさか菓子ばっか食ってたんじゃねーだろうな。いいか、お前くらいの年の頃はダイエットなんか考えずにちゃんと栄養あるもん食って」
「ああもう相変わらず本当に鬱陶しいな!うざさは健在か!つーかさっきから土産とか写真とかなんだよお前仕事に行ってたんじゃねーのかよ観光じゃんもはや!ただの観光じゃん!仕事しろよ!あとメシは相変わらずうまい!つーかマジ少しは黙ってくんない!?」
「…相変わらずツンデレさんだなあ、お前は」
「ニマニマ笑いうぜー!」