act 22

沖田の目の前には、目を見張る様な料理が並んだ。
その沖田は、終始唖然としている。
神楽は、元々作っていた料理に、更に一品追加させた。
沖田の視線の先に映る神楽の姿は、一切無駄が無かった。これが、本当に、あのガサツだった神楽かと、信じられなかった。

もしかすれば、これも人格が違うせいなのか? 正直そうは思っていたが、調味料の数や減り具合、その慣れた手つきを見れば、みるほど、元々神楽は料理がうまかったのかと感心してしまった。
そういえば、神楽の弁当にならぶオカズだって、今にして思えば、冷凍食品など、ひとつだって使われていなかった。全て神楽の手作り……。

そう考えると、沖田の心は、嫌でも躍った。

「――つーか、スゲェな」
沖田の言葉に、神楽は得意げに笑ってみせた。
「銀ちゃんがね、一人ぐらしするなら、料理をしないと生きていけないって言ったアル。でも、私やっぱり料理なんか作れなくて……。そしたらね、銀ちゃんが、料理教室に通えってお金出してくれたアル」

なるほど。
沖田は納得した。料理教室で習得した腕ならば、折り紙つきだろう。
神楽が沖田に箸を渡したので、沖田はおずおずとその料理に手を付け……絶句した。

美味い。
本当に美味い。
文句のつけようがない。
ちらりと神楽を見てみれば、何だかんだ不安そうに沖田を見ている。
これだけの料理の腕前を持ちながら、それでも不安げなのは、やっぱり好意を寄せている人間に、どう思われているかと気になる様だった。
しかしこんなにも見つめられると、かえって沖田は答えずらかった。
確かに美味いにも、関わらず。

「ど、どう……アルか?」
素直に美味いといえばいいのだ。美味いのだから。しかし滑った口から出た言葉は、「まぁまぁ」だった。

別に拗ねている風ではなかった。けれど、神楽自身、多少なりとも自信があったのだろう。
沖田の言葉を聞くと、「そうアルか」と笑った神楽だったけれど、苦笑いだった。

その後も、黙々としてたが、食事は続いた。
神楽が気をつかい、沖田に話題をふっかけては見るが、沖田は激しい後悔で、それどころではなく、適当に相鎚をうった。それが更に二人の雰囲気を悪化させた。

神楽はさっさと食事を終わらすと、カチャカチャと食器をさげた。
そして、沖田の前の食事も、さげようとした。
しかし、その皿を、沖田が無言で引きとめた。瞬間、神楽と目があった。
「あのっ……これ、下げちゃおうって――」
「食いまさァ」
神楽の口が開く。そこから言葉を発する事はなかったけれど、確かに驚いている。
「腹へってるし……だから置いといてくれやせんか?」
「でも……」
そらした神楽の視線から、微妙な雰囲気が伝わった。
「美味い……と思う……つーか……まだ……食いたいっつーか――」
神楽が、沖田を見た。沖田自身もそれに気付いてるはずだった。
だが、正直恥ずかしくて堪らないのだろう。沖田は、うなじを掻くと、神楽から目をそらしたまま、何事もなかったかの様に、箸を進めた。
沖田が、今、何を考えているのかは分からない。

沖田に背を向けた神楽は、蛇口をひねり、食器に水を浸す。

二人の間に、会話はない。
けれど、黙々と箸を進める沖田の顔も、ひたひたになる、その水を見ている神楽の顔も、淡い恋色に染まっているのを、神様だけが見ていた……。


・・・・To Be Continued・・・・・

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