act 5

急に、広がったのは、暗闇。
どうしたいと、自分に、問いだした答えは、得られないまま。

次の瞬間、沖田の目の前に現れた光景は……。

自身の右手は、何かを掴もうと、宙に浮いている。
でも、その先には、何もなく、誰もいなく。

沖田は、反射的に、辺りを見回してみた。

直感で、彼は悟った。あの時代から戻ってきたんだと……。


(チャイナ………)

目の前に、居たはずの女の影を、沖田は探してみる。が、既にそこには居なかった。
でも、分かった。彼女は、ほんの僅か前には、そこに居たのだと。

誰でもない、彼女の残り香が、まだそこには、残っていた。

「チャイナ!」
沖田は、思わず叫んでいた。
暗闇の中、彼女が帰る道は、ひとつしかないはずだから。

すると、そんなに遠くもない、その場所から、微かに足音が聞こえた。
その足音は、自分をさけていた。
ついてこないで、そう言いながら、その場から、遠ざかっていく。

今の沖田に、迷いはなかった。







「待てよ!」

逃げるように、走り去る神楽の後を、走り、
彼が、この台詞を言ったのは、二度目。彼が、神楽の手を掴んだのも、今日、二度目。

「離すアル」

神楽が、この台詞を言ったのも……。

月明かりの下で、神楽は、俯いている。その顔は、さっきより、くしゃくしゃに、涙でまみれていた。
見られたくない。神楽の心は、そう沖田を拒絶する。でも、その掴まれた手を、振りほどこうとしても、沖田の手は、それを離そうとはしなかった。

今度こそ。

「俺に、話があるんだろィ」

言いながら、沖田の手は、更に、神楽の手を掴む力が増した。
離さない。まるで、そう言われているかの様に。それは神楽にも、伝わったようだった。

「離すア……」

「離さねえ!」

まるで、押しつぶす様な沖田の声は、儚げな、神楽のおねがいを、たった一言の言葉で、拒絶した。




なんで……?


思いながら、神楽は頭をあげた。

次の瞬間だった。
強く腕をひかれたと思えば、沖田の腕の中へと、強く、抱きしめられていた……。



なんで……?


神楽は、訳がわからずに、その腕から、逃れようとする。でも、それを沖田は拒んだ。
より、つよく、神楽を抱きしめた。その腕の中に、とじこめて、動くことさへ許さないとでもいうように、その華奢な体を、強くだきしめた。

神楽は、分からない。
なぜ、彼が追いかけて来たのかも、二度も、この手を掴んだのかも、なぜ、自分を呼び止めたのかも。
なぜ、この男は、こんなにも、力強く抱きしめてくるのかも…・・・
 
だって、こんなのまるで……。

「俺に……話があるんじゃなかったのか?」


あるよ……。

あったに決まってる。だから、あの手紙に、ささやかで、罰当たりの様な、恋心を忍ばせたんだ。
叶わない思いだと知りつつも、それを押さえきれない所まで来てしまった、想いを、告白しようと思ったから……。

でも、こいつは、それを拒んだ。

彼女の手は、緊張からか、沖田の服をくしゃりと掴んで、離さない。
できれば、逃げてしまいたい。この場から立ち去りたい。そう思ってるかもしれなかった。

その答えを、出そうか、出すまいか、この男の前で、出してしまっていいのか、神楽は揺れている。

「私は……っ」

泣き声にまみれて、なかなか出てこない。

「私は……っ」

言いながら、神楽の手は、沖田の腰に回されていた。この台詞を言っていいのかと、
間違った想いを、貫いてしまっていいのか……、
迷いながら、強く、離したくないと思う彼女の心は、沖田を離したくない、そう言っていた。







「好きだ」


頭上から聞こえてきた台詞を聞いた神楽は、信じられないものを見るように、顔をあげた。

「俺は、オメーが好きだ」

沖田からの、一度目の台詞も、二度目の台詞も、神楽には、ちゃんと聞こえていた。
聞き逃すはずがなかった。ただ、信じれないと、思っていただけ。

「オメーは、誰にも渡さねえ」

沖田の瞳は、真剣そのものだった。
でも、神楽には、意味が分からない。
だって……好きなのは、自分の方だったはず。

叶わない恋だなんて、初めから分かってて、好きになったのは、自分の方だったはず。
なのに、たった今、こいつから聞こえてきたのはまるで……。

力強く、抱きしめているのは……。

「おきた……」

腰にまわしていた神楽の手は、その手を離し、彼女より、15cm高い、沖田の首へと、まきついた。
ふわりと、神楽の体は、宙に浮く。
意図も簡単に、軽々と、沖田は神楽を持ち上げた。

二人の目線が、同じ高さに、重なった。

言っても、いいのだろうか?
この男へ向けた、ささやかな思いを、貫いても……?






「好き」

堪えきれない思いを、告白したのは、神楽。

「好きだ」

持っていたのに、気づかなかっただけかも知れなかった思い、ある男によって、その思いを知り、告白したのは、沖田。


嘘……? 本当……?
神楽は、まだ信じられない。だって、この男だ。あの沖田総悟だ。
あるわけない。

そんな神楽に、ふわりと、触れたのは、沖田の唇。


温かく、たった今、落ちてきた温度は、間違いなく、神楽に想いを届け、神楽の想いを届けていった。


あぁ、こいつ、ホントに……。

神楽は、おかえしだとばかりに、ささやかな甘い熱を、重ねた。





月明かりの中、ゆっくりとだけれど、甘く、二人の熱が交わった。



……To Be Continued…

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