act 54

約束の時間まで、あと十分……。左手首にある腕時計に目を落としながらミツバは胸を高鳴らす。

【話がある。】
簡潔に、土方の携帯の液晶画面から送信された言葉の意味を、今朝、ミツバはお妙に相談しようと電話した。その言葉の意味に、期待をしてしまう自分と、焦っては駄目だと抑える自分がいる事。
彼から、こんな言葉を貰って、どう解釈していいのか分からなくて、混乱している事、でも、胸が高鳴って仕方ないって事……。

時刻は、PM 7時半、になる少し前。
彼から指定された場所は、一番のお気に入りの店であるレストラン。
とは言っても、まだ行った事はなくて、あくまで、ミツバがあこがれていた、一度、二人で入ってみたいな、そんな風に夢見ていた場所。

そんな場所を二人の待ち合わせの場所に選んだ、土方の思惑が、まだ期待半分信じられなくて、余計にドキドキと胸は高鳴ってしまい。

もういちど、時計に視線を落としてみる。
約束の時間の二分前。

彼が約束の時間に送れてきた事は、ほとんどない。
どんな時だって、ドキドキしたけれど、今ほど緊張していた時は……。


「ミツバ」

やや低めの、いつもの彼の声が自分を呼んだのに気づいたミツバは、ふわりと頭をあげ、微笑んだ。

「十四郎さん」

柔らかいミツバの髪が揺れた。自然体の彼女のしぐさだけれど、これは土方のお気に入りのひとつだったりする。

忙しい仕事の合間、たまにする、こんなデートの日。
ふと見せる彼女のしぐさに、何度救われたか分からない。自然と土方の表情にも、少しだけれど、笑みがこぼれた。

ミツバと土方は、神楽達のような、焦がれるような愛し方を、目に見えて表せない。
あくまでも自然態で、ナチュラルに。そのほとんどの部分は、ミツバがつくりだしていると言っても過言でなく。
無愛想だ、なんだと言われている彼が、彼女の側でしか見せない面も多く。

怒鳴り声をあげているあの彼とは違った、自分の前だけに、さらされる一面。それがある事を、実はちょっと自慢だったりするミツバ。

「いくぞ」

言葉数は少ないけれど、沖田の様な、高杉のような、そんな愛おしさとは、また別格の蜜を、ミツバにだけ注いでいく。

「はい」

そんなひとときが、ミツバには、今、とっても大切な時間だったりする。


ミツバの指先が、そっと、土方の掌に当たる。
長い間、彼と付き合ってきたけれど、二人きりでいるとき、これが、彼女なりの、精一杯の甘えのサイン。
それを、土方の大きな掌が、そっと包み込む。

きゅっと、ふたつの掌が重なった。

俯き加減のミツバの表情が、ふわりと、ほころんだ。

暑かった、あの日の午後、神楽達と部屋に集まって、結果を聞いたあの日から、日付は変わって、ミツバのお腹の中の赤ちゃんは、今日で、実は七ヶ月を迎える。
お妙と一緒に、買った、真っ白い、ダッフルコートに身を包んでも、その姿は、あの頃とは変わった。
それは土方との間に出来た赤ちゃんが、すくすくとミツバのお腹で育っていると言う事。

季節は、12月を迎えて、耳を傾けると、子供が好きそうなクリスマスソングが、もうすでに流れ始めている。
でも、二人の繋がれた掌から伝わる温もりは、あったかくて……。
ぶっきらぼうで、口が悪い土方が、


何てミツバにプロポーズしたかは、秘密の話。







・・・・To Be Continued・・・・・



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