act 2
沖田さん、神楽ちゃん、知らない?


彼は、彼女からの一言が、なければ、今日一日、そのことには、気づかなかったのだ。

第一、神楽は、今日、誰かと、大事な約束をしていた事。
第二、それは、彼女にとって、とても大事な約束だったということ。
第三、その約束は、一ヶ月前の、十四日に、していたと言うこと。
第四、その約束には、相手がいると言うこと。




まるで、なぞかけの様に出されたお妙からの言葉に、沖田は、はじめ、意味が分からずにいた。
けれど、頭の回転が速い彼は、すぐに、何のことを言っているのかを、理解した。
でも、それは本当なのだろうか? 謎解きの答えを出すことは出来たのに、理解はできないでいた。

相手は、あの神楽だ。彼の頭にはそうよぎった。


自身よりも、四つも年下で。
仮にも、御淑やかと言う言葉を、突きつけるには難しく。
どちらかと言えば、凶暴である。
そして、短気であり、人様の言うことは聞きゃあしない。がさつであり、手も早けりゃ、足もはやいときている。

今自身の歳が、22歳だと言うならば、神楽は、今、18歳だということになる。

「まだガキじゃねえか」

これが、沖田の率直な意見だった。
それでなくても、沖田自身、神楽の事を一人の女としてみているかと聞かれれば、それはまよわずNOときている。
神楽に対しての思いはと言えば、四年前に出会ったあの時から、何一つ変わってはいない。

今更敵だどうだと言う気はないが、よくいっても、好敵手、ライバルの類に分類できる女である。

確かに、身なりは相当変わったと思っていた。
頭のてっぺんから、つま先まで、まったくオウトツのなかった体は、今は、しっくりと女の体になりつつあった。

それに伴って、成長した心が、なぜ、どう転がって、そうなるのかが、彼には理解が出来ない。




思いながらも向けた足先。

その二階を見上げる。看板には、万事屋とかいてある。

その窓ガラスには、二つの影があった。
その影に、当然沖田は見覚えがある。一人は銀髪のくるくる天パー、そして、もう一人は、駄メガネだ、なんだと言われ続けられている男。

けれど、そこに、もうひとつあるべき影がない事に、沖田は気づいた。
もしかしたら、ただ、そこには居ないだけかもしれない。
あの娘の事だ。風呂に入っているかもしれない。もしくは、小腹がすいただなんだと、どこぞ近くのコンビニにでも行っているやもしれん。
そんな事を沖田が考えながらも、その窓から覗く影を追っていると、ほんのすぐわずかそこから、コンクリートの上を歩く、足音が聞こえた。

月明かりの中、まもなく見えてきたのは、女の影。

はじめ、彼には、分からなかった。

幼さの残る、いつものお団子頭は、夜の風になびかれ、その淡い撫子色を揺らし、その暗闇の中、月明かりに、浮かび上がってきた面影を現すまで。


沖田


多分、俺じゃなければ、聞こえなかった。

そう彼が思うほどに、神楽から出てきた言葉は儚く、小さかった。



チャイナ


多分、神楽には、聞こえなかったと思う。
ほんのわずか、動いた沖田の唇から出た、言葉は。





二人の間に、一時の沈黙が流れた。
その空気は、俗に言う、気まずさと言えるものである。

なんせ、あの約束から、まるまると、今日で一ヶ月経過していて、沖田によって、それは、放置されたままである。

沖田の手元には、あの日、神楽が渡した手紙がある。それはお妙によって、導き出されたもの。
神楽から渡されたプレゼントの中に、密かに忍ばせてあった、彼女の淡い気持ち。
初めて出すであろう神楽からの、可愛げのない、完結な文章。でもそこには、ほんの一握りだけれど、沖田への思いを託して。その約束へと募った、確かな神楽からの気持ちだった。

「おい」

やっとの事で、沖田から出てきた言葉は、なんとも簡素な言葉だったけれど、今の彼には、これが精一杯の態度。

神楽への気持ちが、どうとか、今からどんな話が彼女から出てくるのだとか、約束を放棄してしまったバツの悪さだとか、まだ沖田には、分からない事だらけで、
だから、今の言葉が、沖田の精一杯の言葉だった。







そんな沖田の横を、神楽は素通りした。


「待てよ」

その右手を、沖田が、掴んだ。

神楽は俯いたまま、その視線を沖田に合わそうとはしない。

彼女の手を掴んだはいいものの、正直、どうしていいのか、彼は分からない。
だから、神楽に、かける言葉につまってしまった。

「離すアル」

俯いた神楽から、そっけなく、でも、どことなく悲しくて、切なさを交えた声が沖田に届いた。

確かに神楽にかける言葉は見つからない沖田だったけれど、でも今ここで、神楽の手を離してはいけないくらいは分かった。
「俺に話しがあるんじゃなかったのか?」

「そんなもの……もぅ……ないアル」

なんて、儚げな声をだすのだろうか。
今にも泣きそうで、でも、悟られまいと、必死にこらえている声そのものだった。
でも、それをこらえきれないと、涙が神楽の頬に伝った。

神楽への感情なんてない。
手を差し伸べるべきじゃない。
触れてしまっては駄目だ。

なのに、沖田の手は、神楽の顔を、自身の方へと向かせた。

「――――――――――――っ」





俺は、こいつのこんな顔なんて、知らねえ。




……To Be Continued…

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