その後 act 3

「――――き」

神楽の口から、微かに聞こえた声は、果たして本物だったのだろうか。

確かに二人の思いは、あの時、あの瞬間、通じたはずだった。

負けん気が強くて、意地っ張りで、女らしくなく、泣き虫で、でも、人に優しくある神楽が、自分の想いに応えてくれた瞬間だった。

なのに、今でも、彼女を手にいれた様な気がしない。
神楽は、普通の女とは違う。
自分の思考を遥かに超える生き方をする女。

なかなか手に入らないからこそ、面白い。そんな風に思っていた自分が、なぜ、いつから、手に入れなければきがすまなくなってしまったのか。
その想いを、貫こうと思ったのか。

神楽の唇に触れたあの瞬間、世界が変わったと本気で思った。
なにげない日常が、一人の女の存在で、こうもかわるもんかと。



あの日、名残惜しくも別れてからすぐ後、隊の一ヶ月の遠征が決まった。
とは言っても、単なる山篭り。
体力作りをしようじゃないかと、近藤の突拍子もない案を通しただけ。

離れるのが、不安な訳じゃなかったけれど、それまでの自分を考えると、どうこうする気にもならなかった。
最初は。

でも、すぐに物足りなさを感じた。
ほんのふとした時、神楽の横顔や、笑った顔、怒った顔が頭に浮かんだ。




だから神楽へ、手紙を出した。
出した瞬間、そうしている自分が信じられなかったが、そんな風に変わった自分を身近に感じ、けっして嫌じゃない事にも気づいた。

しかし、神楽の返事は返ってこなかった。
もっとも、彼女に、そんな知識があるのかも不思議だったので、あまり期待していなかったと言えば、そうだったけれど。





「やっぱり、あんな奴……好きになるんじゃなかったアル」




そんな事を考えながら、なんとなく、あの場所へと足をむけると、聞こえてきた言葉に、一瞬、沖田の足が止まった。



けれど、次の瞬間には、神楽へと、声をかけていた。

「おい」

だが、神楽は、気がついていないらしく、自分の言葉は、あっさりと無視された。

「おい」

二度目の声で、やっと気づいた神楽は、自分の事を見て、さも信じられない、そんな表情をさせた。

やはりと思っていたが、神楽には、手紙が届いていないらしい。表情を見ればすぐに分かった。
なぜ、お前がここに居る? そう問いただしたいと顔に書いてある。

更に言えば、確かに自分達は、一線を越えたはずなのに、気にくわない呼び名に、彼女の口を覆っていた。



だけど次の瞬間、沖田は、信じられない物を見た。



自分の事が恋しいと、恋しかったと、目の前の女が泣いたのだ……。

気がついたら、勝手に体が動いていた。

「バカじゃねえの? お前」

体の中で、ふるえ泣く神楽を抱きしめた瞬間、なぜか勝手に、言葉が出てきた。

チャイナでもなく、クソガキでもなく、彼女の名前を呼んだ瞬間、思いが溢れた。
そしてそれは、神楽も同じだった。

「ほんっと、オメーって馬鹿」

それは自分も同じ。笑えるくらいに、目の前の女が愛おしいと思う自分がいたのだから。

逢いたかった、触れたかった、声を聞きたかった……。

思う事はあまりにもありすぎて……。

一ヶ月ぶりに触れた神楽の唇は、前よりも、もっと、ずっと何倍も――――。





「会いたかったアル、総悟」

恋仲になって、今日初めてよばれた自分の名、認めてしまうのが、しゃくだとか、格好悪いとか、目の前にいる神楽を見て、沖田が思えるはずはなく。柔らかい自分の本音が出てきてしまう。

「俺も」



聞こえた台詞が、信じられなくてか、聞きたくてか、もう一回言って、そう神楽がシャツを引っ張った。
もう一度、いう気にはならなかったけれど、少しでも、思いが神楽に伝わるのならば、らしくなくも彼が思った行動は……。













FIN







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